儚見る恋
成人式は小中高の友人と久々に会う事が出来る、大規模な同窓会のようなものである。
蘭は買ってもらった振り袖を着て、園子とスーツ姿の新一と話をしていた。
すると、豪奢な振り袖を着ている園子が、思い出したように口を開いた。
「真さんから聞いたんだけど、白馬くんって結婚しているの?」
園子の一言に、同じ大学で友人である新一が、はぁ?と眉を潜めて口を開いた。
「何言ってんだよ、園子」
「そうだよ、どうしたの? 園子」
真さんとは、世界中を武者修行中という、園子の恋人で最近ようやく婚約までこぎ着けたという京極 真さんのことだ。
「だって、真さんが見たっていうのよ。白馬くんが小さな女の子にパパって呼ばれているのを」
「えー!白馬くん、子供いるの?」
「マジかよ……」
驚く新一を見るとどうやら知らないようだ。
「結婚だけならまだしも、子供までいるってどういうことなんだと、聞いてない」と驚きを隠せない新一だが、蘭と園子は「意外よねー」とか「子供って女の子?男の子?」なんて話している。
「女の子みたいよ、すっごく可愛かったみたいだよ。なんか周りにいた人も見ていたらしいし」
「やあ、ここにいたのかい」
そこに第三者の声が掛かり、見ればスーツ姿の真純が立っていた。
「あ、世良さん。明けましておめでとう」
「明けましておめでとう、蘭くん、園子くん。工藤くんも」
「ああ、久しぶり。明けましておめでとうだな」
新一と世良さんの挨拶を聞きながら、二人は今年会うのは初めてなんだ、なんて思ったりした。
「もーう! 世良ちゃん、なんで振り袖じゃないのよ!」
「いやぁ、ボクには似合いそうもなくてね。髪も短いし」
園子が世良さんが振り袖を着ていない事に不満げであるが、世良さんはいつものように笑っていた。
女の子なんだし、せっかくだからいいと思う
「そんなことないと思うけどな」
「そうよ、世良ちゃん!髪が短いならエクステだってあるんだし……って、そうだ!世良ちゃん!!」
さっきまで振り袖について話していたのに、園子が世良さんに向かって顔を近づけた。
「ど、どうしたんだい? 園子くん」
「真さんが見たらしいんだけど、白馬くん、子供いるんでしょ?! 世良ちゃんもその場にいるのを見たとか言ってたのよ!!」
「えー、世良さん、知ってたの?」
きゃいきゃいと話しまくる二人に世良は新一を一瞥してから、あー、と声を出した。
「もしかして、こないだの空港に京極さんがいたのかい?」
「うん!見たことある人たちだなって思ったら、世良ちゃんもいたとか言ってて、白馬くんに関しては写真を見せたことあったから覚えてたみたいよ」
「うーん、勝手にいう訳にはいかないからノーコメントって事にさせてくれないか。ちょっと複雑だしさ」
「……そうだよね、勝手に話してたりしたら気分良くないよね」
「気になるけど、仕方ないわね。今度、白馬くんに聞いてみようっと」
本当は根掘り葉掘り聞いてみたいが、世良さんは探偵として、そんな個人のプライベートな事は知っていても話せないよと言いたげに肩を竦めてみせた。
新一もどことなく気になるらしく、世良さんを見ていたが彼女はどこ吹く風のように、素知らぬ振りをしていた。
「そういや、宮野は帰ったんだってな」
「ん、あぁ。忙しいみたいでさ、無理を言って来てもらったんだよ。阿笠博士から聞いたのかい?」
「ああ、なんだかイギリスへ行くとか言ってたよ」
「そうなんだ、ボクも来月辺り行って来ようかな」
また聞いた『宮野』という名前。世良さんも知っている人の1人であるが、どんな人かは知らないし、見たことがない。
だが、新一たちの会話に『イギリス』という言葉に反応してしまうのは、『イギリス ロンドン』は蘭にとっては特別な思い出があるからだ。
だからこそ蘭はどこか縋るような眼で、新一を見つめた。
「新一、イギリスに行くの?」
「バーロー、俺じゃなくて世良だよ」
「あ、そう、なんだ…」
「あ、ああ……」
イギリスといえば、思い出されるのは数年前の事だ。あの時はロンドンであったが。
その様子に園子はニヤニヤしながら、彼らを冷やかした。
「なーに、新一くん。イギリスに何かある訳? 思い出のロンドンで今度はプロポーズ?」
「ちょ、な、なに言ってるのよ、園子!!」
「そ、そうだせ、そんなのあるわけないだろ!!」
顔を真っ赤にしながらもチラチラと新一を見ていた蘭であったが、新一の言葉ひとつで気持ちが低下していくのが分かる。
蘭の夢は、ざっくりいえば『お嫁さん』であり、強いて言えば『新一の、お嫁さん』である。
出来るならば、幼なじみ同士で二十歳で結婚した両親と同じように二十歳で……なんて夢を見ていた。
だけど、大学が違うからか、新一とはルーティーンが大分違う為にすれ違いも多いし、なにより警察から事件の協力要請もあるから会える時間もままならない。
以前は工藤邸へとご飯を作りに行ってたりしたが、服部が工藤邸に住むようになってから、ますます二人きりにはなれなかった。
蘭も空手の代表選手として、大会も多いし、合宿やトレーニングもある。だが、彼女は特に空手家になりたい訳でもなかった。
ただ、空手の実力が認めてもらえて、是非とも来て欲しいという要請に応えただけにすぎない。
そもそも新一と同じ大学へ進める程成績が良かった訳でもない。
だからこそ、これから就活も考えていかなければならなくなり、今後をどうするかとコーチに問われた時に、どうしたらいいのか分からなかった。
出来るならば、新一と結婚出来たらなぁ、プロポーズしてくれないかな、と夢を見ている。
ずっと待っていた。
数年前、新一が行方不明になっていた時も、そして、今も、新一からの言葉を待っている。
夢を見ている。彼から『結婚してくれ』と言われるのを。
ほんのりと頬を染めながら、新一を見ている蘭の姿を見ていた真純は
(君はいつまでも、夢を見ていればいいよ、儚い夢でもね)
どことなく、冷たい眸をして、嗤っていたのだった。
2017/05/30