刀剣乱舞

脱衣所に用意されていたのは“鶴丸国永”の内番着というものだった。そういえばあの子も着ていたな、と思いながら袖を通した。
また貞坊たちに付き添われて、先程の部屋に戻ると、“鶴丸国永”と薬研(女)に、女士に見えたがうちの本丸にはいなかった短刀と、加州清光がいた。

「お、さっぱりしてきたかい?」

「薬研まで一緒に入ってきたのー?」

「おぅ、伊達組にご相伴させてもらったぜ」

「へー、やっぱりこうしてみると、男士の鶴丸国永って意外とがっちりしてるんだ、うちの鶴丸さんを見慣れてるからなんだか新鮮だね。あ、俺は加州清光、この本丸の初期刀だよ」

「ボクは乱藤四郎、この本丸の初鍛刀なんだ。ついでにいえば、鶴丸さんは三振り目にして初太刀なんだよ〜」

まじまじと見てくる加州清光は、知っている加州清光とは違い溌剌としているし、見掛けで判断してはならないが、乱藤四郎は女士の薬研と並んでも臆さない美少女に見えた。

「……次郎太刀を合わせて、本丸女子会メンバーだ」

ボソリと呟く伽羅坊が疲れたような顔を見せる。
女子会とはなんだ、と思いつつ、初期刀殿の話を聞いた。

「そっちの鶴丸さんも目が覚めたし、すぐじゃなくていいから落ち着いたら、うちの主に会ってほしいんだ。すごく心配してたから」

「大丈夫なのかい?」

「そっちさえ良ければ主の方は大丈夫だよ」

「煩いのは長谷部さんくらいだよ〜」

「まぁ、もう薬研ちゃんから話は聞いてるし、確認も兼ねてって感じかな。勿論、俺たちも立ち会うしね」

ここの審神者に会う?
いくらなんでも戦場で拾ってきた得体の知れない刀剣と軽々しく会うだなんて、何を考えているんだ…と思うが、既に薬研(女)は会ったようだった。彼女を見る限り、なんともない様子ではあるが、審神者など基準があの主であるからか疑心暗鬼に取り憑かれる。

「つ、鶴丸……ここの、審神者は良い人間だったぞ……」

くいくいと袂を引かれ、薬研(女)がこちらを見上げてきた。

「薬研……」

「勝手に会ったのは謝る。わたしは一日で目覚めたからな……そこにいるここのわたしや他の兄弟たちが支えてくれた、わたしや鶴丸を助けてくれた審神者に会ってお礼を言いたくて会ったんだ……気にしなくて良いと……それよりまずはゆっくりして欲しいと……鶴丸が目が覚めたら、どうするか決めて欲しいとも……」

ジッと見上げてくる薬研を見下ろした。存外、ここでの暮らしを気に入ったのか、まぁ自分たちの本丸は最悪だったから比べるものではないが……。

「………分かった、会おう」

「良いのか?」

「あぁ。加州清光、いつなら審神者に会える?」

「え、今日は仕事終わらせたからいつでも良いんだけど……もうちょっと休んでからでもいいんだよ?」

「いや、先延ばしにするものでないからな」

「あー、じゃ、ちょっと話してくるよ。ちょっと待ってて」

「ボクが話してくるよ」

すっくと立ち上がった乱藤四郎は素早く部屋を出ていった。

「あ、待ってよ、乱〜」

続いて、加州清光も部屋から出ていったのを見送り、薬研(女)が袂を握ったのを頭を撫でてやった。

「本当に大丈夫なのかい?」

訊いてくる“鶴丸国永”に「あぁ」と頷いた。

「そうか、なら良い。とりあえず呼ばれるまで待っていてくれ。貞坊たち、後は頼んだ」

そう託けて、彼女は部屋から出ていった。

「座って待ってようぜ!」

「あぁ」

貞坊に促され、腰を下ろす。湯上がりだからと用意してあった水を飲みながら、待つ事四半刻、彼女が戻ってきた。

「持たせたな、付いて来てくれ」

貞坊がすっくと立ち上がり、薬研の手を引いてくれた。ここの薬研が「流石、伊達男だな」と笑い、薬研はどこか気恥ずかしそうだ。
執務室へと行くのか、奥まった方へと廊下を歩いていく。庭には美しい花木が咲いており、池も水面が輝いていた。空も青く、空気も澄んでいる。
こんなにも違うものなのか……。
羨ましいと思い、妬ましくも思う、ここの奴らが。

「あれ、執務室じゃないの?」

「ああ、執務室では狭いし、大広間では広すぎるからな。軍議室ならこの数なら入れるしな」

「主、連れてきたぜ」

「どうぞ、お入り下さい」

彼女と光坊とのやり取りを耳にしながら、中にいるであろう刀剣の数に納得した。
襖が開かれると、面布を付けた審神者と両脇に初期刀である加州清光、乱藤四郎、少し下がった位置に御神刀であろう大太刀が三振り、部屋の角にへし切長谷部と一期一振の姿があった。

「入るぜ」

“鶴丸国永”はそう言って入室すると、審神者側へと行き、乱藤四郎の隣に座った。
審神者の前には座布団が二枚並んでおり、薬研と共に座れば、ここの薬研は角に、貞坊、伽羅坊、光坊は自分たちの背後に腰を下ろした。
そこで審神者が口を開いた。

「初めまして、鶴丸国永様。お目覚めになられてよろしゅう御座いました。この度は、一部の人間が貴方がたを苦しめた事、誠に申し訳ございませんでした」

「主っ!主が頭を下げなくともっ…」

「黙っていて下さい、長谷部。鶴丸国永様、薬研藤四郎様、同じ審神者として深くお詫び申し上げます」

両手を床につき、頭を下げる審神者に長谷部が腰を上げるが、審神者がそれを呈してこちらに深く頭を下げた。
別にこの審神者に謝られた所で、自分たちが味わったものが無になる訳では無い。

「……お前が謝ってどうなるものではない」

「鶴丸っ…」

「そ、そうでございますね、私が謝罪することなど烏滸がましい事でございます」

長谷部から殺気を感じるが、構わない。別にこの審神者をどうこうしようとは思ってはいない。
ピリピリとした空間に、彼女が口を開いた。

「主、そこの“鶴丸国永”は君が謝る事じゃないと言っているんだ」

「……え?」

「そうだろ、君?」

「あ、あぁ……」

「そ、そうなの??」

混乱する審神者に“鶴丸国永”はコロコロと笑う。そして、こちらをみて、その金色の眸が笑みを浮かべる。
同位体故に思考が分かったのだろうか…そんな事を思っていると、審神者が佇まいを直し、背筋を伸ばした。

「え、えっと…なんだっけ…」

「主……これからの話でしょ」

「あ、ありがとう、加州……。ゴ、ゴホン!それで、これからの事ですが、二振り共、うちの本丸で過ごしませんか?」

「えっ…」

反応したのは隣の薬研だった。どうやら俺よりも此処に馴染んでいたようだ。

「政府には連絡し、保護という事でここに滞在の許可は得ております。それにこの本丸には女士である鶴丸国永と他に一振りおります。そちらの薬研藤四郎様にとって、政府に行くよりは良いかと」

「……なるほど」

「こう言ってはなんですが、亜種である刀剣女士は希少故、狙われる事が多いです。政府とはいえ、一枚岩ではない為に安全という訳ではございません」

「主殿!私は政府に渡すなど反対です!こんなに愛らしい薬研と離れるだなんて!!」

「……一期」

「いち兄……」

審神者の言葉に角にいた一期一振が畳を叩きながら、声を張り上げた。
審神者と此処の薬研がため息混じりに名前を呼ぶ。

「他の弟たちも彼女が此処にいることを望んでおります」

「一期、落ち着いて下さい。決めるのは彼らです。私も勿論政府には渡したくありません!あわよくばお二振りとも我が本丸にずっと居て欲しいです!」

「あーるじ、本音ダダ漏れしてるって!そこの鶴丸さんと薬研が困るからね。一期一振も落ち着いてよ、主は政府には渡さないし、二振りの意志に任せるんだから」

「だけど、ボクも薬研にはここにいて欲しいなぁ〜可愛いし!勿論、そこの鶴丸さんもね」

「俺だって男士の鶴さんにもウチにいて欲しいぜ!」

「そうだよね、二振りにはここにいて欲しいな」

口論するかのように次々と会話が飛んでいく。

「待て待て待て待て」

パンパンと手を叩いて止めたのは“鶴丸国永”だ。

「話が飛びすぎだ。まずは君たちの意見を聞きたい、どうしたい?」

声を上げていた彼らはハッとして口を噤んだ。こちらに視線が集まるのが分かる。
横の薬研を見れば、もじもじとしている。どうやら此処にいたいようだ。自分は…と思う。主との絆を感じることがないのはもう主はいないということだろう。顕現が解かれないのは、この審神者からの多少の霊力と、“鶴丸国永”から分けられた神気のお陰だ。
あの本丸は……いや、考えるだけ無駄だろう。だからといって政府に行くつもりはない、刀解を望んだら、この薬研は悲しむだろう……彼女を託されたのは自分であり、それを押してきたのはこの子の兄弟刀たちだった。流石に無碍には出来ない。ならば……。
色々考えを巡らせ、“鶴丸国永”を見た後、審神者を見つめる。

「しばらくの間、ここで世話になりたいと思う「勿論、大丈夫です!!」あ、ああ…」

手を付き頭を下げれば、被せるような勢いで喜ばれた。

「やったぁ!薬研ちゃんと一緒にいられるんだね!ね、いち兄!」

「そうだね。薬研、これからよろしく」

「良かったな、俺」

「いち兄、乱、薬研」

嬉しそうに話す粟田口に、背後から飛びついてきた貞坊に驚かされた。

「やったな、鶴さん!これからよろしくな」

「さ、貞坊…」

「嬉しいよ!良かったね、鶴さん。これからは美味しいものいっぱい食べさせるからね!」

「ずんだ餅なら作ってやる」

大倶利伽羅の意外な言葉に、貞坊も光坊もにやにやしつつ、喜んでいた。

「伽羅坊があんなこと言うなんてなぁ……これからよろしくな、私」

揉みくしゃにされていれば、“鶴丸国永”が細く白い手を差し出してきた。同位体でありながら別の個体で尚且つ、亜種の刀剣女士。

「あ、あぁ……よろしく頼む」

その自分よりも小さな手を握れば、ふふっと嬉しそうに笑う彼女は同位体ながら美しいと思えたのだった。


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