天に在らば比翼の鳥 地に在らば連理の枝

名探偵コナン

大掛かりなことはしないつもりでいたが、それは周りが許さなかった。
彼を始めに、娘の愛莉もレベッカも不二子も彼の母親である有希子も、そして伯母であるメアリーまでもが式を挙げないなんてダメだ!大騒ぎになったのは言うまでもない。
10回はされたであろうプロポーズを受けてから、彼はすぐにでも結婚したかったようだが、せめて大学を卒業してからだ、と説得をした。


あの日──愛莉がルパンたちと誕生日のプレゼントを買いに行ってると知った彼はすぐさま志保の腕を引っ張り、街へと繰り出した。
彼らに連絡を取り 待ち合わせた。次元が愛莉を抱っこしているのを見つけるや否や彼らから愛莉を奪取したくらいだ。
呆れるルパンたちに肩を竦めて見せれば、雰囲気で察したのか彼らにはバレてしまったようだ。そもそも二人揃って現れたからかもしれないけど。
愛莉も新一と志保が一緒にいる事に嬉しくなったのか、始終はしゃいでいたし、新一も一緒になってはしゃいでいて、子供が二人だなんて思った程だった。
誕生日までいると聞かない新一をなんとか帰国させたのは、照れ臭かったのもあるが彼がまだ大学があることを考慮した上である。
まぁ、愛莉の誕生日には再び 姿を表したが。

「愛莉〜 誕生日おめでとう!!」

「わぁ!パパ!ありがとう!!」

某夢の国でしか買えないくまのぬいぐるみが好きだと知ったらしく、もう持っているのだからと止めたからだろうか、そのくまのお友達であるネコとウサギのぬいぐるみを持ってイタリアにやって来た。
愛莉の誕生日パーティーは毎年、レベッカやルパンたちが騒ぐ目的で、大掛かりであったが今年は去年よりも騒がしくなったのは彼が連れてきた人々のせいだろう。
博士は元々呼んでもいいと思っていたが、まさか彼の両親が来るとは思わなかった。
会った瞬間に、驚きと共に申し訳ない思いが込み上げてきたが、有希子さんにいきなり抱きしめられた。

「志保ちゃん!今まで新一のせいで苦労を掛けて ごめんなさいね!!そして、ありがとう!子供を産んでくれて…」

「え……あ、あの…」

「志保ちゃん、謝らないで。寧ろ謝るのはこちらなのよ? 志保ちゃんには色々と世話になったりしたのに」

「まぁまぁ。有希子、少し落ち着きなさい。すまないね、志保くん」

「い、いえ……」

「志保くん、もし、まだ新一とあの娘の事を気にしているのなら君は気にしなくてもいいんだよ。男女の仲とは思った通りには進まないものなんだ。新一とて責任だけで君を思っている訳ではない、君がいなくなってようやく大事なものが何であるか理解し、君を想っているんだよ」

心許ないかもしれないが、新一を信じて欲しいと言われてしまうと、志保は俯くしかない。
確かに責任とかだと思っていたのだ。確かに愛莉は奇跡のような巡り合わせで自分の元へ生まれてくれた。だから、じゃないかと思っていたのも本当で。
しかし、彼は何度も会いに来ては、苦手であろう好意を口で伝えてくれていたのだ。
新一は言ってくれたのだ。愛莉がいても、いなくても、俺はお前を選んだに決まっている。
愛莉の事がきっかけで早く気づけたけど、きっかけが無くても時間が掛かってもお前を選ぶのだと。
それを思い出し、少し後ろめたさを無くせた。

「……ありがとうございます」

「いやいや、礼には及ばないよ。寧ろ、私たちが礼を言いたい。あんな可愛らしい子が私たちの孫になるなんてね」

ちらりと優作たちが向ける方には愛莉がはしゃいでいる。「愛莉、」と呼べばこちらを向いたのだった。

「ママー!パパがね、この子達をくれたの!!」

嬉しそうに両手にぬいぐるみを抱えて走ってくる愛娘に志保は眸を細めた。

「愛莉、いらっしゃい」

「なーに?」

寄ってくる娘を見つめる二人を眺めてから、志保は愛莉に挨拶を促した。

「あなたの、お祖父様とお祖母様よ。ご挨拶なさい」

「おじーさま? おばーさま?」

「えぇ」

頷けば、嬉しそうに笑みを浮かべ、レベッカが用意したというふわふわのドレスの裾を持ち上げた。

「みやの あいりです!初めまして、おじいちゃま、おばあちゃま」

「ああーん!!可愛い!!なんて可愛いのかしら?! おばあちゃまの有希子よ? 有希ちゃんって呼んでくれる?」

「ゆきちゃん?」

「ええ、よろしくね、愛莉ちゃん!」

「初めまして、小さなレディ。私は工藤 優作だよ。私の事はおじいちゃまでもおじいちゃんでもいいからね」

「親父、母さんも、ここにいたのかよ。愛莉、博士連れてきたぜ?」

「おじいちゃん!!」

「おぉ!愛莉ちゃん、久しぶりじゃのう!優作くんたちにも会えたのか、良かったのぅ」

「あいり、おじいちゃんいっぱいいるんだね!」

じぃじでしょ、と指折り数えようとしたら遠くから「俺はじぃじじゃねーぞ」と声がしたが、知らぬふりをしていた。
家族が一気に増えて嬉しかったのだろう。
ずっと、寂しく思わせていた事に切なくなった。



あれから月日はあっという間に経ち、6月の気候が良い日に工藤新一と宮野志保の挙式が古城で行われる事になった。
元はどこかの貴族の別荘とかであるらしいが、今は1日何組か限定で挙式とパーティーを行うことが出来るらしい。レベッカの伝もあり、本日は貸し切りだ。
博士の伝で、フサエさんにデザインを頼み、生地はあれだ、レースはこれだと大層金が掛かったウェディングドレスに志保は躊躇したのは当たり前で、着なければ燃やすとレベッカに脅されたりもした。
愛莉にも志保とお揃いのドレスだ、髪飾りだと着せ替え人形になったのは言うまでもなく、新一のタキシードなど「どれでもいいんじゃない」と女性陣から軽くあしらわれ、彼が凹んでいたのを男性陣が慰めていた。
挙式といえど、基本的には身内のみなのだが列席する人々にはルパン一味や峰不二子、レベッカは勿論、志保の親戚として、メアリーや真純、赤井秀一までがイタリアへ飛んできてくれた。
赤井などは志保が無事でいたことに、安堵したのか珍しく笑みを浮かべていて、明美がいたならば姪であった筈だと言って、愛莉から伯父さんと呼ばれるようにしたくらいだった。
新一側には工藤夫妻は勿論、黒羽快斗や服部平次、白馬探、降谷零まで来てくれた。博士は志保の父として列席している。
さすがに鈴木園子や毛利蘭を呼ぶ事は出来なかったが、仕方がない。いつか会えるであろう。
式は粛々と執り行われ、愛莉は志保と新一の真ん中に立ち、小さなブーケを志保とお揃いで持っていた。
カラーンコローンと鐘の音がなれば、一斉に鳩も羽ばたいた。
放り投げられたブーケは真純の手に落ち、誰もが笑顔を浮かべる式だった。

「………工藤くん」

「志保?」

「………愛してるわ、今までも、これからもずっと…」

「──俺もだよ、色々不安にさせたり、悲しませてきてごめん。でも、これからは俺がいるから、いつまでも守るから、志保を、愛莉を。俺と結婚してくれてありがとう」

ほろり、と流れる涙を拭いながら、新一は微笑んだ。いつもより綺麗に見えるのは化粧をしただけではない。今、この瞬間だからこそ美しいのだ。
祝福の鐘が鳴り響くなか、新一は顔を近づけると志保へ口づけをしたのだった。







数年後、世界をまたに掛ける名探偵はイタリアを中心に、イギリスやフランス、アメリカや日本、世界各地で難事件を解決しているという。
拠点はさまざまだが、暫く後に日本へ帰国するとの話が出てきている。
家族構成は、妻に二人の子供がいるとの噂である。






THE END
2017/10/06


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