02

名探偵コナン

──昼休み
どうしようか、いっそ独りでどこかで食べてしまおうか、思っていた矢先に教室の扉が開いた。

「おーい、宮野ー、世良ー」

ずかずかと教室に足を踏み入れてくる工藤に真純が「どうしたんだい?」と話し掛けた。

「昼飯、一緒に食おうぜ」

「ボクは構わないけど……志保はどうする」

「私、パス「ダメに決まってんだろ」ちょっ」

腕を掴まれ、お弁当が入った手提げを取られてしまった。

「工藤くん、ボクが持つよ」

「んじゃ、よろしく頼む」

「ちょっと、離して」

「ダメ」

そのまま掴まれたまま、連れ出されたのは屋上だった。こんな日射しがある中で食べろというのか、と思っていると日陰になっている場所には、蘭と園子の姿があった。
新一が志保の腕を掴んでいるのが見えたのか、笑顔が一瞬固まったのが分かった。慌てて腕を振るがその手は力強かった。

「新一、世良さん!宮野さんも…」

「連れて来たぜ」

当たり前のように蘭の隣に座る際に、ようやく離された腕を擦り、志保は真純に促され仕方なく腰を下ろした。

「あ、あの宮野さん。改めて自己紹介させてね。私は毛利蘭って言います。新一の幼なじみで、後、ほら園子も!」

「鈴木園子よ」

「宮野志保です。真純ちゃんとは従姉妹なの」

「そうそう!志保ってば超頭良いんだぜ、なー、志保?」

ぐいっと肩を引き寄せ、真純は自慢するように園子の言った。

「へー、あれ?でも世良ちゃん、親戚はいないって言ってなかった?」

「………志保を知ったのは最近なんだよ。志保も知らなかったみたいだしな」

「………………えぇ、親戚がいるなんて知らなかったわ」

「へ、へぇ……」

「飯にしようぜ」

助け船を出したのか新一の一言で、お弁当を開けていく。

「新一、お弁当あるの?良かったら私の分けようか?」

「ん、あぁ、大丈夫。宮野が作ってくれたし」

え、は?、ふーんと三者からの反応に志保は頭が痛くなるのが分かった。
だから嫌だったのだ、朝彼に弁当を渡したにも関わらず「オメーが持っててくれよ」と突き返されたのだ。
ああ、不安げこちらを見つめてくる彼女の視線が辛い。

「ちょっと、どういう事よ!新一くん!」

「どういう事って……?」

「なんで、この……んん!宮野さんが新一くんのお弁当作ってくるのよ、それは蘭の役目でしょうが!」

「別にいいじゃねーか、たまたまだよ、たまたま」

手提げバッグを引寄せ、中からブルーのクロスに包まれた大きめの弁当を取りだし、ラベンダーのクロスに包まれた小さめの弁当を志保に渡してきた。

「早く食べようぜ? 時間なくなるぞ?」

「そうだね、食べちゃおうよ、蘭くん、園子くん」

「そ、そうだね…」

チラチラと新一の弁当を眺めながら食べる蘭の姿に、申し訳なくなってしまう。

「宮野、ちゃんと食べろよ」

「……分かってるわ」

食べる量は元から少なかったが、組織壊滅の後はますます食べる量が減った志保を心配し、新一はこのくらいは食え、と志保の食事に付き添うようになっていた。
もう入らない、いらないといえば、強引に箸でおかずなりご飯なりを口に捩じ込んだりして、めちゃくちゃ叱られた事もあったりした程だ。
志保がきちんと食べるのを見つめる新一の姿と、その新一を気にしながら食べる蘭、一見なんともないように食べる志保の姿に園子は何か言おうとしたが、真純が説明した。

「志保は身体を壊してさ、食べるのを疎かにして倒れたりしたんだよ。工藤くんは一緒に行動していたからか、心配なんだよ、な?」

「ああ、コイツ放っておくと無茶するからな」

「………頼んでいないわ…」

志保の突き放すような言い方に、園子と蘭は眉を顰めた。
しかし、新一は肩を竦め彼女たちに「コイツの事は気にしないでくれ、これが通常運転だから」とフォローにならないフォローをしていたが、彼女たち、特にお嬢様からの視線は険しかった。

お願いだから、これ以上 関わらないで──

そう願いながら志保は自分で作ったお弁当を咀嚼する。あぁ、味が分からない。
しかし、ここで食べないと新一から無理やりに食べさせられる方の事がかなり面倒だと思い、味が分からない物を無理やりに口へと入れた。

「……おー、今日はちゃんと食ったんだな」

お弁当の中身がないことをチェックした新一はふわふわとした志保の頭を撫でようと手を伸ばした。

「………やめて」

そんなことしないで、とばかりに手を払うと志保はお弁当を片付けて立ち上がった。
小さいお弁当ということが奏して、飲み物を買いに行くと言って立ち去ろうとした。この場にいたくないという気持ちも大きいが。

「それじゃ、お先に」

「ちょっ、待てよ、宮野!!」

立ち去ろうとする志保に声をあげて、新一は急いで弁当を空にすると「俺も行くから」とクロスもろくに結ばずにランチバッグにしまった。

「別に、来なくても大丈夫よ」

「倒れたりしたらシャレになんねーからな、博士や兄さんズにバレたら俺が叱られる」

志保の腕を取ると、新一は蘭たちに「先に戻るなー」と声をかけた。

「ちょっと、新一!!」

蘭の「行かないで!」と言いたそうな言葉に対し、「教室でなー」と手を振る新一に、隣にいた志保は頭が痛くなるしかない。
彼女の悲しそうな眸を、元に戻ってまで見ることになるなんて……と罪悪感が押し寄せてくる。
どこまで、鈍感で、酷い男なんだろうか、と隣を歩く男に志保は視線だけを向け、ため息を吐いたのだった。

心配してくれるのは嬉しいが、それは仲間としてであって、特別ということではない。彼の特別は彼女だけなのだ。
これ以上、優しくしないで欲しい。期待してしまうから、でも理解っている。それは愚かな願望なのだと。志保は胸が軋むくらいの痛みを伴いながら新一の横を歩いたのだった。



END
2017/08/14


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