肆
「さぁ、みんな!今日から一緒に過ごす仲間が増えましたよ〜」
審神者殿の言葉に大広間に集まっていたこの本丸の刀剣男士たちが、こちらを見つめている中、俺と薬研は挨拶をした。
「見ての通り、普通の鶴丸国永だ、よろしく頼む」
「薬研藤四郎だ……改めてよろしく頼む」
「「「よろしく〜」」」
「みんな心配していたようだけど、鶴丸国永樣も目を覚ましてくれて良かったですね、歓迎会です!!」
どこか浮かれたような審神者殿に大丈夫なのかと疑うも、大太刀や槍たちが「宴会だー!」と騒いでいる。
「鶴さん、こっちだぜ!」
貞坊に手を取られ、座らせられたのは“女士”の俺の隣であった。その隣には乱がおり、男士の薬研との間に“女士”の薬研が座らせれている。
「光坊たち、厨組が君たちの為に張り切って作ったようだぜ」
「……こんなに…」
「あまり無理せず、まずは食べてみると良い」
「之の字や堀川の料理もみっちゃんの料理に負けず劣らず美味いんだぜ」
「あぁ……」
並べられた料理の多さに圧倒されながらも、前に腰を下ろした伽羅坊は黙々と食べている。
箸を上手く持てないでいると、傍らの彼女が手を添えてきた。
「あぁ、こう持つんだ」
「鶴さん、食べさせてやろうか?」
「いや、大丈夫だ」
彼女に習い、始めは慣れない手付きで持っていた箸もなんとか使えるようになった時だった。
「なかなか上手いですね」
振り返れば、“宗三左文字”の姿があった。相変わらず、どこか気怠そうな態度ではあるが。
「宗三…」
「えぇ、ボクですよ。挨拶に来てあげましたよ」
どこか上からの態度は、傾国の刀としてなのか、素直ではないからなのか、コイツである以上どちらもかもしれん。
「あぁ、よろしく頼む」
「相変わらず、ツンツンだなぁ宗三は」
ケラケラと笑う“俺”に宗三は「煩いですよ、鶴丸」と軽口を叩いている。
それを見ていた伽羅坊がボソリと呟いた。
「そいつも女子会メンバーだ」
「は?」
「あー、女子会ってのはな、鶴さん…」
傍らの貞坊が説明してくれた。
“女子会”は主主催だという。始めは主と“女士”で顕現された鶴丸国永、それに混ざる初期刀の加州に初鍛刀の乱でお喋り会だったらしい。そこから初大太刀の次郎太刀が加わり、雰囲気で女子会に混ざる宗三左文字と、この本丸二振り目の“女士”同田貫正国で成っているらしい。
まさかの同田貫正国が女士だと思わず、見てみれば黙々と飯を平らげている。
自分の本丸にいた同田貫正国を思い出す。アイツは主に嫌われていたせいか、手入れもされず、酷使され、最期は戦場で折れたらしい。
そんな事を思い出していると、白い何かが額に当たる。思わず仰け反ると隣の“俺”がこちらを見ていた。
「眉間にシワが寄ってるぜ、きみ」
白く細い指が眉間をぐりぐりと押してくる。止めるようにその手を掴んだ。
「止めてくれ」
「はは、悪い。だが、せっかく皆で食べる食事だ。そんな顔はしないでくれ」
「……すまん…」
目線だけで周りを見れば、光坊が不安げにこちらを見ている。あぁ、心配させてしまったのか。
「ほら、これも美味いぞ」
差し出された箸に躊躇しながらも、口に含めば確かに美味い。“鶴丸国永”だから嗜好が似るのだろうか?
「……美味い、な」
「っ鶴さん!!」
一言告げれば、光坊が感極まったのかすごい勢いで桜が飛び出した。
「みっちゃん……嬉しいのは分かるけど飯の時は抑えてくれよな」
「……光忠…」
光坊の隣にいた伽羅坊が半分埋まり、睨みつけている。それがなんだかおかしくて口の端が上がる。
「そう、そうやって笑うといいぜ」
「……ここは本当に良い本丸だな」
「あぁ、主が良いからな」
「……そうか………そうだな……」
審神者殿は初期刀である加州の隣で笑顔で食事をし、加州も嬉しそうだ。否、顕現している刀たちも各々楽しいのだろう。
鶴丸国永の向こうに座る薬研も、乱藤四郎や此処の薬研や兄弟たちに囲まれているからか、見たことのない笑顔を見せている。
「きみも薬研も、これからは笑っていられるさ」
「……そう願いたいな、人生には「驚きが必要だからな」」
ふふっ、と蜂蜜色の眸を細めて笑う彼女に感謝以外ない。
宴会となっている大広間には、酒呑みたちが残り、短刀や脇差たちは保護者らが部屋に戻るよう促していた。
鶴丸も貞坊や伽羅坊に連れられ、寝かされていた部屋へと戻ってきた。光坊と“鶴丸国永”は後片付けや酒の肴、明日の支度をしているらしい。
旧知である古い刀らが鶴丸を誘ったが、流石に今日は断り、寝かされていた部屋で寛いでいると、ドタドタと足音が響いてきた。誰かが口論しているようである。
『だから君らには関係ないだろう』
『関係なくはないぞ、我らは三条と五条、いうなれば親戚みたいなモノではないか』
『親戚ではないだろう……』
『しかし三日月殿の言う通りですぞ、今までは眠っていたので、目を瞑っておりましたが目覚めた今では違いましょう』
『あー、五月蝿い五月蝿い』
どうやら“鶴丸国永”と三日月宗近と一期一振のようだった。どうしたのだろうと思っていれば、貞坊があ〜と言葉を濁した。
「どうした、貞坊?」
「いや、この部屋ってさ、鶴さんの部屋なんだよ」
「は?」
「だから、「いや、言いたいことは分かったが…」」
貞坊の言う事はなんとなく分かった。この部屋は“鶴丸国永”の部屋だというのは。その鶴丸国永は自分ではなく、彼女の方だ。
だからこそ意味が分からない。何故、この部屋にいるのかと。
「アイツがお前の面倒を見ていたからだ」
「そうだぜ。鶴さん、心配だったんだと思うぜ?」
そういえば、神気を与えられていたと思う。薬研もそうだったらしいから。
しかし、だからと言って同室というのは如何なものだろうか。同位体といえど、個体であり、ましてや性別は違うのだから。
“女士”の薬研も粟田口の部屋にいたようだが、“女子会メンバー”である乱が常にいたようである、短刀というのがあるから気にしないでいたが。
そんな事を考えていると、障子が開いた。そこには彼女と光坊、そして三日月宗近と一期一振がいた。光坊は困った顔をしているが。
「戻った」
「おかえり、鶴さん」
「あぁ。ただいま、貞坊たち」
「鶴!待たんか、まだ話は終わってないぞ」
「そうですぞ、鶴丸殿」
「さっさと部屋に戻れ!」
耳を押さえながら、視線を向ける彼女だが、彼らはちっとも気にしないようである。
「そこの鶴丸国永、お前も目覚めたのならば違う部屋に移るべきではないか?」
「三日月!ここは俺達の部屋だ、君がどうこう言う事はないだろうに」
「しかしだな…」
「三日月さん、心配は分かるけどさ、この部屋には俺も一緒に寝てるんだぜ!」
「しかしだな、太鼓鐘よ」
「大丈夫だって!鶴さんはずっと俺が守ってるんだから心配は無用だせ!」
「う、うぬ……」
意外にも貞坊に押される三日月に呆気に取られていると、光坊が言うには貞坊は顕現されてから“女士”の鶴丸国永の傍にいたらしい。
短刀だからか、女士の彼女には誰かしら短刀が傍にいるとのことだ。
「一期、君も私ではなく薬研の心配をしたらどうだ」
「“薬研”には乱たち弟たちがついております故、安心ですぞ」
「……はぁ…、なら、私には坊たちがついているから大丈夫だ」
ため息を吐きながら話す彼女に、彼らはどうやら彼女を好いているというのは理解した。
「いい加減にしてくれ、毎度毎度。光坊、彼らを部屋から出してくれ」
「え?う、うん。ごめんね、三日月さん、一期くん」
光坊が彼らを部屋から出そうとした時だった。乱藤四郎が部屋にやってきた。
「あれぇ?いち兄、またやってるの?」
「み、乱?薬研たちも」
一期が振り向いた先には、乱藤四郎に二人の薬研藤四郎、加州清光がいた。
「懲りないね、三日月に一期は。鶴丸国永たちに伊達組の三人、主から伝言だよ〜」
「伝言?」
「うん。肝心な事話してなかったみたいでさ、念の為、今後暫くの間はそっちの鶴丸国永とこの薬研ちゃんにはお世話係付けるってさ、まぁ、ハッキリいえば監視になるけど」
考えて見れば、確かに妥当だろう。
名目上、保護という形でこの本丸に留まる事になったとはいえ、自分はまだ目を覚ましてから一日も経ってはいない。
彼女もそれが分かったのだろう、「まぁ、そうなるよな」と頷いた。
「暫くは窮屈かもしれんが、我慢してくれ」
薬研の髪を撫でながら話す彼女は、こちらにも申し訳なさそうな顔をしている。
「……いや、妥当だと思うが」
「そう言ってもらえると助かる」
弧を描くように目を細めて笑う彼女に気にしないと伝えた。
俺に関しては伊達組が、薬研には主に乱と薬研が付くらしい。内番も同じになるらしく、頷いて応えた。
話は終わりらしく、三日月と一期は加州たちに連れられて部屋から出ていった。
もう一度、風呂に案内された(彼女は女士の薬研と何故か乱が一緒に入るらしい)。
貞坊と部屋に戻ると、布団が三組敷かれていた。
「鶴さん、敷いててくれたのかよ。サンキューな!」
「気にしないでくれ。さぁ、きみも布団に入るといい、疲れただろう?」
「じゃあ、貞ちゃん、鶴さんたち、おやすみ」
「おぅ、おやすみな、みっちゃん、伽羅」
「……あぁ」
光坊と伽羅坊の部屋はどうやら隣らしく行ってしまった。
「さて、」と彼女がこちらを向いた。
「君は私と貞坊の間に寝てくれ」
「は?」
「三人で川の字になって寝るんだぜ、鶴さん!」
早く早くと急かされれように真ん中の布団に座らされた。
いや、この場合、真ん中に寝るのは貞坊なんじゃないのか?と疑問を抱く。
「いや、俺じゃなくて…」
「君が真ん中だ」
「ほら、鶴さん、寝ようぜ!」
「電気消すぜ」
待て、という間もなく、天井の灯りは消え、枕元の行灯が揺らめく。
「明日からどうするんだ?」
「まぁ、暫くは私達と一緒に内番だろうな…」
「明日は馬当番だったぜ!」
「……馬当番…」
「畑じゃなくて良かったな」
「鶴さん、畑仕事嫌いだもんなぁ…」
「あの臭いがどうもなぁ…。君は畑仕事したことあるかい?」
隣で寝転ぶ彼女が聞いてくる。「無い」と答えれば、ハハと笑い、「きっと明日から驚きの連続だぞ」と言ってきた。
「散々眠っていたから、眠れないかもしれんが、明日から忙しい……きちんと休んでくれよ」
「……あぁ…」
頷いて見せれば、ふふっと笑むを浮かべ、スッと手を出してきた。なんだと思いつつ、その手を握れば、温かい神気が自分と交わる。
あぁ、安心してしまう。
ゆっくりと微睡び、いつの間にか眠ってしまったようだった。