振り向けばいなくなっていた
灰原にそっくりな少女がこちらに向かって『パパ!!』と呼んだ事に驚きを隠せなかった。
「愛莉さんっ!」
背後から大きな声がして、振り向くと同時に脇を駆け抜けていく少女が白馬に向かって抱きついていた。
「探したんですよ、どこにいたんですか?」
「れいくんのトコだよ。ドレスのおれいにいってたの」
「はぁ、志保さんが探してましたよ。阿笠博士がいらしたのに、」
「おじいちゃんが?!アイリ、いってくる」
「待って下さい!僕も行きますから「ちょっと待った───っ!!」黒羽くん?」
また走り出そうとした少女を抱き上げた瞬間、黒羽が大声を上げた。
少女はキョトンとして、こちらを見ている。
ツカツカと歩み寄った黒羽は白馬を掴んだ。
「待て待て待てちょっと待て!!その子って、もしかしてもしかする?」
「あぁ、写真で何度か見たはずですよね。志保さんの娘の愛莉さんです。愛莉さん、僕や志保さん、真純さんの友人たちですよ」
「ママたちの?」
「えぇ。ご挨拶なさって下さい」
白馬は抱き上げていたその子を床に下ろすと、促した。
「はじめまして、みやのあいりです」
ふわふわの真っ白なドレスの裾を摘まみながら、少し腰を下ろして挨拶する少女は、顔は灰原哀にそっくりなのに笑顔が眩しかった。
「うわぁ!!さすが、志保ちゃんの子供ー!!可愛いぃぃ!!俺、俺は黒羽快斗。よろしく小さなお姫様」
目線を合わせるように屈んだ黒羽は何もない空間から、ポンッとピンクの煙とともにピンクの薔薇を差し出した。その娘はぱぁ!と眸を輝かせた。
「すっごーい!ねぇ、パパ!すごいよ!!」
「黒羽くんはマジシャンなんですよ」
「ありがとう!かいとくん」
「──────っ!志保ちゃんそっくりの顔でそんな事言われるなんて、俺、嬉しいっ!!」
「つか、他にツッコミとこあるやろ………。まぁ、それは置いといて、俺は服部平次や、よろしゅう」
「………パパ? この人、にほんごへんだよ」
「あぁ、これは大阪弁といって、方言なんですよ」
「へぇ〜、よろしくね、へいじくん」
そして、こちらに向けられる眸に、新一は一瞬言葉を詰まらせた。
「………、あー、工藤新一だ。オメーのかーちゃんには色々世話になってたよ」
「くどう? ゆうおじちゃんとゆきちゃんと同じみょうじだね」
「工藤夫妻のご子息ですよ」
「そぅ「ちょっ、なんで、父さんと母さんを知ってんだ?!」」
驚いて口調を強めれば、少女は白馬の後ろに隠れた。
「あ、いや、ごめん、驚かして……」
「………だいじょうぶ……。あいり、ママの所に戻る」
それでも白馬に抱きつき、彼女は抱き上げられて連れて行かれた。
「くどー!あーんなちっちゃい子に大声出すなよ、びっくりさせちゃって」
「ほんまや。──しっかし、宮野の姉さんの子だけあって、しっかり喋れるんやなぁ」
「うんうん、凄い賢かった。つか、写真で見てたけど本っっっ当に可愛かったぁ」
「せやなぁ、すごい別嬪さんになるやろなぁ……つか、白馬はホンマに『パパ』って呼ばれてるんやな…」
「俺もあの子に『パパ』って呼ばれたい」
「なに言ってんだ、黒羽?」
そんな事を話している二人を横目に、新一は遠ざかっていく二人を眺めていた。
そのまま降谷さんの控え室をノックすれば、そこには毛利のおっちゃんや妃弁護士。それにキールこと水無玲奈がいた。いや、水無玲奈ではなく、本堂瑛海だったろうか。
極めつけは何故かいる工藤優作と有希子の姿だ。
「あらー、新ちゃんたち〜」
「なんで母さんや父さんがいるんだよ」
「いやぁね、零ちゃんの晴れ姿を見に来ない訳ないじゃない」
「我々も降谷くんから招待されていたんだよ」
パチンと大人気もなくウィンクする親父は放っておいてた。妃弁護士と毛利のおっちゃんは俺が来た事で蘭が来た事が分かったのか、二人で控え室を出ていった。
そして、そこで本堂瑛海さんと向き合った。
「久しぶりね、工藤新一くん」
「お久しぶりです、本堂さん」
「あの時以来ね、元気だった?」
「はい、本堂さんも元気でなによりです」
まだアナウンサーとして、活躍しているからこの場ならともかく、みんながいる場所では水無さんと呼ばなくてはならない。
「さっき、廊下が騒がしかったけど何かあったの?」
「工藤がー、愛莉ちゃんを怖がらせたんだよー。かーわいそ」
有希子の質問に快斗が応えた。つか、ワザとじゃねぇし!
「まぁ!愛莉ちゃんを怖がらせるなんて!ダメじゃない!!」
「つか、なんで母さんたち顔見知りになってるんだよ」
「だってぇ、博士から話は聞いたし、写真見たらすっごく可愛いんだもの!すぐに会いに行ったのよ。ねー、優作〜」
「はぁ?聞いてねーぞ?」
「あれ、言ってなかったかい?すまないね、新一」
「愛莉ちゃん、すっごく可愛いでしょう。イギリスでもモテモテなんですって」
「そりゃあ、あんなに可愛かったらなぁ」
「あちらのお爺様や白馬くんがプロポーズした子にお断りしてたりするのよ〜」
「あんなちっさいうちからもうプロポーズされとんのかい!」
「そうみたいよ」
「マジかよ……」
「ほらほら、それよりも君たちは降谷くんに挨拶に来たんだろう」
話を聞いて笑っていた降谷さんに、3人は慌てて「おめでとうございます」と述べた。
少し照れながらも、白いタキシードを着て前髪を上げている降谷さんは今日も、いや、今日は一段と格好良かった。とても三十半ばとは思えないくらい、相変わらず若々しい。
「そんな改まって言われると照れるね。ありがとう、君たち。水無さんも今日はよろしく頼むよ」
「えぇ、分かったわ。じゃあね、工藤くんたち」
本堂さんは今日は司会をするらしく、早めに行ってしまった。
式は厳かにチャペルで行われた。
赤井さんと腕を組んで現れた世良は、卒業式以来で、短かった髪を纏めていた。
そして、ベールを持っていたのは先程あった 宮野愛莉だった。
それに対し、博士が懸命にカメラに納めていたし、何故か羽田秀𠮷と由美さん夫妻もカメラで世良ではなく愛莉を撮影していた。おいおい、と思ったのは言うまでもない。
蘭や園子、和葉も「可愛い、可愛い」と小声で言い合っている。
人数の関係上、新一、服部、黒羽に白馬は降谷さん側の座席に座っている。他には父さん、母さん、毛利夫妻や公安の風見さんなどもいた。
ベールガールを終えた愛莉が赤井に抱きかかえられて親族の席へと移動し、そこで赤みがかった茶髪がさらりと揺れたのが見えた。
───何年ぶりだろうか、
束の間、見たこともないような顔をしていた。あんなに、あんなに綺麗に笑うヤツだっただろうか……。
そんな事を考えているうちに式は滞りなく進み、指輪の交換に誓いのキス、蘭たちを横目でみれば、わぁと小声あげながらその光景に見とれていた。
直後、ちらりと向けられた目と合い、そっと逸らした。
なんだか、園子が肘で蘭を突ついているのが視界に入り、ため息を吐きたくなった。
新郎新婦退場の際に、また宮野愛莉が花籠を持って先を歩いては花を撒いていった。
その時も、博士はもちろん、何故か母さんたちまで彼女を撮影していた。
ふと見た宮野がメアリーさんと苦笑いをしていたのは、赤井さんもカメラを持っていたからだろう。
新郎新婦は一旦脇に逸れて、ブーケトスやライスシャワーがあるから、招待客は先に外に出された。
いつの間にか白馬が宮野の傍にいて、談笑していた。
重厚そうな扉が開き、祝福の鐘が鳴る中、降谷さんと世良が現れた。本当に幸せそうなのが雰囲気で分かる。
皆揃って、おめでとうといってライスを振りかけ、世良がブーケを投げる時には園子が張り切って手を伸ばしていた。
受け取ったのは遠山さんで、服部がみんなから冷やかされていたし、無論俺もからかってやった。
面白がって、服部と遠山さんにライスシャワーを浴びせてやったりもした。
にこやかに笑っている中、新一は宮野に近づいた。
「──宮野、」
「工藤くん………久しぶりね、元気にしてた?」
5年ぶりの再会だというのに、変わらない彼女に笑いそうになった。
「おう、オメーも元気そうだな…」
「えぇ、毎日疲れるくらいには元気よ。そうそう博士たちから聞いたわ、探偵事務所開いたんですってね、おめでとう」
「あ、あぁ……ありがとうな」
「ママー」
話しているとさっきの彼女が宮野に寄ってきた。
宮野は彼女の目線に合うように屈んだ。
「どうかした?」
「ますみちゃんのお花、アイリも欲しかったー」
「あら、あなたがブーケトスのブーケを手に入れたと教授が聞いたら卒倒するわよ」
「おじいちゃんが?」
「えぇ、それに赤井さんや博士もびっくりするわよ」
「でもゆみちゃんの時はまた今度ねって言ってた」
「じゃあ、後でママが用意するから、ね?」
「本当?」
「えぇ、本当よ」
「分かった、約束ね!ママ!」
「愛莉〜、こっちにおいでー!」
ミニブーケを振り回しながら世良が愛莉を呼んだ。
なーに?と元気に駆けていく後ろ姿を見ながら、新一は笑った。
「オメーの子供にしては随分と元気で素直みたいだな」
「……そうね、」
スッと体勢を戻し、口元に手を当てクスリと笑う志保に、新一が声を掛けようとした時、横から黒羽が飛び込んできた。
「志保ちゃ──ん!ひっさしぶりぃ〜。会いたかっったよ──っ!!相変わらず、美人さんだねー」
「お、おい、黒羽…」
「黒羽くん、それに服部くんも久しぶりね」
「落ち着けや、黒羽。久しぶりやのぅ、宮野のねーちゃん」
両手で志保の手をがっちり握る黒羽に、服部は呆れていたし、志保は笑っていた。
「志保ちゃん、愛莉ちゃんめちゃくちゃ可愛いね!俺のお嫁さんに欲しいなー」
「そうね〜、じゃあ、白馬くんと赤井さん、それに降谷さんと博士とうちの教授から許可が出たらいいわよ。あ、もちろんメアリーと真純ちゃんからもね」
「う、わー………白馬はともかく、赤井さんと降谷さんが許可くれるとは思えないんだけどー」
「白馬はともかくって、貰えるんか?」
「白馬はいいのいいの、愛莉ちゃんを拐うから」
「ちょっと、ウチの子を誘拐する気?」
「それこそ大変なことになるぞ、黒羽」
5年ぶりとは思えない軽快なリズムでぽんぽんと紡がれる会話に、四人はどこか可笑しくて笑えてしまう。
「さっき、遠山さんがブーケ取っていたわよね?次はあなたが結婚式かしら?」
「おいおい、俺はまだ警察学校に通う身やっちゅー話や」
「あら、そうなの? 意外だわ、貴方たちなら直ぐに結婚しそうなのに」
「あんなー、さすがにそこまで世の中甘く見てへんて」
「そうそう、さすがに地に足がまだ着いてない状態で結婚は出来ないよ」
「考えてるのね────いいことだと思うわ」
「志保ちゃんは、け「志保──!」」
黒羽は訊きたいことを言葉にする前に花嫁である世良が彼女を呼んでいた。
「今、行くわ。──で、なに?黒羽くん」
「───ううん、なんでもないよ」
「…そう? じゃあ、そろそろパーティみたいだし移動したらいいわ」
志保はそう言って、パーティドレスを翻しながら世良の元へと歩いていった。
それと入れ代わるように、新一たちのところには蘭たちが集まってきた。
世良が綺麗だったとか、ドレスが綺麗だったとか、式も素敵だったとかで盛り上がる蘭たちをよそに新一は、白馬と一緒にいる宮野を見た。ドレス姿の愛莉をしきりに誉めているのか、撫でているし、その娘は白馬にも撫でられてはすごく嬉しそうにしていた。
何故か、それが気になった。
2017/06/16(執筆)
2017/06/17(公開)