04
思わず、走って帰って来てしまい、博士を驚かせてしまった。
「どうしたんじゃ、ぁ、志保くん」
「なんでもないわ、すぐに夕飯の支度するわね」
持っていた荷物を一度キッチンへ運び、冷蔵庫にしまってゆく。博士から心配するような眼差しがなんともつらい。気にしなくてもいいのに。
「ぁ、志保くん……疲れてるなら夕飯な出前を取ってもいいんじゃぞ?」
「大丈夫よ、それに出前なんて…博士が喜ぶだけじゃない!」
腰に手を当ててジロリと見やれば、博士は「アハハハハァ…」て誤魔化し笑いをしている。
「それに、疲れてなんかいないわ」
「なら、いんじゃがのう」
「着替えてくるわね」
博士にそう伝えれば「ゆっくりでかまわないからのう」と言ってくれて、志保は「ありがとう」と応えた。とは言ってもすぐに夕飯の支度はするつもりである。
地下室、ではなく元に戻った時に地下室は暗すぎると博士を始め、赤井や降谷から責め立てられ、しまいには新一が有希子を投入してまで陽当たりの良い二階へと私室を移動することになった。
地下室は今まで通り、志保専用の研究室になってはいるが、仮眠までなら許すが寝るのは私室で!と譲歩をされたくらいだ。
志保はメアリーから渡された、家族の写真を大事に買ってきたフォトアルバムへと差し込んだ。
顔を覚えてさえいない両親がこんなに穏やかに笑い、もう写真すらも残っていなかった姉の姿に嬉しさで眸が潤うのが分かる。
嬉しくて、少年探偵団のみんなと撮った写真も入れれば、志保にとってかけがえのない大切な宝物が完成した。
ふふ、と笑みを携えて階下へ行こうとしたら、声が聞こえてきた。
「───博士たちも、」
「しかし、お邪魔じゃろう」
「んなこたねーって、」
何故、彼がここにいるのだろうか──。
さっきまでの幸せな気分が、先ほど彼らに会った時のように沈んでいく。
「──一体、なんの騒ぎ?」
「あ、宮野!オメー、さっさと帰るんじゃねぇよ!」
「真純ちゃんと一緒に帰っただけよ」
「だけどなー!あ、今から料理すんなら待った!」
彼の言葉を無視して、キッチンへ入ろうとすれば止められた。
「なんなの?」
「いや、蘭がさ、飯作ってくれてるんだけど、どうせならみんなで食べないか?」
「私はパス」
きっぱり言えば、新一が「なんでたよ!」と文句を言ってきたが、こちらが「なんでよ」と言いたい。
「買ってきた食材があるもの」
「明日 使えばいいじゃねぇか」
「いやよ、ちゃんと野菜とか使いきりたいのがあるんだから」
きちんと冷蔵庫の中身やストックされている野菜等をいかに新鮮なうちに使いきるか、きちんと計算しているのに、それを阻まれるのはイヤとしか言いようがない。
──それに、何故、彼らの姿を見せつけられてまで一緒に夕食を摂らなければならないのか、とことん神様は自分を嫌いなようだ。
「なに、ババくせぇこと言ってんだよ…」
「………煩いわね、いいって言ってるのが分からないの?! あなたは早く隣に戻りなさいよ!!」
カチンときたのは言うまでもない。
ビシッと隣家を指差しながら工藤くんに伝えれば、少しだけ寂しそうな顔をしたものの「へいへい」と軽口を叩いて出てい「明日も弁当頼むな〜」
「はぁ?」
声を上げたものの、ヒラヒラと手を振りながら出て行った彼に対し、なんなの?と言いたい。
意味が全くわからない。
ふるふると震えていると「し、志保くん…?」と博士が気遣うように声を掛けてきた。
「……博士、夕飯作るわね」
いけない、博士に気を遣わせる訳にはいかない。
志保はそう思いながら、買ってきた材料を取り出して夕飯を作ることにした。
時折、イラっとしてはハンバーグのタネをビタン!と空気抜きの為に手でキャッチした。
こんなイライラした気持ちでは美味しいのは作れないと頭を振って、大切な博士の為にハンバーグ(豆腐)を作ったのだった。
夕飯を食べた後、博士はアイディアが出た!と言って研究室に籠った。
志保はソファーに座り、意味もなくテレビを眺めていた。クイズ番組に、ドキュメンタリー、野球中継、などのチャンネルを変えるがどれも心引き付けられるものはなく、テレビを消すとテーブルに置いてあった新聞へと手を伸ばす。
新聞の広告欄には発売予定なのか、既に発売しているのか小説のタイトルが並べられ、ミステリー作家の待望の新刊!とアオリをつけられ、広告の中では大きく掲載されていた。
目に留めたのは彼が好きな作家だったからで、不意に隣家を窓越しに見れば灯りが灯っており、まだ彼女はいるのかしら、などと考えてしまう。
(──もしかしたら、泊まるのかもしれない…)
仲良く買い物をしていた二人の姿を思い出し、志保は持っていたコーヒーを口に含めば、やたらと苦く感じた。
カップをテーブルに置き、ソファーの上で足を抱え込みながら座ったままどことなく視線をさ迷わせ眸を瞑った。
(…………お願いだから、もう私の中に入らないで……)
どうやったら彼を忘れる事が出来るのだろうか。
ギシギシと悲鳴をあげるような痛みが胸を苦しめる。
こんな想いをするなら、離れればいいのだろう。
でも、それでも傍にいたいと願ったのは自分で、どうかしている嗤うしかない。
冷静でいるのが得意なはずだったのに、なるほど、恋は盲目とはよく言ったものだ。
(……いっそ、冷たくしてくれればどんなに楽だったろうか…)
お前のせいで、と言われた方が良かった。
それなのに彼は「ありがとう」と笑顔を見せてくれて、赦してくれたのだ──。
志保は身を小さくしながら、ソファーに寝転び、自嘲したのだった。
─── きっと、それこそが罰なのだろう
ゆっくりと眸を閉じたのだった。
END
2017/10/25