02

名探偵コナン

中学に通うようになって、日本という国はつくづく面倒だな、と思えて仕方ない。
愛莉は窓際の一番後ろの席に座りながら、クラスを眺めていた。
同じ服を着て、ただただ先生が話す内容を聞き、黒板に書かれた事をノートに取っていく。
もっと効率の良い勉強方法があるではないか、とため息を吐かずにはいられない。

(……やっぱり、あっちに残れば良かったかしら…)

アメリカには保護者としてメアリーも秀一おじさんもいたのだから。
ノートにぐるぐると落書きをしながら、愛莉は頬杖をつきながら、またため息を吐いたのは言うまでもなかった。
浮いている──と愛莉は自覚していたが、協調性がない訳ではない。しかし、この中学生特有なのか、女子特有の、集団行動が苦手で仕方ない。
トイレくらい、一人で行けばいいじゃないかと思ってしまう。
そんな時、クラスの誰かが雑誌を持っていた。
特に校則違反という訳ではないだろうが、雑誌を握りしめて言っていたのだ。

『工藤新一って本当に格好いいよねぇ』

工藤、新一。
聞き覚えがある名前に愛莉は顔を上げた。
そうだ、工藤 新一だ。私は彼を知っている。
記憶を廻らせれば、真純ちゃんの結婚式の時。
初めて、ママの友人という人に会ったのだ。
パパの友人でもあるという、黒羽快斗、服部平次、そして工藤新一。
黒羽快斗さんは何度か会ったことがある。
イギリスには来なかったけど、アメリカに移住してからは何度か遊びに来てくれていた。
会う度に『愛莉ちゃんのようで可愛いだろ』と片目を瞑りながら、ピンクの花をくれていた。

───彼は、知っているのだろうか?

気になってしまうと知りたくなる。
あぁ、でも連絡先なんて知らないし、ママやパパに聞いて教えてくれるだろうか──?
いいや、勘の鋭いママやパパの事だ。聞いてはダメだと愛莉の頭がそれを警告する。
ならば、どうしよう、と思う内に授業は終わり、愛莉は帰路へと付いていた。

「おねえーちゃーん!!」

帰り道の途中で小学校に通う妹─莉乃と遭遇した。
妹の学力が愛莉が通う中学並みなのを知っていた愛莉はすごく彼女を心配していたが、順応性があるのか、きちんと周囲に溶け込んでいるようだ。
そんな莉乃の隣に男の子が立っているのに気づき、愛莉は会釈をした。
ちょっとボサボサした黒髪の男の子に莉乃は「私のお姉ちゃん」と紹介している。

「僕は黒羽 陽。莉乃ちゃんと同じクラスなんです」

そう自己紹介した、黒羽くんはポンっという音と共に白い花をどこからか出した。

「お近づきのしるしです、莉乃ちゃんのお姉さん」

懐かしい出来事に愛莉は黒羽くんを凝視した。
似ている──それに黒羽なんて苗字あまり聞かないし、もしかして……

「…ありがとう、黒羽くん。私は莉乃の姉の白馬愛莉です。よろしくね」

「うん、よろしく!」

少し照れながら元気よく答える彼に、ところで、と訊ねれば予想通り、父親は黒羽快斗だという。

「え、父さんにあったことあるんですか?」

「え、快斗おじさんって陽くんのパパなの?」

「莉乃ちゃんも知ってるの?」

「うん! アメリカにいた時によく家に遊びに来てたよね、お姉ちゃん」

「えぇ。パパとママの友達なんだって言ってたわ」

「そっかぁ。アメリカだとショーで行った時かな」

「そうだと思うわ」

「じゃあ、今度 快斗おじさんと陽くんとお母さんとでお家に遊びにおいでよ。ママとパパに言っておくし、ね、お姉ちゃん」

──チャンス、だと思った。
快斗おじさんが来てくれるなら、ママとパパに聞かなくても済む。

「そうね、私も莉乃も日本に来てまだ日も浅いし、遊びに来てくれると嬉しいわ。志貴も喜ぶだろうし」

志貴?と首を傾げる陽に、莉乃が弟なの。と言えば弟いるんだ。いいなぁと言っていた。
じゃあ、父さんと母さんに伝えておく、と言って手を振って帰っていった。

「今日の夕食何かな?」

「ママは和食にするって言ってたよ」

「ホント? 楽しみ」

茶色いランドセルを握りしめながら、先を歩く妹に続いて愛莉も追いかけたのだった。





数日後、快斗おじさんたちが家に遊びに来た。

「陽くん!いらっしゃい」

「莉乃ちゃん、こんにちは」

陽くんを前に出迎えた莉乃がこっちこっちと手を引っ張り、リビングへと連れていく。
それを見ていたママが、口に手を当てながら快斗おじさんたちに「いらっしゃい、黒羽くん、青子さん」と微笑んだ。

「志保ちゃん、相変わらず美人だね〜。はい」

いつものようにポンっと真っ赤な薔薇を差し出すおじさんに、ママは苦笑いをする。

「ちょっと、快斗!あまり志保さんに迷惑かけないでよ!」

「ふふ、ありがとう。青子さん。さぁ どうぞ」

快斗おじさんの顔に手をやって止める青子さんに微笑んだママは、やはり綺麗だと思う。
青子さんも可愛らしく笑ってママの後へと付いていく。

「はい、愛莉ちゃん」

ポンっといつものようにピンクの花を差し出してくれる快斗おじさんに、愛莉は顔を向けた。

「ん? どうかした?」

「………快斗おじさんに聞きたい事があるの」

「─────なんだい?」

じっと見つめていると、先程までのふざけていた快斗おじさんの雰囲気が変わったのが分かった。
愛莉は母親に聞こえないように、声を潜めたが快斗の耳にはしっかりと聞こえた。

「───工藤 新一という人に会ってみたいわ」

「どうしてだい?」

「…………会ってみたいの」

「志保ちゃんや白馬に頼めば良かったんじゃない?」

「それは……」

なんとなく言えなかった。

「………うーん、でも今アイツ日本にいないからな〜」

ちょっと難しいかな、と話すおじさんに愛莉はそう、とだけ呟いた。

「おねーちゃーん、おじさーん、ママがケーキを切るってよー」

下を向いていれば、リビングのドアから顔を覗かせてこちらを見ている志貴が呼んでいる。

「今、行くよー。志貴くん。今日は白馬のヤローはいないんだね」

「パパはお仕事です」

「そっか。じゃあ、志保ちゃんのケーキは全部たべちゃおっかなぁ」

「ダメです。パパの分は残すんです」

「はは、分かったよ。ほら、愛莉ちゃんも行こう」

手を差しのべてくる快斗おじさんを見ながら、私はみんなが待つリビングへと足を向けた。


まだ、真実は分からない。






2017/06/23


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