孤獨の恋はさようなら

名探偵コナン

ガーデンパーティは2年前と然程代わりはなかったが、何故か花婿が作ったケーキを花嫁が食べさせて貰っている。
前より成長した愛莉は「アイリもれいくんから食べたい」と言って、降谷さんはでれでれしながら、フォークで掬ったケーキを愛莉に食べさせていたし、真純も一緒になって愛莉に食べさせていた。
みんな愛莉には甘すぎる気がしなくもない。いいのかしら、と見ていると

「美味しい〜〜!」

喜ぶ愛莉に、降谷も真純も笑顔だし、周りで見ている人々にも笑顔があった。
それを見ていると白馬が話し掛けてきた。

「先程、工藤くんと話してましたね」

「えぇ、久しぶりにね」

「────なにか、言われましたか?」

「特に何も?」

「────愛莉さんについては、」

「『オメーの子供にしては随分と元気で素直みたいだな』的な事は言われたわね」

「…………そうですか」

「ええ、そうよ」

志保は愛莉に向けていた顔を、隣に立つ白馬に向けて笑った。

「どうしたの? 妬いてるの?」

「え、あ、いや、その………そう、かもしれないです」

顔を少し赤らめた、素直な白馬に志保はフッと笑った。

「わ、笑わないで下さいよ、志保さん」

「ごめんなさい、あなたが可愛くてね」

微笑していると「白馬くーん」とあの財閥のお嬢様が近づいてきた。
チラチラとこちらを見ながら、鈴木園子さんが話し掛けてきた。

「鈴木さん、どうかしましたか?」

「えと、宮野さん!宮野さんも良かったら一緒に話しませんか? 新一くんや服部くんとも知り合いなんでしょう」

愛莉を探していた時、白馬から見つかったと連絡が入り、真純の控え室へ戻れば彼女たちが来ていたのだ。そこで簡単な挨拶をした。
真純ちゃんが、工藤くんや服部くん、黒羽くんとも知り合いなんだと紹介し、彼女たちも自己紹介をしてくれたので、自分も挨拶をした。
そこで鈴木さんが「白馬くんの奥さんじゃないの?」と訊いてきたのは愛莉が白馬くんを「パパ」と呼んでいたのもあるが、2年前に愛莉の存在が、工藤くんたちまでに知られたのは彼女の婚約者のおかげだったようだ。
愛莉と共に挨拶をすれば、やはり見知っているからか3人は揃って『哀ちゃんに似てる』と言っていた。しかし、笑顔で挨拶をする愛莉に『あの子はこんな風に笑わなかったわよね』と言っていた。
園子を咎める蘭であったが、事実であるし、それで誤魔化せるならばそれで良かった。
それからは可愛い、可愛いと博士も混じって話していたのを志保は内心複雑に思いながら、眺めていた。
久しぶりに見た蘭さんは相変わらず、綺麗で優しさを備えていた。大学卒業後は教員免許を取っていたらしく、高校の先生をしながら、空手部のコーチもしているらしい。
遠山さんは会社務めをしているらしく、警察学校に通う服部くんとは相変わらず遠距離だそうだが、鈴木さんたち曰く関係は良好らしい。
一番の意外は鈴木さんだ。てっきりもう財閥の役員になっているものかと思えば、自社に入りながら、一社員として頑張っているようだ。
手を引かれ、先程会った彼らと再び話すことになった。

「黒羽くんも宮野さんを知ってるのね」

「とーぜんだよ!志保ちゃん、めっちゃ美人さんだし」

「それ答えになってないわよ」

クスリ、と笑えば『相変わらずだな〜、志保ちゃんは』と言われてしまう。それでも楽しさはあった。

「ママ〜」「志保」

いつの間にか、赤井が愛莉を抱き上げていた。
志保はどうしたのかと、愛莉に近づいた。

「どうかしたの? 愛莉?」

「………眠い…」

こしこしと目を擦る愛莉に、そういえばはしゃぎまくっていたし、今朝も早かったからな、と思った。

「じゃあ、控え室でも行く?」

「うん……ママも一緒がいい…」

抱っこと言わんばかりに手を伸ばしてくる娘に志保は微笑んで、赤井から愛莉を抱き寄せた。

「ごめんなさい、こうなったから少し席を外すわ。赤井さん、真純ちゃんたちに言っておいてね」

「あぁ、分かった」

愛莉を抱っこするか?と訊いたが、当の愛莉が志保にしがみついているのを見て、肩を竦めて真純たちの方へと歩いていった。
新一は分からないが、話すならば今だと思い、誰にも知られないようトイレに行くふりをして、屋内へと入っていった。
それを白馬たちが見ていたとは気づかなかったようだ。


志保は親族控え室へと入り、長椅子に抱きついていた愛莉を抱えたまま腰を降ろした。

「横になる?」

「……………ううん…」

「眠いなら寝ていいわよ」

「……う、ん……」

疲れたのか、蒼い眸がゆっくりと瞼に隠されていくのを眺めながら、志保は頭を撫でていた。
先程よりもずっしりと体重が重く感じたのは寝てしまったのだろう。しかし、この重みですら志保にとって幸せである。
イギリスの子守唄を口ずさんでいると、控えめだがドアをノックされた。
白馬だと思い、どうぞ、と告げれば滑り込んできたのは新一の姿だった。

「………工藤、くん?」

「…………寝たのか?」

「え、えぇ………」

ジッと愛莉を見て、新一は訊いてきた。
どうしたのか、と志保は思った。少し、いやドクドクと鼓動が早くなるのが分かった。
もしかして、知られている? 感付いた?
知られたくない、知って欲しくない
震えないように、志保は然り気無く訊ねた。

「………どうかしたの?」

「いや、なんつーかさ、宮野と話したくて」

ニカッと笑う顔はまるで子供のようで、江戸川コナンを思い出させる顔であった。

「話?」

「あぁ、……ったく、留学だって言ってた癖に全然帰って来ねーし、イギリスで働いてるし、いつの間にか子供産んでるし、音信不通もひでぇな、オメー」

「あら、連絡寄越さなかったのはあなたも同じじゃない。黒羽くんはよくメールくれていたわよ?」

「るせーよ。しゃーねぇだろ、時差あるからさ、思いついた時間に電話掛けたらぜってぇ出てくんないだろうしよー」

「そうね、時差を無視して連絡されたら出る気はないわね」

「だろ? だから連絡出来なかったよ」

「…………そ、そう…」

なんだろう、この会話は。と志保が思っていると、新一の視線は愛莉を捉えていた。

「オメーが子供産んでるって聞いて、びっくりした」

服部も黒羽もびっくりしてたよ。あぁ、黒羽はなんか知ってたっぽいけど、と話す探偵は伺っているようだ。

「そう? そんな事もあるでしょ」

「オメーに限ってはねぇだろ」

「そんなことないわよ」

「………父親って、どんなヤツなんだ? 」

「…………」

新一の言葉に志保はキョトンとした。
顔を見て、そして悟った。彼は知らないままなどだと。ならば──

「いないわよ、そんなの」

「そんな訳ねーだろ」

「ふふ、そんな事は分かってるわよ。でもね、私はそれでいいのよ?」

「なんでだよ、みんな口に出さないだけで心配してるんだぜ?」

博士も赤井さんや降谷さん、勿論真純や黒羽たちも、と言いたげな新一に志保は本当に可笑しくなってきた。
なんで笑うんだよ!と睨んでくるが、そんな事よりも可笑しいのだから仕方ない。
むすっと拗ねる新一に、志保は愛莉を見つめ、手を動かしたまま口を開いた。

「───工藤くん、」

「…………なんだよ、」

「私ね、とても幸せなの」

新一は顔を上げて、志保を見た。その表情に驚いて身体が固まった。

「この子がいて、とても幸せなのよ」

慈しむように愛しげに我が子を見つめる表情は未だかつて見たことはない、とても美しい顔である。

「あなたには分からないだろうけれど、私はね愛した人の子を得たのだから」

「へ?」

さっきから驚きっぱなしの新一に志保はまたクスリ、と笑う。

「愛莉は、ちゃんと私が好きになった人との子よ? 好きだからこそ産めたし、頑張ってこれたのよ」

「あー、そ、そうだったんだ……。結婚は、しなかったのか?」

「…………あなたはどうなの?」

「は?」

「あれから蘭さんと、てっきり直ぐにでも結婚するんだとばかり思っていたわ」

「バーロ、まだ未成年だっただろうが」

「あら、ロマンチストな貴方なら、高校卒業してすぐとか、二十歳の彼女の誕生日とか、」

「だから、…………なんつーかさ、蘭の事は好きなんだけどよ、最近違うんじゃねーかって思えて、さ」

「なにが?」

「………蘭との関係がさ」

「………何を言っているの? 好きなんでしょう?」

「ああ、蘭の事は好きだ。それは変わらない。でも、蘭とは幼なじみで良かったんじゃないかって」

「あなた、あんなに蘭さんを大事にしていたじゃない」

「あぁ、そうなんだけどよ……なんつーか、オメーの方がしっくりしてたのかもな」

「、!?」

「オメーがさ、イギリスに留学しても、実家は博士ん家だし、帰ってきたら昔みたいに探偵業手伝ってもらってさ、イギリスの話を聞かせてもらったり、事件の話をしたりしてさ、そんな風に過ごせるって思ってた」

「…………そう…」

「でもオメー帰って来ねーし、しまいには子供がいるとか聞いてさ、なんで教えてもらえなかったんだろう、俺は相棒なのにって。確かに恋愛事には鈍いかもしれないけど、相談とかされたらさ、オメーの相手をぶん殴るくらい出来たのにな、って」

「………それはありがとう」

志保は笑いながら礼を述べれば、口先を尖らせていた。

「なんで ありがとうなんだよ、オメーの好きなヤツを殴るんだぜ?」

「それくらいの事をしてくれるって気持ちが嬉しかったのよ」

「散々、世話になったからさー、お礼つーか、何かしてやりたかったんだよ、俺は」

「私の方があなたには助けられていたわ。あなたは私の命の恩人なんだもの」

「俺にとってもオメーは命の恩人だよ、オメーがいなかったら『工藤新一』には戻れなかっただろうしな」

解毒剤を作れるのは自分だけじゃなかったとしても、彼は自分にとって、命の恩人で輝かしい太陽な人であった。
そんな彼が自分をそんな風に思ってくれていた事に志保は口元があがっていく。嬉しくて堪らない。

「工藤くん………1つ教えてあげるわ。『灰原哀』はね、『江戸川コナン』を好きだったのよ」

「…………っ、多分、あのまま、あのままでいたらさ『江戸川コナン』は『灰原哀』を好きになっていたぜ?」

「あら、それは残念な事をしたわね」

そう言ってしまえば、二人揃って笑った。

「スッキリしたかしら?」

「……さぁ、わかんねーけどさ、話せて良かったと思ってる」

「私もだわ…………工藤くん、本当にありがとう」

今まで見たこともない笑顔を向けられ、新一も笑えた。そうか、この笑顔が見たかったのだ。
多分、組織を壊滅してから見たかったのだ、彼女が幸せに笑うことを。
それが気になっていたのだ、蘭の事よりも。

カタンと椅子から立ち上がる新一を眺めていれば、不意に顔を近づけられた。それはイギリスで、メアリーや教授、親しい人と交わすのと同じキス。
頬に触れられた唇にドキリとしながらも、友人に送る時と同じように口付ければ、どこか照れ臭そうに笑っていた。

「じゃあ、俺、みんなのとこに戻るな」

「えぇ、ああ、そうだわ。『パパ』を呼んで来てもらえる?」

「ああ」

「よろしくね、工藤くん」

「────宮野、その子、オメーに似てすげぇ可愛いのな」

「──当たり前でしょ、私の子なのよ」

「ははっ……。羨ましいな、白馬が」


最後は声が小さくて志保の耳には聞こえなかった。
パタンと閉じた扉を見つめ、頬に流れる熱いものに志保は指で拭う。それでも次から次へと溢れてくる。静かに泣いていると声を掛けられた。


「……………志保さん」

静かに開いた扉から白馬が顔を覗かせ、そしてスッと入って来た。
志保を見ると、彼女の前で片膝を付いて、見上げてきた。

「…………僕はあなたを愛しています。こんな風に泣かせたりしません、だから、」

なんと言えば伝わるのだろうと、白馬は目を瞑った。そんな時、柔らかな手が白馬の頬に触れた。

「…志保、さん?」

「………私、子持ちよ?」

「え? あ、はい……?」

「そんな私でも? それにとても複雑な過去を持っているのよ? それでも?」

「───それでも、あなたを愛しています。勿論、愛莉さんも、です」

「………私ね、江戸川くんも工藤くんも好きだったわ」

「……えぇ、知っています」

「好き、だったのよ」

「─────、では、今は……」

「今はね────」

ずっと、私と愛莉の傍にいてくれて、慈しんでくれる、あなたが愛しいわ──
そう告げれば、いつもは頬に触れる唇が静かに口に触れたのだった。











ずっと、叶わない恋をしていた。
決して彼には知られることない、たった1人で終わる恋。
でも、その恋も終わりを告げた。
もう、あの恋に戻ることはない。あの孤獨な恋は終わりをなのだ。


2017/06/16(執筆)
2017/06/17(公開)


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