拗ねたパパの宥め方

名探偵コナン

私の名前は白馬 探。
朝食後は美しい妻が淹れてくれる紅茶を飲みながら、新聞を見る。彼女が淹れてくれるストレートティーはとても味わい深くていい。
どちらかといえば珈琲を好んで飲む彼女が私の為に出してくれるという事が、幸せであ「おーい、白馬ー、遊びに来たぜー」……………」

「あー、陽くんいらっしゃーい」

「おはよう、莉乃ちゃん」

「僕もー」

「志貴もおいで。部屋に行こう」

「うん」

朝の優雅な一時はあっという間に崩れた休日。

「あら、黒羽くんじゃない。おはよう」

「おっはよー!志保ちゃん!今日も美人さんだね!」

ポンッとどこからともなく赤い薔薇を差し出した黒羽くんからそれを受けとると、志保さんは「ありがとう」と微笑みを浮かべている。
何故か、週に10回は我が家に現れる友人から貰う赤い薔薇は既に花束並みになってリビングの花瓶に飾られている。
悔しいので、夫婦の寝室には私が彼女に毎日送っている白い薔薇が飾られているのは彼は知らないだろうが、腹立たしいことはない。

「ちょっと、快斗!いきなり入るなんて失礼だよ!おはようございます、志保さん、白馬くん」

そんなことを言いながら貴方も入って来てますよね、青子さん。

「おはよう、青子さん。朝から悪いわね」

「そんなことないです!陽も莉乃ちゃんに会えるから嬉しがってるし、むしろ朝からお邪魔してすみません」

「いいのよ。出来たら下拵え手伝ってもらえると嬉しいわ」

「勿論です!じゃあ、快斗は邪魔だからあっちに行ってて」

青子さんに背中を押され、黒羽くんがこちらにやって来た。

「よ、はーくば。まだ寝起きなのかよ?」

「……………そんな訳ないでしょう」

「朝早くから悪かったなー 陽がさ、早く行きたいって煩いからよー」

「……陽くんを出汁にするのはお止めなさい」

「いやいや、マジだって。アイツ、莉乃ちゃん大好きだからさー」

「………………まだ許しませんよ…」

陽くんが良い子なのは分かっています。
礼儀正しいし、志貴の面倒も見てくれますし、しかし!ようやく愛する家族と一緒に暮らせるようになって一年半、まだまだ男女交際は早いです!

キッと黒羽くんを睨みつけると、ハハハと笑っている。何が可笑しいのか、と口を開こうとした時だった。

「あれ? 快斗おじさん、今日も来てるの?」

「愛莉ちゃん!今日も可愛いね、はい」

ポンッと出された花はピンク色で、愛莉さんは妻に似た微笑みを浮かべて、それを受け取っていた。

「ありがとう。でも昨日も来てくれたのに、来る度に寄越さなくてもいいんだよ? おかげて家中が花で溢れてるから」

「いーの、いーの。だけど愛莉ちゃん、本当に志保ちゃんに似てきたね〜。学校でもモテたでしょう?」

「そんなことないと思うよ?」

「うっそだー!愛莉ちゃんくらい美人がいてモテないはずないじゃん」

「うーん、でも本当に…」

先日、中学を卒業した愛莉だったが特に告白といったイベントに巻き込まれる事なく、無事に中学生活を終えたのだった。
白馬は仕事があった為にその場にいなかったが、某探偵が現れて、騒がせた事は保護者として参加した志保しか知らないので割愛する。

「パパ〜」

「父さん」

父親たちが話している所に、白馬家次女と黒羽家長男が仲良く手を繋いで階段から降りてきた。
愛莉は陽に「おはよう」と告げれば、陽は「おはようございます、愛莉さん」と元気に答えている。
きっと青子さんの教育の賜物だろうと思っていると、二人からとんでもない発言がされた。

「ねぇ、パパ、お姉ちゃん。私ね、18歳になったら陽くんと結婚するね」

「父さん、18歳になったら莉乃ちゃんと結婚することにしたよ」

紡がれる我が子たちの言葉に、黒羽はびっくりして星を出していたが、すぐに「そっか、そっかぁ〜」と頭を撫で、愛莉は「私より先に婚約するなんて生意気ね」と笑っていたが、笑えず、無表情になったのは白馬探 唯一人である。

「どうかしたの?」「どうしたの〜?」

キッチンから顔を出した母親二人はリビングに集まる家族に首を傾げている。
その手にはお茶やお茶請けが乗ったトレーを持っていた。
きゃいきゃいと騒ぐ娘二人と、父子はともかく、一人固まっている夫に志保は首を傾げた。
そこへ一番下の息子がパタパタと走ってきて、大好きな母親の腰へと抱きついた。

「ママ〜」

「志貴、あれはどうしたの?」

「んー? たぶん、りのちゃんとはるくんがけっこんするっていったからじゃないかな?」

「え、陽と莉乃ちゃんが結婚?!」

「……まぁ」

母親たちも驚きながらも笑みを浮かべている。青子は嬉しそうに、志保は可愛いわね、と言った風に笑っていたが、大人しい探に志保はどうしたのかしら、とテーブルにトレーを置いた。
座ったまま静かにしている夫に志保が話しかけた。

「探くん? 探くん、どうしたの?」

ひらひらと顔の前で手を振ってみたが、反応がない。どうしたのだろうと家族も黒羽家も眺めていると、小さく、しかしどこか低い声がリビングに響いた。

「──────せん…」

「探くん?」

「………そんな、結婚なんて許しませんよぉ!!」

バッと目を向けた先は、陽であり、彼はビクッと身体を震わせた。
ガシッと陽の両肩を掴むと、据わった眸で言い放った。

「莉乃さんは結婚なんてせずにずっとこの家にいるんです!!」

「え〜〜、私、陽くんのお嫁さんになるからずっとは無理」

探が訴えてみたものの、陽と手を繋いでいた莉乃が頬を膨らませて、不満を口にした。
愛娘の発言に、不覚にも膝から崩れ落ちた。こんな経験は始めてだ。

「……………」

「パパ!」

「探くん!」

「お、おい白馬っ!」

慌ててくれたのは志貴くんと志保さん、そして黒羽くんだけで、愛莉さんは苦笑いをし、莉乃さんは陽くんと「結婚しよーねー」と手を繋いでいる。
青子さんは「莉乃ちゃんがお嫁さんになるんだ〜」と喜んでいる。だから差し上げませんて!

「探くん、」

「志保さん……」

「気持ちは分かるけど、今からそんなことで目くじら立てなくてもいいでしょ? あの子達はまだ9歳なのよ?」

笑顔で慰めてくれる志保さんを抱きしめると、傍らの黒羽くんが「ずりー」と文句を言ってくるが、貴方に文句を言われる筋合いはないです。

「パパ、甘えん坊さんです」

「だよなー、志貴ー」

「でも、ぼく、おとうとがほしいからなかよくしてください」

「し、志貴っ?!」

思いがけない愛息の言葉に驚きながらも、志保さんを見れば優しく微笑んでくれた上に、誰にも聞こえないように耳元で囁かれた。

「──ですって、どうする? あ な た」

その一言で すっかり参ってしまった私は両手で顔を覆うばかりで、愛莉さんの合格祝いパーティーでは冷静を保てなかったのだった。
しかし、まだ莉乃さんと陽くんとの結婚は許してないですよ。




夜、志保さんと仲良く過ごしたのは二人だけの秘密です。


END
2017/07/14


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