君の居場所は今は遠くに

名探偵コナン

控え室から出て、建物から移動する際に白馬と会った。どこか伺った様子のヤツに口を開いた。

「……宮野が呼んでいたぞ」

「………そうですか、ありがとうございます」

すれ違い、白馬が足早に歩いていく姿を首だけで一瞥してから庭先に出ればパーティーはまだ続いていた。

「あ、新一!どこに行ってたのよ?」

近づいてくる蘭に、先程の宮野の姿を思いだしながらもかぶりを振った。

「トイレだよ、トイレ」

「その割には遅かったわね。また事件でも合ってるんじゃないかと思ったわよ」

からかう様に話す蘭に少し笑いながら口を開いた。

「………そんな訳ねーだろ…」

スッと蘭の横を通りすぎて、服部や黒羽がいるテーブルに向かった。
「ちょっと、新一ぃ!」と蘭がこちらを振り返っていたが、今はあまり話したくはない。不貞腐れて園子たちの方へいったようだ。
拒否するように背を向けて服部たちがいるテーブルに移動はした。

「遅かったの、工藤」

「………話せたのか?」

「……………………あぁ」

どこまで知っているのか、何かを知っているのか、服部も黒羽もこちらを見てくる。

「俺さ、鈍いのな…」

呟いた言葉に、服部と黒羽が顔を見合わせる。
互いに苦笑いをしながら「今更やのぅ」「今更だなー」と口にした。

「……んだよ、」

「だぁってさ、彼女が誰かさんを見ていたなんて、あの事件が解決する前から関係者には分かっていたのに、肝心の誰かさんはちーっとも気づかないしさ。つくづく俺が浚ってやりたくなったつーの!」

「中森さんはどうしたんだよ」

「そりゃ青子は大事だったけど、彼女を見てると欲しくなるよ。あの頭脳に冷静さ、なにより美人。俺の相棒に欲しかったよ」

「まぁ、確かにあのねーちゃんの頭脳とサポート力はとても羨ましいつーのは分かるな」

「相棒が欲しいだけじゃねーか?」

「それはお前もやろ? なにより、」

「「困らないだろ、彼女だと」」

二人がうんうんと頷きながら話している。幼なじみの彼女たちでは味あえない、打てば響くようなやり取りが、直ぐには話が通じることが堪らない。
しかし、それだったら浚うとかはしなくても親しい友人でもいいじゃねーか、と言えば、きっとそれだけじゃ足りなくなると黒羽が言った。
服部は言わないが、彼女の才能は買っている。
はぁ、とため息を吐くと主役たる世良が「どうしたんだい?君たちがこんなところで固まったままで」といつの間にかカラードレスに変わっていた。
眸に合わせたのか、淡いグリーンのエンパイアラインのドレスだ。

「……いつの間に着替えたんだ?」

「さっきだよ。全くいつの間にかいなくなっていたよな、工藤くん」

ピンクのルージュで彩られた唇から八重歯が見えて、いつもよりも綺麗なのだが、世良なのだと安心感があった。
そういえば、宮野と世良は従姉妹同士であり、似ているのだ。一見分からないが、顔立ちや美しい翡翠色の眸。
はた、と思考が止まった。
あのコの眸の色は何色だっただろうか──そうだ、深い蒼い眸である。

ズキリ…と頭の中で鈍い痛みと同時に何か映像が過るが、なんなのかそれが分からない。
なんだろうか。

「工藤くん?どうかしたのかい?」

「ん、あ、あぁ。なんでもねぇよ、世良」

「……工藤くん? ボクはもう世良じゃないだけどな」

「そーだよ、真純ちゃんは降谷さんだって」

「しかし、降谷さんって呼ぶとあっちのにーちゃんしか頭に浮かばんな」

「どーせ、服部は『降谷のねーちゃん』呼びだろ?」

「まぁ、そうなるやろな」

「ははは、君たちは相変わらずだなぁ。あ、志保ー、愛莉ー」

そういえば、世良と会うのは卒業以来だったな、と思っていると、屋内から出てきた彼女たちに気づいた真純が手を振った。
振り返れば、白馬が愛莉を抱っこし、その隣に宮野が立っていた。なんでだろう、その光景に胸がつまり、泣きそうになる。

「あー、ますみちゃん、ドレス変わってるー」

白馬に抱きかかえられていた愛莉がじたばたしながら真純を指差していた。

「愛莉、人を指差ししちゃダメよ」

「はーい」

むぅと膨らませながらも元気に返事をする彼女の娘に笑みが溢れる。
本当だ、彼女が言った通りに、彼女は幸せなんだ。
だからこそ、あの娘はみんなに愛されて、笑顔を、幸せを振り撒いている。

「ますみちゃん、きいてきいて」

世良(もう降谷だが)に近づいた愛莉が、ナイショ話をするように口元を両手で覆うように話しかけた。真純も意図が分かったのか、ドレスを少し持ちながら屈んだ。

「あのね、あのね、」

ナイショ話の割には周りに聞こえている。
宮野や白馬はもちろん、近くにいる服部や黒羽、俺にも声が駄々漏れだ。
それがまた可愛らしいとも思えた。

「うん、なんだい?」

「ママとパパがね、さっきお口にキスしてたよ」

「ちょっ、愛莉「え───────!!」」

とんでもない発言をされ、志保や白馬が慌てて娘を止めるよりも早く、大声を上げたのは黒羽だった。

「え、ちょっと待った!愛莉ちゃん、それ本当?」

「えっと、かいとくんだ!ホントだよ、アイリ見てたもん!」

「う、嘘だろぉぉぉ!!白馬、テメェ!!」

「な、なんですか!黒羽くん!!別に構わないじゃないですか」

「やだよー!志保ちゃんが汚されるなんてぇ〜」

「汚されるってなんでやねん」

愛莉に確認を取った黒羽は背後にいた白馬の肩を揺さぶりながら文句を言えば、服部が呆れたようにぼやいている。

「別に、黒羽くんには関係ないでしょう。僕はようやく志保さんから結婚の承諾をもらったんですから」

「「「「「「……………………………………」」」」」」

「ちょっ、白馬くん!!」

「「「「「「な、なんだってぇえ?!」」」」」

刹那、聞こえていただろう博士、赤井、降谷、有希子も騒ぎたてていた。メアリーは今更だな、と我関せずと云わんばかりに、秀𠮷夫妻とワインを飲んでいる。毛利・妃夫妻はなんだ、どうしたといった雰囲気だが、宮野志保としての接点はない為、見ているだけだ。
工藤優作は少しだけ残念そうな顔をしていたが、それを悟られることはないし、蘭、園子、和葉は今日会った人物だけにそれほどはしゃぐことはないが気にはしているようだ。
そして、工藤新一は、呆然とそれを聞いていた。

(…………結婚の、承諾……?)

さっき、白馬を『パパ』と言っていた宮野を思いだしながら、胸が痛むのを感じた。
覚悟していたはずなのに、聞いてしまえば、想像を上回る胸の痛みが身体中に回っていくような気がする。

(………そっか、結婚、すんのか……)

志保を見つめれば、顔を上げた彼女と眸がぶつかった。それから、はにかむように笑う彼女に目を瞠った。

(………あぁ、くそ、………綺麗だな、)

手を伸ばせば、届く場所にいたはずだったのに、いつの間にかいなくなっていた相棒。
そう、相棒だったはずなのに、俺のワトスンだったはずなのに、いつの間にか届かない、先にいってしまった人。
真純や赤井さん、博士たちに囲まれておめでとうと言われている二人を見ていると、くいくい、と裾を引っ張られた。
見れば、宮野の娘がこちらを見上げている。

「………どうかしたのか?」

屈んで訊ねれば、見たことがあるような深い蒼い眸がこちらを真っ直ぐに見つめている。

「………ママはね、パパを好きだったんだよ」

「…………へ? あ、あぁ、そうだね…」

わざわざ言わなくても分かるよ、と二人を一瞥してから、もう一度彼女を見つめた。
うふふ、と可愛らしい笑みを携えて、少女は『両親』の元へと駆けていく。

「ママー、パパー」

宮野が笑い、白馬が両手を広げて走ってくる娘を抱きかかえた。

(………………あんな、風に…)

俺もなりたかった、な。と新一は少しだけ泣きそうな情けなさそうな顔をしていた。
背後から「ねぇ、新一」と呼ばれたが、直ぐには振り向けず、一旦間を置いてからようやく振り向けば、蘭の姿があった。

「なんだよ」

「白馬くんにお祝いの言葉、言わないの?」

「後で言うよ。なんか揉みくちゃにされてるしな」

ちゃんと笑えていればいい、と思いながら、博士や真純、黒羽に揉みくちゃにされている彼らを見つめていたのだった。
傍らに立つ蘭は「いいなぁ〜」と小さく呟くのを耳にしながらも、新一は聞こえないままでいたのだった。





END

2017/06/19


-25-

孤獨の恋 / top