噂の汁

テニスの王子様

午後からも練習尽くしの彼らは各自ラケットとタオルを持って出ていってしまった。
暇になった私は何故か氷帝の監督 榊先生に好きに見回ってもいいと言われたので、ホテル内をぐるぐる彷徨っていた。
聞いてみたら、合宿所ではなく榊先生が友人たちとパーティーなどをする場所らしい。ホテルよりは別荘。でも別荘ってレベルじゃないよね!
金持ちはよく分からない、うんうん。と頷いているとコインランドリーみたいなとこに出た。
そこには山のようなタオルがあり、いってみれば汗臭い。

「……………う、わぁ…」

見なかったことにしたかったが、何やら見覚えのあるタオルが目に入る。よく見るロゴはリョーマくんが愛用しているメーカーだ。
うー…と考えた梨麻は腕まくりをして、その部屋に入っていく。
大物洗いの洗濯機だろうが、使い方はほぼ同じ。タオルを突っ込み、洗剤と置かれていた消臭効果のある漂白剤、柔軟剤を入れてスイッチを押した。
ゴゴゴと動き出したそれは、よく聞く洗濯機の音に変わり、じゃぶじゃぶとタオルを洗い始めた。
なんとなく良いことをしたと頷いていると、声を掛けられた。

「おや、野原じゃないか。こんなところで何してんだい?」

「竜崎先生……」

「おや、ここにあったタオル知らないかい……って、洗濯機回してくれたのかい?」

ゴウンゴウンと動いている洗濯機を指差す竜崎先生に「余計なことしたかな…」と眼を泳がせていると、笑い声がした。

「そんなに畏まらなくていいよ。やってもらってこっちは大助かりだよ。ありがたいよ」

「え、あ……すみません、勝手に」

「いいよ、いいよ。しかしやっぱりマネージャーを連れてくるべきだったよ、奴ら全く洗いもしないから溜まっていってね───そうだ、アンタ、臨時マネージャーしないかい?」

「へ?」

「まぁ、マネージャーと言ってもタオルの洗濯と、そうだね、ドリンクも頼みたいね」

「ドリンク…? でも乾先輩が…」

「あれは汁だからね、ドリンクにはならないよ」

なぜか竜崎先生は遠くを見つめながら言った。先生も犠牲になったのだろうか?
リョーマくんから聞き、お兄ちゃんたちも苦笑いをしていた『乾汁』とかいうのは。

「でも、ドリンクとかは味がよく分からないので……洗濯くらいなから構わないです」

「そうかい? じゃあタオルを頼むよ」

「あー、はい」

バシバシと叩かれ、背中が痛かった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


タオルの洗濯、乾燥を終えた私は黙々とタオルを畳んでは、積み上げていく。

「えーっと、こんなもんかな…」

ぶつぶつとタオルを数えて、カゴの中に入れて行く。
ぶっちゃけリョーマくんのタオルしか分からないけど、持っていけばなんとかなるだろう。

「………うわぁ…」

あまりテニスの練習風景を見たことがないけど、こんなにテニスってすごいんだね。

「おらぁっ!」

「そのサーブ、消えるよ」

「菊丸バズーカー」

「俺様の美技に酔いな」

「飛んでミソ」

「下剋上だ…」

「天才的ぃ」

「アンタ、潰すよ」

「レーザービーム」

「プリッ」

「微温いわぁ!」

訳の分からない光景を目にし、梨麻は持っていたカゴを地面に下ろした。
テニスってあんなに叫びながらするスポーツなんだと梨麻の頭に間違った知識が埋め込まれる。
なんか、タオル届けるのも嫌になってきた、というか近寄りたくない。
リョーマくんはどこにいるのかと辺りを見渡すと、手塚先輩と話しているのか凸凹コンビを発見した。

「う〜ん、どうしたもんかな」

練習中に話し掛けるのも躊躇うし、でもタオルは必要だろうとと思うと早く届けないと、と考えるとお姉ちゃんかお兄ちゃんがいないか辺りを見回す。
一体どこで写真撮っているのよ!と思っていると、ポンと肩に何か触れると共に「梨麻」と名前を呼ばれた。

「蓮二くんと、乾先輩…」

振り向けば、蓮二くんと乾先輩が立っていた。
ただ二人が持っている大きなジャグが大変気になる。だって「乾汁」って書いてあるんだけど、まさか噂の野菜汁?

「……ふむ。試しに飲んでみるかい」

「いっ、嫌ですっ!」

ブンブンと顔を横に振り、近付けられたそれを手でガードした。
噂は聞いてるもん、みんなが倒れるほどヤバい物だって。

「それは残念だ」

「貞治、悪いが梨麻にそれを飲ませるなら俺は容赦しないぞ」

「蓮二くんっ!」

前に立って庇ってくれる柳に梨麻は感動していた。
幼い頃からむちゃくちゃな構い方をする双子により、梨麻は多少なりと大変な目に合っていた。
それを助け、抑えるのはいつも柳の役で、梨麻はかなり懐いていたのだ。

「……梨麻っ!」

「リョーマくん、」

感動をしているとリョーマの呼ぶ声に振り向いた梨麻は、彼の表情に小首を傾げた。
なんだか、梨麻ではなく後ろを見ている。

「…………どしたの? リョーマくん」

近寄って聞けば、グッと帽子の鐔を下ろした。さっき見たのと同じで梨麻はまた混乱した。

「梨麻こそ、何してる訳?」

「え、あ、竜崎先生に頼まれてタオルを…」

言い終わる前にリョーマは梨麻の近くに置いてあったタオルのかごを持つと歩きだした。

「あ、リョーマくん?」

「持ってくんでしょ。手伝う」

「え、あ、ありがとう…」

梨麻は慌てて走り寄るとリョーマが持っていたかごのひとつを受け取った。
受け取ると言っても拒否したリョーマから奪い取ったと言っていい。
そんな二人を見ていた乾と柳は面白そうに、口元を緩めていた。
あのスーパールーキーがヤキモチを妬くのを見れたのが楽しいらしい。
そして周りの反応がどうなるかを考え、とりあえず幼なじみである梨麻が何もなければいいが、と柳は思ったのだった。



To be Continued



あとがき

勢いが収まり、書いてみましたがなんだかよく分からない話に。また同じ事を書いてしまってるし……。
次はどうなるのか……ちょっとヒロインが攻撃され、リョーマが庇い、というありきたりな展開かもしれませんが、またお付き合い下さいませ。

ではお読み下さりありがとうございました!


2011/12/03


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