好きだから

テニスの王子様

色々混乱してて、食べた夕食はどんな味をしていたのか、さっぱり分からず、梨麻は暗闇の中で体育座りをしていた。
夕食後、リョーマは先輩たちに連れていかれたのだ。
梨麻はというとフラフラと部屋に戻り、最初はベッドに俯せになっていたが、リョーマとのキスの事を思い出しては恥ずかしさのあまりバタバタと暴れて、しまいには穴があったら入りたいというところまで思考が陥った。
とはいっても、入る穴などなく、最初はベッドに潜っていたが、それでも照明の明るさで落ち着かず、最終的には電気を消し、ベッドサイドにて体育座りをしているのだ。

「梨麻ちゃーんっ!お兄ちゃんだよ〜」

バ──ンと扉が開いたが、梨麻はそれを無視した。無視したと言うよりは聞こえてなかったのだが。

「おわっ!? 真っ暗? 梨麻〜いないのか〜?」

海里が部屋を見渡すと暗闇にぼうっとある人影を見つけた。

「おおう! 梨麻、そんな所にいたのか、お兄ちゃん、びっくりしたぞ」

「嘘ばっかり。全然驚いてないじゃん」

確かに海里は驚いてはいなかった。
梨麻はぷいっと顔を背けて、また体育座りをしていた。

「なんだ、なんだ? 梨麻、何かあったのか?」

「別にお兄ちゃんには関係ないもん」

「もん、って可愛いな、こんちくしょう」

「ば、ばかじゃないの!」

膝と膝の間に顔を埋めたまま、梨麻は叫んだ。

「そんなことはない! 梨麻は世界一、いや宇宙一可愛い妹だ!」

力説する兄に梨麻は脱力するしかない。一体、なんだというのだ。

「…………お兄ち「ちょっと、海里ー、梨麻ー、何してるのよ? 花火始まるわよー」……花火?」

疑問符を浮かべたものの、彼らは梨麻の疑問など気にせず、二人で両脇を固めると「「レッツゴー!」」と走り出した。

「きゃあああ!?」

「ほらほら梨麻〜、口を閉じてないと舌噛むわよ〜」

「お兄ちゃんと線香花火しよーなー」

「やっだ、海里ったら、リョーマ君から刺されるわよ〜」

「それはやだな〜」

和やかな会話をしているがそれは海里と天海くらいで、梨麻は二人の脚力についていくので必死である。
そんな状態でついた先は中庭。
すでに他の人達は集まっていて、恒例のリョーマ合戦をしていた。

「はいはーい、リョーマ君、お待たせ〜。梨麻ちゃんを連れてきたわよ〜」

天海の声に梨麻はみんなの声が聞こえた気がした。

(((余計な奴連れてくんな!)))

殺気に近い視線を受けながら、梨麻はようやく解放された両腕を地面に着けた。

「はぁ、はぁ…」

「っ! 梨麻、大丈夫?」

梨麻の様子が気になったのか、リョーマはあわてて彼女に近づき、手を差し出した。

「え、あ、うん、……大丈夫…」

手を取ろうとして、梨麻はリョーマを見上げた。目が合うのは当然といえば、当然だろうが、梨麻は恥ずかしさのあまり、そっぽ向いてしまった。

(あっ! また嫌な態度取っちゃったかも……)

自分のしたことに後悔していると、ぐいっと腕を取られた。

「うわぁっ!」

「いつまでそうしてる気? ちゃんと立ちなよ」

「あ、ありがと……ごめん」

「別に謝ることでもないけどね」

「………う、うん」

自分だけぎこちない態度がなんだか拍子抜けしてしまう。
リョーマくんは前と変わらないし、いや、キスしておいて変わらないのも微妙な気がするけど。
リョーマくんは、リョーマくんだった。

「梨麻、越前、どれにするんだ?」

考えていたら、横から声が掛かった。
花火を幾つか持っている蓮二くんだ。

「柳さん、どもっス」

「気にするな。梨麻はこれとこれでいいな、ほら越前」

幼い頃に何度か花火をしたことがあるせいか、蓮二くんは私が好きそうな花火をリョーマくんに渡してくれた。

「…………あっちでやろ、梨麻」

「え、あ、うん」

ぐいっと手を引かれ、リョーマくんが差した方向を見た。
他の先輩方から少し離れた場所である。が、振り返れば皆さんがこちらを見ている。
きっと直ぐに現れるんだろうなあ、と思っていると前を歩いていたリョーマくんが立ち止まった。
ブガッと鼻がぶつかり、見苦しい音が出てしまう。一番リョーマくんに聞かれて恥ずかしい。
だがリョーマくんは気にせずに振り返ると、私ではなく、密かに(密かでもないが)付いて来ようとしている先輩方を見た。

「悪いんだけど、付いて来たりしないでよね。邪魔だから」

クールに彼らに告げると、手をギュッと握られ「行くよ」と促された。
頷き、後ろをチラリと見るとそれはもう怖い形相で睨めつけられていた。
明日、大丈夫かな、私。と心配になるくらい。
少し歩いて、やや開けた場所へとやって来た。

「ここでいい?」

「うん」

二人で座り込み、まずは蝋燭に火を着けた。あまり風で煽られないようにして、蝋燭を砂利で固定した。
蓮二くんから渡された花火の先端に火を着けると、鮮やかな火花が目に映る。

「わぁ、綺麗〜」

「うん。そっちのも寄越して」

「えー、リョーマくん、2つ持つの〜?」

「二刀流」

「なにそれ〜」

真顔で言うリョーマに梨麻は笑いを溢す。

「……やっと、笑った」

「へ?」

「梨麻がようやく笑ったなって」

「リョーマくん」

手元の花火の灯りがなくなり、暗闇になる。右手をギュッと握られた。

「俺、悪いことしたなんて思ってないから。梨麻が好きだから、キスしたんだからさ」

言われた言葉に恥ずかしくなる。
キスのことはもちろんだが、ここでの愛の告白に。誰かしら聞いているに違いない、いや、聞いているに決まっている。
だって茂みの方から「えっ!?」って声が聞こえた。
そちらを気にした私にリョーマくんの握る力が強くなる。

「いいからこっち見て。その、……梨麻は、嫌、だった…?」

あまり灯りはない。なんとか見えるリョーマの顔を見て、胸が締まる。
違う、嫌なんかじゃなかった。
嬉しかったに決まっている。

「……嫌、じゃない、よ。あの、ね……ただ、恥ずかしかっただけなんだ。その、リョーマくんとのキスは、嬉しい、です…」

言ってからすごく恥ずかしい事を言ったと気付いて、リョーマくんの顔を直視出来なかった。
だって、すごく顔が熱い。絶対真っ赤に決まっている。こんな顔、見せたくないと俯いていると、リョーマくんの片方の手が動いたのが分かった。
でもその手はリョーマくんの口元を覆っていた。
気持ち悪いのだろうか?私の発言のせい?
顔を上げようとしたら、ぐっと両手で耳辺りを掴まれ顔を上げれなかった。

「…リョーマくん…?」

「なに」

「あの、手が……」

「いいから、今は下、向いてて」

「え、でも…」

「いいから!」

「は、はい」

梨麻は知らなかったし、見えなかった。リョーマが首もとまで真っ赤になっていることを。
そして茂みから覗いていた彼らがギリギリと歯を食いしばっていることに。



To be Continued




あとがき

最早、何も言うまい(言えない)

2013/09/23


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