俟つばかりの恋

名探偵コナン

新一が学校に復帰をしてから、気づけば年を越そうとしていた。
大学受験という難関もそこまで来ているが、元々頭脳は高校レベルではない工藤新一にとってはいつもより真面目に勉強していれば、まぁ、大丈夫だろうと世の受験生からすれば石を投げつけたくなるものであった。
最も元の姿に戻ってからは留年の危機をなんとかする為に補習やらテストで大変だったが、それで済んだだけならまだいい方である。
クリスマスもお正月も受験生には関係ないが、あのイベント好きなお嬢様がたまにはいいでしょう!と言わない訳がない。
無論、それに巻き込まれたのは親友たる蘭と、未だ幼なじみの新一である。そして、新一に巻き込まれたのは真純に黒羽、白馬たちだ。
服部や和葉もとも考えたが、大阪は遠いし、息子の成績を心配して母親からストップがかかったのだった。
息抜きという名目でクリスマスを鈴木家のパーティーという舞台で過ごしていた。
父親が警視総監という白馬に、警察の救世主という新一は、招待客たちがやたらと持ち上げているのを知りながら、笑顔で答えているのはやはりパーティー慣れしているからだろう。
園子も面倒だと思えど、父親が主催しているパーティーである以上、一緒に挨拶をして回っている。
自然と取り残された、蘭と真純、黒羽は彼らに対して「大変だねぇ」というだけで実に心配しているのは蘭のみであった。
あまり面識はないものの、新一から悪友となった黒羽の事を聞いていた蘭はチラチラと黒羽を見ていた。そんな視線に気付かない訳がない黒羽は苦笑しながら、蘭に話し掛けた。

「さっきから見てるけどどうかした?」

怪盗の時とは大分違う砕けた話し方に、真純は少し笑いながら、蘭の言葉を代弁した。

「そりゃあ、君が新一くんに似ているからだろう。ね、蘭くん」

「え、あ、う、うん。ごめんね、じろじろ見ちゃって……その、本当に新一に似てるから…」

「そんなに似てるかなー? 俺の方が男前だろう」

「男前かはどうかは分からないけど、兄弟かと疑うくらいはそっくりだよ」

リズム良く流れる会話に、ほぼ初対面な蘭は真純に訊いた。

「世良さんは、会ったことあるの?」

「ん? ああ、ちょっとした事件の関係でね。白馬くんともその時知り合ったんだよ」

「それって…」

あの新一がいなかった時の事なんだろうか。
いつもなら、いなくなる前の新一ならば聞きもしない事件をベラベラと話してくれていたのに、戻ってからは一切話してくれていない、新一曰く「厄介な事件」に関する事なのか、と蘭は見ていた。
本当なら知りたい、新一の事ならば何でも知りたい、だから教えて欲しいと、二人を見る蘭であったが、それを簡単に教える程、二人はやさしくはない。

「そういや、真純ちゃんは大学どうするの? 日本? 海外?」

「あー、一応日本って予定かな。まぁ、後は留学してもいいしね。そういう黒羽くんは?」

「俺もこっち。べカスに行ってもいいんだけどねー」

「……二人とも、海外も視野に入れていたの?」

自分ではしないであろう選択肢の広い二人に蘭は目を丸くしていた。

「そりゃ自分のやりたいことや可能性を考えたいからね。白馬くんや新一くんだって日本を出ていけるだけの人材だしね」

「白馬はどうせまだイギリスだろ」

「留学としては考えていますが、一応 東都大を目指していますよ。あなた方も同じでしょう」

会話に割って入ってきたのは話題にされていた白馬であったし、その後ろには新一の姿もあった。
蘭は新一の志望校が東都大である事は知っていたが、自分の学力では及ばない事も悔しくも分かっていた。
蘭は体育大への推薦が決まっていて、のんびり出来てはいるが、新一と離れてしまうという事に危機感を抱いていた。
新一が、あのロンドンでのように、もう一度告白してくれれば安心するのに彼は何も言ってくれない。だからといって相変わらず付かず離れずの関係であるのだ。
新一も白馬も、黒羽にそして多分真純も東都大を目指している。園子は三年生になる前から家庭教師をつけて猛勉強をしている。
彼女も鈴木財閥の後継者として、東都大を目指しているのだ。本人は家を継ぐ気はなかったが、そうは言ってられないのは育ってきた環境である。
継ぐ継がないにしても、必要だからこそ勉強をしているのだ。
蘭は少しだけ疎外感を感じていた。

(…受かったら、みんな同じ大学なんだ……)

新一と同じ大学というだけで、彼らが羨ましくて堪らなくなる。特に園子と真純に対しては、自分と成績がそんなに変わりないと思っていたのに。

「工藤くんは留学とかは考えていないのですか?」

「ん、あー、そうだな。してもいいと思っているよ」

「え、新一、留学するの?!」

新一の一言に蘭は食ってかかる勢いで、彼の服を掴んだ。

「そりゃまー、考えてもいいかなって思っているよ」

「……そんな…」

また離ればなれになっちゃうじゃない……。
そばに居てよ……と縋るように見つめるも、新一は苦笑するだけで黒羽たちと会話をしている。
服部も目指しているのは東都らしく、探偵の頭脳はどうなっているのだと思ってしまう。

「らーん、世良ちゃーん」

「お、園子くん。終わったのかい」

「一通りね。あ、シャンパンちょうだい」

会長の元から離れて、やって来た園子は通りすがりのボーイに飲み物を持ってくるように伝えた。
その自然体の様が、彼女はやはり上流階級の人間だと思わされる。

「園子くんも大変だね」

「まぁね。でもまあ慣れてるからね」

「お疲れ様、園子」

園子が来てから自然に男女に分かれて会話を始めているが、蘭は新一と一緒にいたくてチラチラと彼を見ていた。

「らーん、新一くんと一緒にいたいなら話しかければ良いじゃない? ほら、バルコニーにでも誘ったら」

うふふと冷やかすように笑う園子に、少しだけ安堵しながら「そうだね」と頷いた。
クリスマスなんだし、本当は二人きりになりたい。
たまには私から…と声を掛けようとした時だった、聞き慣れない名前が出たのは。

「留学っていや、宮野は正月も戻って来ないみたいなんだよな」

「えー、志保ちゃん、戻って来ないのー」

「志保さん、忙しいみたいですよ」

「でもよー、たまには戻って来てもいんじゃねーか? 博士も寂しがってるんだしよー」

「メールや電話はしてるみたいですけどね」

「うんうん、元気でやってるみたいだよ」

ほら、とスマホを見せる黒羽に、新一は「オメー、何勝手に連絡してんだよ!」と言っている。
三人が話している、宮野 志保 という名に、そんな人知らない、聞いてないと蘭は戸惑った。
当たり前に話しているが、蘭には全く聞き覚えがないのだ。
志保ちゃんと黒羽が呼んでいる以上は女性だろうし、博士も知っていて、尚且つ新一が少し不貞腐れたように口を尖らせている。

(……誰? その人は誰?)

知らない人を、新一は、新一の友人と、私とじゃない人と共有している。
なんでも知っている、理解しているはずなのに、なんで、と思っていると傍らの真純も話に入っていった。

「志保なら元気みたいだよ。さっき、ママからクリスマスメールが届いたし」

真純が新一たちにスマホ画面を見せれば、志保とメアリーがツリーの前で撮ったと思われる写真を見せられた。

「うっわー、美人!!誰、この人?」

一緒に見た園子が歓声をあげる。
にこやかに笑うというよりは、微笑んでいる美女が写っている。

「ママと志保だよ。あ、志保はボクの従姉なんだ」

「そうなんだ!世良ちゃんのママにも似てるし、親子みたいよね」

「志保はママの妹に似てるからね。ママも妹と似てたとか言ってたから、ボクよりも似てるんだよ」

「でも目元は真純さんとそっくりですよね」

「まぁね、ボクと秀兄はママ似なんだけど、志保の方が似てるって面白いよな」

「ちょっと待て、宮野って今はメアリーさんと一緒にいるのか?」

「あれ、知らなかったのかい?」

「あ、ああ…」

次々と広がる話に、蘭はついていけずにいた。
だから、志保 って新一とどんな関係なの?
聞いてねぇ、と呟く新一に蘭は不安で仕方なかった。
結局、ロクに話が出来ないまま、正月を迎えた。
余裕があるだろうと、出掛けないかと声を掛けたが、受験直前に何言ってんだよと諌められたのだった。




『俟つ』(まつ:頼る、期待を寄せる)
2017/05/21


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