参
本丸に新たな仲間が増えたのが知れ渡ったのは夕餉の時間だった。
新たなといえど、彼らの同位体はもともとこの本丸に存在していた。ただし、それが通常体と亜種である。
そして、新たな仲間となったのは“男士”である鶴丸国永であり、傍らには亜種の薬研藤四郎の刀剣“女士”を連れていた。
女士の鶴丸が戦場から緊急連絡を寄越した時は重傷者が出たのかと思えば、怪我をした男士の鶴丸国永と女士の薬研藤四郎を見つけたと伝えてきた。
「責任は私が取る!主、彼らを助けてくれ!!」
あのような切羽詰まった様子の鶴丸はこの本丸に顕現されてから初めて見たと思う。
元々古い刀であり、本丸の古参の刀である鶴丸は吃驚”婆“でありながら、責任感は強く、面倒見は良かった。飄々としつつ、実力は初期刀より上で加州が頼る事が出来る刀であった。
その鶴丸国永が初めてと言って良いほど強く願い、主も怪我をしている刀剣を見捨てるような人間ではなかった故、緊急帰還を促した。
手入れ部屋の準備をした直後、慌ただしく帰還した第一部隊が傷だらけの“鶴丸国永”と“薬研藤四郎”を連れてきた。
血だらけの“鶴丸国永”を見た主は、顔を真っ青にしながらも「早く手入れ部屋へ!」と指示をしていた。
大倶利伽羅が血だらけの“鶴丸”を抱え、隊長であった鶴丸が“薬研”を背負っていた。
背負われていた“薬研”も気絶していたらしく、迎えた乱藤四郎は息を飲んでいた。
“女士”の薬研の方は大きな傷はないものの、手伝い札を使い、主が手入れをしていた。主の刀剣ではないので応急処置的なものだし、本丸の薬研が足りなくなりそうな霊力の代わりに自分の神気を与えたりしていたからか、彼女は次の日には目を覚ました。
重傷だった“鶴丸”も手伝い札を使ったので、傷は直ったが、意識は戻らずにいた。
そのせいか、鶴丸は自分の神気を与えつつずっと傍についていた。まさか、一週間も目を覚まさないとは思わなかっただろう。
その間に目を覚ました“女士”の薬研から話を聞くことは出来た。
ブラック本丸というのがあると聞いたことはあった。そこでは審神者から刀剣男士に直接的にしろ、精神的にしろ暴言暴力が行われたり、過剰な出陣、手入れが行われない事、審神者の気分次第で折られたりしたりするらしい。場合によっては強制的に夜伽をさせられたりするという。
末端といえど、神にすることではない。
薬研たちがいた本丸もそのような場所であったが、被害が多かったのはまさかの太刀や打刀だったそうだ。審神者は短刀や脇差に対し、異常な嗜好を持っていたらしく、両方に脅しをかけていたらしい。旧知である薬研や不動、博多や厚に小夜がそんな輩に目を付けられていたと考えたら虫唾が走る。
粟田口派など格好の餌食になった短刀は多く、一期一振や鳴狐などは短刀たちを人質に取られ、短刀たちは二振りへの脅しがあり抵抗出来ずにいたらしい。短刀、脇差を兄弟、縁がある者たちは見捨てることも出来ずに過酷な出陣をさせられていたと聞いた。
ならば、何故、戦場で二振りだけがと訊ねれば、薬研は拳を握りながら、顕現したてだった自分を兄弟たちが守り、逃がそうとしたという。短刀たちからの思いがけない反撃にその審神者は短刀たちを折ったらしく、それを見た一期たちが堕ちるのを覚悟して審神者に斬りかかったという。
薬研は単騎で出陣していた鶴丸がゲートを潜ろうとした時に、一期一振に押され、また戦場に押し戻されたという。
一期一振は鶴丸に向かって「薬研を頼みます、鶴丸殿」と叫んでいたという話を聞いた
“女士”の薬研は前の本丸の情報を与えられていなかったのか、本丸IDも知らずにいた。とりあえず探そうとした矢先、彼女を保たせていた霊力がぷつりと切れたのが分かった。霊力が切れるという事は薬研たちを顕現させた審神者がいなくなったという事だった。顕現が解かれそうになるのを、薬研も鶴丸もその同位体に神気を与えた。加えて
主が、政府に連絡を取り、消滅した、または潰された本丸はないかと訊ねたらとある本丸の審神者が刀剣たちにより斬られたと報告があったという。刀剣たちは堕ちる直前に自死し、還ったらしい。なんとも哀しい結末である。
話を聞いた薬研は悲鳴を挙げたが、兄弟たちが真綿で包むように宥め、慰めていた。ようやく落ち着いた頃に今度は“鶴丸国永”が一週間ぶりに目を覚ましたのだった。
奴は縁がない事をすぐに察したらしく、不安定ではあったが、やはり古刀、持ち直したようであった。多分、鶴丸が何かしたのかもしれないが。
食事をさせ、風呂に入れたとあっけらかんという鶴丸になんでだ?!と怒鳴るが彼女はどこ吹く風で。
「まずは心を落ち着かせないとな。それに“鶴丸国永”がなんの驚きを得ないで還るなどつまらな過ぎるだろう?」
「そうじゃないだろ、貴様は!」
「まぁまぁ、そう怒るな長谷部。彼は落ち着いている、話は通じるし、無茶はしないさ」
主に目通りを望んでいると乱、加州と執務室に入るなりそう伝えてきて、主を危険に曝すのかと怒鳴れば、次は鶴丸がやって来たのだった。
そして、主が許可を出し、対面となった次第であった。
“男士”の鶴丸国永は主に頭を下げさせるだけではなく、謝罪などいらないと投げ捨てた、が、鶴丸曰く“主が謝罪する事はない”ということであった。当たり前だ、主にはなんの咎もないのだから。
呆気に取られた主であったが、二振りを本丸に居させたい、なんなら自分の刀剣になって欲しいとまで仰られた。暴走する主も悪くはないが、慎重になって頂きたい。
薬研は粟田口たちが揃って、いて欲しいと願い、伊達組も鶴丸国永にいて欲しいと騒いでいた。
織田にいた頃の旧知であるが故、自分とて無碍には出来ないがそんなあっさり決めていいのかと思えば、悔しいかなやはり古参の鶴丸が決めるのは彼らだと言う。こんな風に時々頼りになるから腹立たしい。
とりあえずは保護という形でこの本丸にいる事になった。
そして、夕餉の時間、大広間に皆が集まり、男士の鶴丸国永と女士の薬研藤四郎が主によって紹介された。
燭台切たち厨組は張り切って食事を作ったようで、酒呑みたちは「宴会だー!」と騒いでいる。
「見ての通り、普通の鶴丸国永だ、よろしく頼む」
「薬研藤四郎だ……よろしく」
“鶴丸国永”は伊達組に手を引かれ、鶴丸の隣に座らせられたようだし、“薬研藤四郎”は乱と薬研の間に座らせれている。チラリと見れば、宗三が話しかけているようだ。
意外だな、と思いながら、そういえば奴も本丸女子会とやらに顔を出しているというのを聞いている。
本丸女子会は主主催の女子会である。ウチには鶴丸国永以外にも女士がもう一振りいる。ソイツが顕現する前は女士は鶴丸だけだったが、本丸立ち上げ当初から存在している。ツッコむのは止めたが、主に鶴丸、初期刀である加州清光に、初鍛刀の乱藤四郎、初大太刀の次郎太刀にたまに宗三左文字がいると聞いている。もう一振りの女士である同田貫正国はあまり参加しないので、乱が強引に連れて行くらしい。
「……はぁ…」
長谷部は色々と考えて、ため息を吐いた。
女子会など、主主催だというのが腹立ってしまう。主を独占する女子会が苦々しい。