テスト勉強中

テニスの王子様

テストも近づき、自室で勉強をしていると、辞書を学校に置き忘れてきたことを思い出した葵衣は「うあぁ」と項垂れた。

「テストだってのになにやってんだ、私」

一人愚痴を溢しながら、でも電子辞書があるし。持ち運びにはこれよ。とバッグの中を漁ってみる。何故か、ない。
え?なんで?あれはお祖父ちゃんが入学祝に買ってくれた万能・電子辞書なのに!
え、え?と探していると、ベッドヘッドに置いてある携帯がズガガガガと震えた。
バイブにしていたせいか、木の部分に当たってやたら大きな音がする。
画面をみると『せーが』と名前が出ていた。

「はいはい、もしもしー?」

『ああ、葵衣。オレオレ』

「詐欺は遠慮します」

『違うっつの! 清雅だ、清雅』

「はい、知ってます。で、どうしたの?」

かなり下らないやり取りをしながら、問い掛けると、なんていうことでしょう!
ないと思った電子辞書が清雅のバッグに入っていたとか。なぜだ。

『どうする? 持っていくか?』

「う〜〜〜〜ん……とりあえずは明日でいいよ」

『使うんじゃないのか?』

「まぁ、今まさに使おうかと探していたけど、今日はもういいさ。兄から借りればいいし」

そういえば、肝心の兄は帰ってきているのだろうか?
そんなことを考えながら、隣の部屋の気配を気にするが、うん、分からない。
とりあえずは清雅に辞書は明日にしてもらい、電話を切った。
いるかいないかは分からないが、辞書を借りようと葵衣は部屋を出た。
目指すは隣の部屋である。
コンコンとドアを叩き、声をかけた。
気配を辿るがいるのかいないのか分からな「葵衣か、どうした」いきなり背後から現れるの止めて。

「お兄ちゃん、辞書貸してもらえるかな?」

「ああ、構わない。学校にでも忘れてきたのか?」

「うん。そうみたい」

「電子辞書はどうしたんだ?」

「友達に貸しちゃってそのまんま。明日、返して貰うんだけどね」

「ほぅ……」

フッと笑いながら、わざわざ私の頭を一撫でして彼は部屋へて入っていった。廊下で待っていると、彼は振り向いた。

「どうした、入らないのか?」

「へ? なんで?」

辞書を借りにきただけなのに、何故わざわざ部屋に入らなくてはならないのだろうか?
首を傾げていると、頭上からため息が聞こえた。
というか、背高すぎるよね。180cmあるんだっけ?
見上げると、細い眼に捕らわれた。

「英和でいいか? 何か分からない所があれば教えるが」

「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」

両手を出して辞書を借りると、兄がそんなことを言ってきた。
別に今更、勉強を見てもらおうなんて思わないんだけど。
私には私のペースってものがあるんだし。しかし、兄はいつもそんな事を言ってくる。
いや、中学入ってからだったからかな?
「そうか……」とやや俯く兄に若干申し訳なく思いながら、部屋に戻ろうと考えると、横から声が掛かった。

「アンタたち相変わらずなのね」

「姉さん」

「お姉ちゃん!」

突然の姉の登場に驚きを隠せなかったが、当の本人は「ただいま〜」と呑気な声を出している。
葵衣は嬉しさに姉の百合子に抱きついた。

「お姉ちゃん、どうしたの? 今日来るなんて聞いてないよ?」

「ああ、仕事の着物足りなくて取りに来たの。またあっちに戻るけどね」

「え〜、そうなの?」

すぐに帰ると言われ、思わずぶぅと頬を膨らませると、ぶっ!と空気が漏れた。ついでに頬が痛い。
何故か兄が人の頬に、人差し指を押し付けている。地味に痛いのよ、これ。痛いのよ、大事だから二度言うよ。

「何するの、お兄ちゃん」

「…………なんとなくだ」

痛みでじんじんする頬を擦ると、姉の百合子がブッ!と吹き出した。
なにごとですか、お姉ちゃん!
見上げると、ふふふふふ、と笑っていた。

「…れ、蓮二っ、アンタって、本当に、葵衣に構って貰いたい、のね!」

「…………黙っててくれないか、姉さん」

笑いを堪えながら話す百合子に、蓮二はそっぽ向いて答えていた。
記憶の中の、原作での『柳 蓮二』とはやはり違う。家族だからだろうか?
そう思うとやはり不思議で堪らないのだ。
どんな態度を取ればいいのか分からなくなる。
困った、どうしよう、と考えていると、階下からお母さんの声がした。

「ご飯よー、降りてらっしゃい」

夕飯が出来たらしい。姉が「はーい」と答えたので、慌てて声をあげた。

「私、部屋に辞書置いてくる。お兄ちゃん、ありがとう」

「あぁ。先に行っている」

またフッと微笑して、頭を撫でて彼らは一階へと降りていった。
葵衣は自室に入ると、机に辞書を置き、息を吐いた。
そして、ぐっと顔をあげると夕飯を食べる為に部屋を出たのだった。



act.6


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