ウソつきな君に

テニスの王子様

約束したのに。指切りもしたのに。
それなのに、貴方は約束を破ったの。


夏服から冬服に衣替えを終えた10月。それでもまだほんの少し汗ばむ季節。
少しずつ木々は紅葉を始めるこの時期、青春学園こと青学は文化祭の準備に大忙しだ。

「招待試合?」

「そうなんだ、名前も見に来るだろう?」

「クラスと生徒会の方が忙しくなければ、見に行こうかな」

幼なじみの長身のテニス部員こと、乾に声を掛けられた名前は持っていた実行委員会の書類を掲げながら答えた。

「なんだか疲れてるようだな。そんな名前にとっておきの「野菜汁とかは要らないから!」…えー」

ゴソゴソとカバンから何かを出そうとした乾をバッサリ切った名前は、ため息をついた。

「その威力は菊丸くんたちから聞いているからね。あと調理室で勝手なことしないでよね!」

廊下で異臭がするって生徒会に届けが来てるわよ。と言えば、乾は効果は抜群なんだがな〜とちっとも改める気配はない。

「まぁ、何にしても…全国大会は見に行けなかったから、時間が空いたら見に行くよ」

名前は集まりがあるからと先に行くのを乾は見送った。

「行けなかった、じゃなく行かなかっただろうに…」

乾は名前が試合会場に来たがらない理由を知りつつ、もう1人の幼なじみを思い浮かべると、やれやれと嘆じた。

「まぁ、今度こそ逃げられないだろうけどね」

招待試合の相手校は3年の一部しか知らない。当日、分かるようにされている。
4年ぶりの再会はどうなるのか、ここは楽しみたい、と彼は口元を緩めた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


文化祭当日、名前は朝から校内を走り回っていた。

「あ〜〜、もう手塚くんどこよーっ!」

生徒会長である彼のサインが必要になり、あちこち探しまくっていた。
クラスの子に聞けば、そろそろ招待試合の時間だからコートじゃないか。と言われ、時計を見れば乾に教えてもらっていた時間を差している。

「もうこんな時間!?」

名前はそう言いながら、テニスコートまで行くと人集りに圧倒されてしまう。

「なんて人気なのよ! テニス部っ!」

女の子たちの垣根を越え、テニス部の部室前に探していた生徒会長を見つけ、声を掛けた……まではよかった。

「いたいた、手塚くーん!…………ぇ…」

近づけば、手塚くんと大石くん、それと他校生が3人がいた。
その中の1人に名前は見覚えがある。
記憶の中の彼とは大分変わってしまっているけれど、相変わらず綺麗な顔立ちだ。

「…………名前…?」

「っ、手塚くん!」

「苗字、どうかしたのか?」

「ご、ごめんね、試合前に。この書類に――……」

呟かれた声音を無視し、名前は手塚に生徒会の仕事の事を告げた。
その間、視線を感じたがそちらを向くことが出来なかった。

「……じゃあ、これは私が渡しておくね」

「ああ、すまなかった」

「ううん。あ、じゃあ……試合頑張って…」

「ああ」

ちらり、と彼を見ると昔と変わらない涼やかな雰囲気だったが、こちらを見てるのが分かった。
名前は、そそくさとその場から離れると逃げるようにテニスコートを後にした。

走って走って生徒会室へとたどり着いた途端、扉にもたれるようにしゃがんだ。

「……蓮二くん、だ…」

ずっと会っていなかった幼なじみ
ううん、会わなかった幼なじみ。
まさか今になって会うなんて思わなくて、驚き過ぎて心臓がバクバクいってるのが分かる。

記憶が甦る。あの日の事を。


『もしどこか転校することになっても手紙書くね』

『うん、僕も書くよ』

『約束!』

『うん、約束!』



『えっ?』

『名前ちゃん、知らなかったの? 柳くん転校しちゃったんだよ〜』

『……うそ…』

『前から決まってたって先生言ってたよなー』



『乾くん! 蓮二くん引っ越したこと知ってた?』

『今日、コーチから聞いたよ』

『……乾くんも教えて貰えなかったんだね……蓮二くんの……』



「……ウソつき…蓮二くんのウソつき…」

不意に出た言葉と共にガラッと扉が開いた。
ビクッと身体を震わせたと同時に抱きしめられていた。

「……名前…」

「っ!?」

「そのまま聞いてくれ…」

そこには何故か柳がいた。
ギュッと抱きしめる腕が強くなる。

「俺は、引っ越しすることをお前と貞治には言えなかった。いや言いたくなかった……。2人と、名前と離れるのが嫌だったから。言おう言おうと思って、言えないまま引っ越しの日が来てしまい、悲しかった。連絡しようとも思ったが……怖くて出来なかったんだ」

「…………」

抱きしめられ、ふわりと薫る香の匂いはやはり懐かしいと思う。

「…私も、怖かったかもしれない…」

「……名前?」

「だって、忘れられてたらって思ったら……怖くて…会いに、テニスの試合会場に行けなかった…」

それに雑誌とかに載っていた蓮二くんを見て、昔も綺麗だったけど、今は綺麗なのとすごく格好良くてドキドキした。
今もこんな風にされているのが恥ずかしくて堪らない。
顔見えなくてよかった……。

「俺も同じだ。ずっと……会いたかった…」

「え?」

顔を上げれば、切れ長だけど優しい眼差しで覗き込む柳に名前はドキッとした。

「お前があまりにも綺麗になっていて驚いた」

「な、何言って……」

「突然だが……今、付き合っている男はいるのか?」

身体を反転させられ、真摯な眼差しにぶんぶんと首を横に振った。

「なら、俺と付き合ってくれないか?」

「…………どこに…?」

「フッ……鈍感なのは変わらないか。──俺は昔からお前が…名前が好きだ」

「……え、ええっ!?」

「ダメか?」

テニスをしているのに綺麗な手が、赤く染まった頬に触れた。
柳は屈んで名前と視線を合わせた。昔は同じ目線だったのに……とこんな時に名前は思ってしまう。
真っ直ぐ見つめられる視線が恥ずかしくて、名前は目線を逸らした。

「……ずるい…。ずるいよ、蓮二くん……私だって……ずっと前から好きだったのに……」

「……」

「離れたら手紙書くって約束したのに……勝手に転校して……凄く悲しかったっ! 会いたかった!」

熱い滴が頬に零れ、蓮二の手にも伝った。

「名前…」

長い指が涙を拭ったかと思えば、瞼に口唇が触れ、そして名前の口唇を塞いだ。

「俺と……付き合ってくれるか?」

「…………よろしく、お願いします…」

そう答えると優しい眼差しと共に、また柔らかい口唇が触れた。

4年の歳月は長いようで短くて、それでも「好き」という気持ちは変わらずにいたのだった。



END



あとがき

相互して下さったあまね様へ相互記念です。

一応、柳なんですが別人のようで柳らしさなんぞひとかけらもないので、申し訳ございません。

ヒロインは幼なじみ設定です。
青学の生徒会所属。
柳とは同じ小学校ですが、乾とは柳を通して知り合いました。



2009/12/20


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