Love is idle

名探偵コナン

俺は工藤新一 私立探偵だ。日本人だが、世界を股にかける名探偵だ。決して自称ではなく他称であり、世界の各機関とは数年前の事件からそれなりに面識もある。
そんな俺にはとて優れた相棒であり、美しい妻がいる。結婚してから早七年、彼女との間には可愛らしい子供にも恵まれている。
長女の愛莉 十二歳を筆頭に、双子で長男、次男の優一と一希 四歳の三人である。
うん、計算が合わないって?いやいや、愛莉は正真正銘 俺の可愛い娘だから!愛する妻──志保に生き写したかのような容姿をしているが、眸だけは俺譲りだから!
まぁ、愛莉が生まれた時、ぶっちゃけ知らなくて、寧ろ行方不明になっていた彼女をずっと探していた位だった。当時付き合っていた恋人と別れたのもその頃で、男としてどうかとは思ったが俺は彼女を好きだと気づいたのもその頃だった。
ようやく見つけた彼女は幼い子供を抱えていて、誰の子供だと嫉妬したくらいだが、自分の子供だと知った時はなんで?と思った位だった。
情けない事に自分には身に覚えはなく、彼女はそれで怒っているんだと思ったがそうではない。彼女に対し、悲しませていたようでそれはなんなのか未だに話せてもらえていない。凄い気になるがしつこいと嫌われてしまいそうなので、追及しないようにしている。
さて、愛する妻──志保はイタリアを拠点にアメリカや恩師がいるというイギリスを飛び回る科学者である。
近々、日本に戻る予定だがイタリアには彼女の為だけに建てられた研究所がある。数年、俺ら家族は暮らしていたし、余計なおまけもいた。だが、そのおまけがいなければ俺らは結ばれることもなかったかもしれない、そう思うと恩人であるが、探偵という職業である以上は彼らを野放しに出来ないのだ。
ましてや、俺の可愛い子供たちに奴らに懐いているという事実に泣きたくなる。

「じぃじー!あそぼー」

「あそぼー!じぃじ!」

「だー!!俺はじぃじじゃねーよ!遊ぶならテメーらの親父で遊びやがれ!!」

「だって、パパ、ゲーム下手なんだもん!」

「そう、パパ、ゲーム下手だから、すぐ負けるんだー」

愛莉の下に生まれたこの子らは男の子の双子である。愛莉が志保のそっくりだとしたら、コイツらは俺にそっくりであり、1人は正にコナンと言ってもいいくらいである。もう1人は外見こそは俺にそっくりだが、眸の色は志保に似たのか深い翠色をしている。どこぞの魔法使いのようだが、志保はイギリスの血があるので仕方がない。

「オメーら、俺は弱くないぞ」

「えー、パパ弱いよ」

「うん、下手ー」

子供というのは時として残酷である。
そういえば"コナン"の時も年下の友人たちに同じ事を言われた。

「───あなたたち、何してるの?」

「あ、ママ!」

「ママだー!!」

いつの間に来たのか、志保がドアに凭れかかってこちらを見ていた。チビたちは俺に向かっていたのに、志保の姿を見つけるな否や一目散に走りよっていった。
志保は走り寄る子供たちを両手を広げていた。
抱きついている我が子たちは可愛いが、そこは俺の場所だと言いたい。がここから放り出されてしまうから言わない。

「パパに次元おじさん、何してるの?」

志保の後ろから顔を出したのは、愛娘の愛莉だ。
さらりと揺れる茶髪は志保よりも長く、幼い子供のはずなのにここ最近は色気が出てきているようにも思える。
アンバランスな美しさと可愛さを持つ愛莉は来年には日本でいう中学生になる。
それを期に近々日本へ戻ることになっているのだが、荷造りが儘ならないのはルパン一味が志保や愛莉、双子たちと別れを惜しむからかほぼほぼ毎日会いに来るからだ。

「ゲームだ、ゲーム」

「……パパ、下手だから大変なんじゃない?」

「……ぐ…」

似て欲しくない所は案外受け継がれるもので、ぐっさりと胸に矢が刺さった気分になる。
次元大介も「下手すぎてダメだ」というくらいである。射撃なら出来るのに。
しかし、我が子たちの目の前で銃をぶっ放したら、速攻志保に離婚されてもおかしくはない。
以前、ルパンと次元が部屋で銃を発した時に、子供たちが見ていたのだ。興奮した双子が志保に言ったら、それはそれは恐ろしいくらいに笑顔を向けて「新薬の実験に付き合って欲しいの」と言って、あの二人を恐怖に陥れたらしい。
五ェ門から聞いたし、しみじみとルパンたちが「志保ちゃんを怒らすもんじゃない」と呟いていたくらいだ。
一度、然り気無く 彼女に子供たちの前で銃を撃ったら?と言えば、笑顔で「あなたをここから追い出すまでよ? 離婚届けを熨斗にしてね」と言われた。
ぜってぇしないと心に誓ったくらいだ。

「そういえば、パパ、お客様だよ」

「客? ここに?」

愛莉の言葉に首を傾げたら、目の前にいる筈がない野郎がいた。

「やっほー、名探偵!荷造り進んでないんだって?」

「く、黒羽?! なんでオメーがここに?!」

「志保ちゃんに会いに来たんだよー」

片目を瞑り、にやける黒羽に新一は頭を抱える。

「あー!快斗おじさんだー」

「快斗だー」

志保にくっついていた双子らはこぞってヤツへと近づくと「ゲームしよう!」「やろう、ゲーム!!」とねだっている。

「まるで黒羽くんが父親みたいね」

クスッと笑う志保に冗談じゃない!と思う。
残念な話、新一と快斗は血の繋がりなどないのに、信じられないくらいそっくりであった。
自分の息子たちのようにそっくりで、彼らは眸の色と若干髪の色が違うくらいだし、新一と快斗の違いは勿論沢山あるがパッと見は見分けがつかない。
強いて言えば、快斗の髪はボサッとしているといったくらいである。
たまたま快斗が遊びに来ていて、志保が忙しいからと二人で双子の世話をした際に勘違いされたことがある。
愛莉の買い物があるからと、先に公園へ行っていろと言われて、ベビーカーを押していった。
やはり双子は目立つもので周りの奴らが可愛い我が子たちを見ていくのだが、老婆が驚いたのだ。

「可愛いらしい双子だね、おや、お父さんも双子 なのかい? それともそれぞれの子なのかい?」

「ふっふー、こっちの子は俺にそっくりでしょー? 実は俺の子なんじゃないかなぁ〜」

ニヤリと厭らしく笑う黒羽はその老婆に、この子達の親は自分だとふざけて話していたが、ふざけてだとしても俺の可愛い子達をオメーには渡すものかとケンカしたくらいである。
志保に言えば、物凄く呆れた風に言われたが、双子たちは俺の愛息子であるにも関わらず黒羽の子だと認識されてしまうのはいやだ。

「だってぇ、俺にそっくりでもあるんだから〜俺が父親かもしんないじゃん!」

「し、志保っ?! まままままままさか…」

思わず彼女を見れば、にっこりと笑顔を向けてくれた。笑顔は嬉しい、嬉しいがその笑顔は怖い!!

「まさか、って何かしら?」

「なななななななんでもないです!」

「ふふ、次 疑ったら 出て行ってね、工藤くん?」

「う、疑う訳ねーじゃん!!」

絶対零度の微笑みというのを身をもって知った春だった。
それ以来、黒羽には我が家に来るな!と言っているのにヤツは「志保ちゃんに会いたいんだもん」とか言う。だもんじゃねーよ!!もうアラサーの男が!!

「パパと快斗さんって仲良しだよね」

愛娘の愛莉が口元に手をやりながら、クスクスと笑っている。だからまだその年齢で、その笑い方はやめなさい。変態が寄ってくる……。

「あ、愛莉? その薔薇は?」

「さっき 快斗さんから貰ったのよ」

綺麗よね、と嬉しそうに眺める姿に、新一は双子と遊び始めている快斗へ走り出した。
前はやたらと志保に濃い紅色の薔薇を渡していた。濃い程に意味は違う。「死ぬほど恋いこがれています」だったのだろう。



それが──愛莉が持っていた三本の白い薔薇。開いている花とつぼみが混じっていた。
白い薔薇の花言葉は「私はあなたにふさわしい」
白い薔薇のつぼみは「恋をするには若すぎる」
三本の薔薇の花の意味は「告白、愛しています」




「……快斗さんなら、なってもいいかな…」

ぼそりと呟かれた声は誰にも聞かれていなかった。




END
2017/11/09


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