みんなの幸福と彼女の幸せ
トランクに荷物を詰め、忘れ物がないか、辺りを見回した。来たときよりも遥かに荷物が増えすぎたことに荷物を送ってもらうか、どうかを悩んでいたが、お土産も買うことだし、増えるのであればまとめて持って行った方が良いと思った。
「あー、愛莉とまた離ればなれになるなんてー」
「きゃー」
愛莉を抱きしめ、頬擦りしてくる真純にくすぐったいのか愛莉は暴れている。
「ほら、愛莉も真純ちゃんもそろそろチェックアウトの時間だから」
「「はーい」」
仲良く声をあげる二人に微笑みながら、志保は時計を確認した。
「愛莉、そろそろお迎えが来ているかもよ」
「ほんとー?」
愛莉は無邪気そうに笑え答えた。
コロコロと荷物を運びだし、最終チェックで部屋を見渡した。テーブルにもベッドサイドにも特になにもない。
大丈夫ね、と真純に手伝ってもらいながら廊下へ出た。
ママ呼んでくるね、と隣室へと入る真純を見て、メアリーは一緒じゃないの?と不安気な愛莉に「あちらでまたすぐに会えるわよ」と頭を撫でた。
メアリーも合流し、ロビーへ到着すると赤井の姿があった。
「しゅうおじちゃんだ!」
「なんだ、秀一。お前も見送りか」
「ああ、こんなに可愛いお姫様に別れを告「あ、パパー!!」は?」
抱っこしようかと手を伸ばした時に、先ほどまでこちらを向いていた愛莉は秀一から抜け出すと声をあげて、走り出した。
「愛莉さん」
「パパーー!」
両手を広げ、走ってきた愛莉を抱きしめたのは、あまり面識があるとはいえない、白馬 探の姿だった。
「あら、意外と遅かったのね」
「ばあやが渋りましてね。志保さん、お久しぶりです」
「あら、この子の誕生日に会ったはずだけど?」
「僕にとっては随分と長い時間でしたよ」
軽やかに志保の頬に口づけをし、志保も返している光景に赤井はどういうことだ、と傍らの真純を見た。
真純は「相変わらずだな〜」と呟いて、赤井を見て肩を竦めた。
「パパー、アイリにもー」
「お姫様、お久しぶりです」
愛莉を床に降ろし、片膝を着くと敬うように彼女の手を取りキスを落とした。
「ふふ、貴方も相変わらずね」
「大切な姫にお会いしたんですから、光栄なんですよ。おや、あそこにはいるのは」
「赤井さんよ。何回か会った事があるはずだけど」
赤井らしかぬ、呆然とした様子に志保も真純もメアリーもふっと笑った。
「赤井さん、ご無沙汰しております」
「あ、あぁ……」
「? ああ、あまりお会いした事がなかったですから覚えていらっしゃらないですか?」
「い、いや…そういう訳では…」
「秀兄は驚いているんだよ、愛莉が君をパパと呼んだからね」
「ああ、なるほど」
傍ら真純がおどけるような仕草をしながら話すと、白馬も顎に手をやりながら頷いた。
「パパー、いっしょにかえるの?」
くいくい、と裾を引っ張られると嬉しそうにしている愛莉の姿に白馬は彼女を抱き上げた。
「いいえ、今日はあなたに会いに来たんですよ」
「えー、いっしょじゃないのー?」
「残念ですがね。来月になったら会いに行きますよ」
ぷぅと膨らませていた顔があっという間に笑顔に変わった。
「ほんとー? やったぁ! しゅうおじちゃん、アイリのパパだよー」
目線が同じだからか、愛莉が嬉しげに白馬の顔をぺちぺちと叩きながら紹介してくれた。
動揺しつつも、そこは平常心を常に持つ捜査官として「そうか」と愛莉の頭を撫でた。
「あなたたち、そろそろ行くわよ?」
志保が呆れたように振り返ると、白馬は慌てて彼女の元へと歩いていく。
どうやら空港まで送迎する気でいたらしい。
真純とメアリーも空港まで送るつもりであったし、昼も一緒に摂ろうと思っていたので、彼女たちが待つエントランスへと向かう。赤井も後をついていった。
「真純さん方はどうします?」
荷物を積み込みながら、車を見てみる。流石にこの人数は乗れないようだったし、赤井がいたことから車があるのは分かっていたのでそちらに乗るから大丈夫だとなった。
「そちらは家族水入らずで乗るといい」
「……そうね、じゃあ、空港で」
そう言って志保と愛莉は白馬の車に乗り込んだ。
「ねーねーパパ、」
聞いて聞いてと足をバタバタさせながら話す愛莉に、白馬はハンドルを握りながら話を聞いている。
「愛莉さん、どうしました?」
「ゆみちゃん、きれいだったよー」
「愛莉はフラワーガールをしたのよ。すごく頑張ってたし、可愛かったわ。それに会場内ではずっと写真ばかり撮られていたわ」
「そうですか、愛莉さんはさぞかし可愛かったんでしょうね」
「写真もいっぱい撮ったから後で送るわよ」
「それは楽しみです」
しかし、まだ日本にいればいいのにと呟く白馬に志保は苦笑いした。
「大丈夫だと思っていたはいたのだけれど、やはりまだあちらがいいみたいなのよ」
「そうなんですか、父と母もよろしくと言ってましたよ。愛莉さんに会えないのが残念みたいですが」
「あら、それは悪いことしたわね。こちらこそよろしくと伝えておいてくれる?あと、謝罪も」
「ええ、分かりました」
そこから空港までは愛莉が白馬に色々お話をした。
「ドクターにあったよ」
「ドクター?」
「おじいちゃん!」
「っ、ああ、阿笠博士にお会いしたんですか?」
「うん!」
「それはそれは良かったですね」
「えぇ、すっかり愛莉にデレデレになってね。イギリスへちょくちょく来るみたいな事を言っていたわ」
「では次は博士と一緒に行きましょうか」
「それもいいかもしれないわね」
微笑する志保をバックミラーで確認しながら、そうですね、と白馬も答えた。
空港では真純たちと合流したものの、パパ、パパとはしゃぐ愛莉に真純が白馬くんに愛莉を取られた〜と嘆いている。
阿笠博士も見送りにと空港に来ていて、愛莉から「おじいちゃん、パパだよ」と紹介されて、眼を丸くしていた。
後で、志保から「そう思っているのよ」と聞かされたものの、事実は分からない。それは志保の白馬への態度も相俟って何が正しいのか、分からなくなったのは博士だけではなく、赤井もだった。
女性陣はそんな彼らに笑うだけだし、愛莉は白馬にべったりだし、白馬は白馬で愛莉を丁寧に扱うだけでなく、さりげなく志保への対応も忘れない。
見た目が麗しい一家の姿に通りかかる人たちがチラチラと見ていた。
そんな中、その光景をとある人物が見ていた。
人混みだったからか、はたまたあまりにも面識がない故か、彼らを見ていたのだ。
1人1人に「ばいばい、またね」と言っては少し涙ぐむ愛莉に、メアリーはすぐに戻るからなと言い、真純はまた遊びに行くからな!と告げる。
赤井と阿笠も今度はこちらから会いに行くと約束をして、白馬はまたすぐに会いに行きますよと恭しく愛莉の手の甲に口づけをした。
最後に白馬は「では志保さん」といって、彼女の頬へ口づけをすると、博士が「なっ!」と声をあげたが、志保は笑って白馬の頬にキスを返した。
驚く博士をよそに「あっちじゃ普通なのよ」と笑ってみせたが、純粋な日本人たる阿笠には驚くしかない。
志保は笑いながら「フサエさんと別れの時はどうしてるのよ」と問えば、顔を真っ赤にしていた。
なかなか慣れないその習慣に、阿笠は毎回ドッキドキしているのだ。
ちょいちょいと服を引っ張られるのを感じて、下を見れた愛莉が引っ張ている。
どうしたのかと、しゃがんでみると「おじいちゃん、またね」と頬にキスをされた。
あまりにも可愛らしい孫娘に阿笠は混乱していたのを忘れてデレデレになったし、それを見た真純も赤井も自分にも!と頬を差し出していることに、志保とメアリー、白馬は顔を見合わせて笑ったのだった。
それじゃあ、またね。と愛莉の手を引いて出発ゲートを潜るまで手を振って、歩き出したのだった。
その顔はとても幸せそうに笑い、こちらに向けていた。
2017/05/29