何よりも綺麗なあなたに
「I,Saguru,take you,Shiho,to be my lawfully wedded wife,to have and to hold from this day
forward,for better or for worse,for richer,for poorer,in sickness and in health,to love and to cherish,and I promise to be faithful to you until death do us part.」
牧師を前に誓いの言葉が紡がれていく。
スタンドグラスから注ぎ込む陽の光を浴びる彼らは、互いに向き合い、永遠の愛を誓いあっている。
白いタキシードを着た男は、長いベールを被り、真っ白いドレスに身を包んだ美しい花嫁を真っ直ぐと見つめている。
ゆっくりと彼らの唇が重なる。
参列者の席からほぅ…と感嘆のため息が漏れたのはその光景があまりにも荘厳で美しく、まるで絵画かなにかのようにしか見えなかったからだ。
はらはらと花嫁の眸から溢れる雫を花婿は指先で拭い、その眸に唇を落とした。
そして彼はゆっくりと膝をつくと花嫁の隣にいる小さなお姫様の頬にも唇を落とした。
その光景を見ていた黒羽快斗はなんとも羨ましいような、やるせないような気持ちになるのは隣に並ぶ参列者のせいかもしれない。
来るとは思わなかった。こんな遠い異国の結婚式。彼の隣人は花嫁の父として、新婦側の親族席に座っているから、ここに彼がいるのは知るはずもない。
そもそも彼は出席しないと言っていたからだ。
式が始まってから静かに入ってきた彼はずっと花嫁だけを見つめ、自覚しているのか、無意識なのか拳を握りしめている。
(………バカだなぁ…)
もっと早く気づけば、あの場所に立っていたのは隣に立つ名探偵だったであろう。
この五年の間に彼らの強い絆は薄れていったのは目に見えていた。
しかし、工藤はそれに気づかなかったのは何故なのか。過信していたのか、甘えていたのか、きっと無意識に彼女は自分のモノだと思っていたのだろう。
二人を結びつける言葉なんて、たくさんある。
"相棒""運命共同体""同じ体験をした唯一の人"
強い絆で結ばれていたのに、ただそれは"恋情"というのでは結ばなかった。そんな気は彼にはなかった。いや、思っていなかったのだろう。
目の前にある、呪いのような恋愛に彼は縛られていた。初恋である幼なじみとの恋はそれは永久なモノなのだと。他にはないのだと。
だけど、彼は知ってしまったのだ。
己の過信を、世界の狭さを。振り向けば、世界は広く、満ち溢れていることを。
同じ境遇の相手と出逢えることなんて、それこそ運命的だというのに、それを掴んでいる気をして、手離していた。
その相手は今、美しい真っ白いドレスを纏い、手の届かない場所へと行ってしまった。
今更、悔やみ、嘆くことも、手を伸ばすことも出来ない。自分で離してしまっていたことに気付いたのだろう。
結婚証明書にサインをする二人に小さな花嫁さんは自分もと言っているのを微笑ましく眺めていると、隣にいた参列者はスッと席を離れた。
教会の扉は閉められていたが、スタッフに何か言い、来たとき同様静かに退室していった。
「……帰ったんか…」
一緒に参列していた、もう一人の友人が工藤がいた場所を一瞥しながら呟いた。
「遅れて来て、早く退室するなんてマナー違反だよな」
「………それだけ、見たくて見れなかったんやろ」
「志保ちゃん、めちゃ綺麗だしな」
眩しかったのだろうか、それとも見れなかったのだろうか。幸せそうな笑みを浮かべ、きっと今、世界中の誰よりも幸福である彼女を。
牧師による二人の結婚宣言に壇上の二人はそれはとても幸せそうに笑っていた。
「幸せになってね、志保ちゃん」
みんなの為に、なにより、アイツの為に。
END
2019/04/15