彼女? 彼氏?
いつもならあまり利用する人が多くない図書室は、意外と席が埋まっていた。
「試験前だからか? 結構人がいるな」
「そういう私達だって同じでしょ」
「だな」
清雅と図書室に来たのは、テスト勉強をする為である。
大型連休も終わり、制服の上着が暑くなってきたこの頃だ。
適当に空いていた席に向かい合わせに座り、バッグからノートなどを出した。
「そういえば、葵衣は成績いいのか?」
「普通じゃないかな? 清雅は?」
「俺もそんなもん」
「そうなんだ」
「ああ」
その後はあまり会話もなく、互いに試験範囲の問題を黙々とこなしていくと、振動で顔を上げた。
どうやら清雅の携帯に連絡が入ったらしい。彼は画面を見ると「げ」と顔をしかめた。
「どうかしたの?」
こそっと問いかけると、未だに振動する携帯を見せられた。
『愛原 姫奈』
知らない名前だ。彼女か?
「? 彼女?」
「違ぇよ! こんなんが彼女で堪るか!」
途端、声を張り上げ立ち上がった清雅に室内にいた生徒たちがこちらをに振り向く。
「ちょ、清雅! すみません、お騒がせしました」
変わりに謝ると清雅もバツが悪そうに「すみません」と謝った。
だが、ここには居づらくなった為に教科書やらをバッグに詰めて、図書室から逃げるように退室した。
未だに震える携帯を眺め、出ないの?と聞くと出ないとあっさり答えた。
勉強はどうするかと考えていると、清雅に腕を掴まれ、物陰へと押し込まれた。
「なっ、「わり、ちょっと黙ってて」」
何事かと大人しくしていると、パタパタと足音が聞こえてきた。
「赤也くん、清雅くんは図書室にいるって本当?」
「図書室行くって言ってましたからね。ってか、姫奈先輩〜、なんでキヨも呼ぶんスか〜、どうせなら俺と二人っきりで〜「おーい、姫奈〜と赤也」げ、丸井先輩。なんスか?」
見れば、丸井先輩までが現れた。
というか、あれが噂の転校生な訳だ。
ツインテールの美少女だ。スタイルもいいっていうか、あれ、中学生の体型?胸、ありすぎでしょ!
「あ、ブン太。せっかくだし、清雅くんもいた方がいいかなって思って呼びにいこうかなって」
「キヨなら、さっき仁王に連絡着てたぜ。用事あるから先に帰るってさ」
プクーとガムを膨らませてる丸井先輩の声を耳にしながら、顔を上げると、清雅が彼らの様子を静観している。
いつのまに連絡していたのか分からないが、あの転校生はテニス部と仲を深めているようだ。
「え、そうなんだ。私、電話したけど出てもらえなかったのに」
「用事があっから気づかなかっただけだろぃ!早く戻ろうぜ、真田の雷が落ちる前によ」
「げっ!早く戻りましょうよ、姫奈先輩!」
「う、うん。そうだね」
三人はそう言って、やってきた方へと歩いていった。
角を曲がったのを確かめてから、息を吐いた。
「行ったみたいだよ」
「あぁ、…………なんか、悪かったな」
「さっきの人が転校生でマネジャー候補って事?」
問いかけると、疲れたように頷く清雅に首を傾げる。
何をそんなに嫌がることがあるのだろうか?
美少女だし、スタイルはいいし、性格は……全く知らないけれど、ああも一癖も二癖もある切原や丸井先輩が慕っている?なら悪くもないのではないか?男子的には。
女子的にはあまり受け入れられない感がある。
噂では聞いていたから、何となく納得出来る。
清雅を見ると、ガシガシと色素の薄い頭を掻いていた。
移動しよう。と提案され、頷くと学校から出ることにした。
近くのファーストフード店に寄り、勉強はするはずもなく、清雅が話し出すのを待とうかと思っていると、おもむろに彼が口を開いた。
「俺、あの人苦手なんだよ」
あの人とはさっきの転校生で間違いないだろう。
「なんで?」
「なんつーか、得体の知れない所っていうか、なんつーか」
ズズっと飲み物を吸いながら、そんなこと言われても。と清雅を見つめた。
とにかく、清雅にとっては、あの転校生先輩は鬼門かなにかなんだろう。
しかし、得体の知れない所って……私達だって似たようなモノなのに……ん?
「どうかしたか?」
「え? あ、う……おわっ!?」
「どうした?」
「ごめん、携帯のバイブにびっくりしただけ」
「んだよ」
ごめんごめん、と謝りながら携帯画面を見ると、姉からだった。
『テストで成績良かったら、欲しがってた例のアレ買ってあげるわよ。頑張って!』
メールを見て、葵衣は目を輝かせた。
「なんだよ、ニヤニヤ笑いやがって」
「うん? 別に、気にしないで」
それでも自然と笑みが溢れてしまうのは仕方ない。
訝る清雅を余所にわくわくしていると、神妙な顔で彼が問い掛けてきた。
「彼氏からか?」
「彼氏ぃ? んな訳ないじゃん。お姉ちゃんからだよ」
「え、姉ちゃんいんの?」
「うん、十個上だけどね」
「結構、離れてんだな」
「まぁね。優しくて大好きなんだ」
そこからメールの内容を話せば、餌をちらつかせられてやんの。とか言われたが気にしない。
そんな他愛もない会話をして、今日はお開きになった。
駅で別れ、家路につく途中、清雅から『彼氏』と言われたのを思いだし、何がどうなってそうなったんだと、疑問を抱いた。
しかし、ご飯を食べる頃にはすっかり忘れてしまった葵衣だった。
act.5
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