ほつれる絆

名探偵コナン

成人式の日にもたらされた話に新一はひとつ引っかかる事があった。
京極さんが見たという白馬に娘といるという事件に関して、その場に世良もいたという事に疑問を抱いた。
世良が誰を見送る為に空港にいたのかは知らないが、その場に白馬がいるというのは偶然なのか、それとも二人の共通の人物。そんなのはたった1人しか想像がつかない。いや、もしかしたら赤井かもされないが、予想は宮野を見送る為だろうと思っている。
だが、娘とは誰なんだろう。他に親戚がいたのだろうか?
自宅のソファーに座り、珈琲を飲んでいると、ガチャガチャと玄関の鍵を開ける音がしたと思ったら勢いのある声が工藤邸に響き渡った。

「工藤、帰ったでー」

年末から大阪に帰省していた服部が帰って来たようだ。成人式にも出る為に、暫くは顔を見ていなかった。

「おう、お疲れさん。どうだった、大阪は」

「そんな変わっとらへんよ。ほれ、土産や」

「お、サンキュー」

手渡されたものは、酒だった。

「どうしたんだよ、これ」

「んぁ? あー、おとんとおかんがな、平次も成人したし、工藤くんにも世話になってるやさかい、持ってけって渡されたんや」

「へー、なかなか良い酒じゃねぇか」

「せっかくやし、黒羽と白馬呼んで呑もうや」

そう言うなり、服部は素早くLINEを使って二人に集合を掛けた。快斗は直ぐに返事を寄越し、せっかくだから鍋やろうぜ、鍋!材料買ってくから!と連絡を寄越した。
白馬も遅れながも、そちらに向かいます。と連絡が来たのは既に黒羽が大量の具材(魚はない)を両手に抱えて来たときだった。
ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、服部と黒羽で鍋の支度をしていると、ピンポーンとチャイムが鳴り響いた。
チャイムを鳴らす辺り、白馬には服部や黒羽のような図々しさはないようだ。

「ほれ、工藤!暇なら出たれや!」

「白馬も待たないでさっさと入ればいーのに」

「せやな、ここはもうみんなの家のようなもんやしな」

「ここは俺の家だ!」

そう怒鳴りながらも、どこか楽しんでいる自分もいる訳で、こういう雰囲気は嫌いではない。

「よ、待ってたぜ」

「こんばんは、工藤くん。これお土産です」

「お、サンキュー」

紙袋を渡され、中を見ればワインのようだった。
それをキッチンのテーブルに置けば、すかさず服部が白馬にダメ出しをしている。

「今日は鍋なんやで。ワインやのうて、日本酒やろ」

「別にこれは次回でもいいじゃないですか」

「ほな、これは閉まっておいた方がええな。工藤、どこにしまうん?」

「あー、ワインセラーにでも入れといてくれよ」

「へーへー」

「よーし、鍋出来たぜ!」

「熱燗もな」

男だらけだというのに、四人は楽しそうに笑っていたのは、どこにも見栄を張らずに自然体でいられるからであろう。
四人でテーブルに腰をおろし、ぐつぐつと湯気が上がる鍋を囲んだ。

「んじゃ、まずは乾杯か?」

「何にだよ」

「んー、無事に成人したぞーでいんじゃない?」

「適当だな」

「テキトーでいいんだよ」

ポンポンと流れる会話を楽しみながら、黒羽が「んじゃ、成人に乾杯」と軽く言ってみんな揃ってお猪口を掲げて一口飲んだ。

「あー、うめぇ!」

「美味しいですね」

「旨いな」

「そうやろそうやろ、大阪の酒や」

勝ち誇るように頷く服部をよそ目に、黒羽はお玉を持って鍋を掬っていく。
次々と四人分の皿に別けると、食べ始めた。
彼らが作ったにしては、意外と旨いなと思っていたが、鍋の元を淹れただけだと知っているので特に何も言わずに食べていく。

「しかしさー、どうせならおこたでお鍋が良かったよなー」

「悪かったな、こたつがなくてよ」

「洋館なんやからしゃーないやろ」

「服部くんあたりが1番気になるかと思いましたが」

「そりゃあ、鍋いうたらこたつで食べるんがええんやろけど、あれやで」

「「あれ?」」

服部の言いたい事がわかったのは黒羽のみで新一と白馬は何の事だとばかりに、首を傾げた。

「こたつは一度入ると出る事が出来ない魔の暖房機だよ? そしたら、誰が熱燗の追加とかやれる訳?」

「「ああ………それは黒羽だろ/くんじゃないですか」」

「ひどいっ!私はあなたたちの妻じゃないわよ!!」

「妻っつーか、」

「ええ、どちらかと言えば…」

「「「家政婦だろ/でしょうか」」」

「服部までひどいっ!!」

下らない事で盛り上がれるのも楽しくなり、そういえば!と黒羽が白馬を見た。

「どうしたんですか、黒羽くん」

「小耳にちょっと挟んだんだけど! 白馬にガキがいるって聞いたんだけど!!」

「まじかいっ!?」

「おいおい…」

聞きたかったことを黒羽がいきなり本人にぶつけていた。
傍らの服部は酒を噴き出す勢いだ。
そんな中、酒をぐいっと煽った白馬はお猪口をテーブルに置いた。

「いきなり何を言うんです、黒羽くん」

「なんや、デマかい」

冷静な白馬の対応に、早々にデマだと信じた服部は酒を煽っていた。

「いや、俺も聞いた」

「工藤も?!」

じーと見つめてくる眸に、白馬はやれやれと言った様子で口を開いた。

「確かに、パパと呼ばれていますが僕の子ではありませんよ。結婚もしていないです」

「あー、だよな……白馬にそんな甲斐性があるとは思えねーし」

「失礼ですね。でも、出来るなら父親になりたいと思ってます」

「ほんまかい、俺らまだ二十歳やで?」

「お一人で苦労されてるのを見ると 手を差し出したくて仕方ないのですよ」

どこか慈しむような顔で話す白馬に誰もが見惚れたような気がする。
そんな誰かを想うような相手がいるんだな、自分もそんな風に見られてたりするのだろうか。

「んで?」

「はい?」

新一が乙女的な思考を飛ばしていると、白馬の横に座っていた黒羽がどこか目を据わらせて爆弾を落とした。

「志保ちゃんに不埒なこと、働いたヤツは誰か分かったのかよ?」

「黒羽く「「はぁあああああああああああ?!」」」

「ちょっと待てや! 子供って、あの姉ちゃんの子なんか?!」

「アイツ、子供なんていんのか?!」

「………………」

驚きで黒羽の顔を押し退けて、白馬に問い詰めれば、こめかみを揉んでいた。

「…………そんなの、聞いてねぇぞ…」

いきなりの話に新一の頭脳明晰な頭がついていかない。
いくら2年以上も離れていたとはいえ、そんな重要なことを『相棒』たる自分に話してくれても良かったではないか。
なんだか、自分が知らないで、白馬や黒羽が知っている事に新一はムカムカしてきた。
1番近くで、信頼出来て、背中を預けられる相手だと、自分たちはそんな関係だと思っていたのに、どこかショックだった。
ハッとしたのは、世良も知っていたということだ。
それに、大学に入っての夏休みにイギリスへ行ってきた彼らの様子が変だったのは、そういう事なんだろうか。

「なんやあの姉ちゃん、結婚しとらんのか?」

服部の言葉に新一はハッとした。
先ほど、白馬が言っていたではないか『出来るなら父親になりたいと思ってます』と。つまり、父親がいない。
新一のみならず、黒羽も服部も白馬を見つめた。だが、白馬はそんな彼らを気にせずに酒を煽った。
白馬は、ただ何も言わずに酒を飲むだけで何も話してはくれずに、新一はどこが取り残されたような気持ちになった。

あんなに近くにいた筈なのに、何も知らないでいることが普通になったことに───。



2017/06/01


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