エピローグ

名探偵コナン

ぶっすーと頬を膨らませながら、空港のベンチに工藤新一は腰を下ろしていた。
頬には殴られたような痣があり、外見が良いだけに人々の目に留まっていた。

「なんで 日本に帰らねぇんだよ」

「仕方ないじゃない、元々アメリカで生活する予定だったし、赤井さんから聞いたでしょ? 暫くはFBIに保護してもらうのよ」

「聞いたけど!普通なら一緒に日本に帰るとこだろ」

「……はぁ、私の保護者は赤井さんなの。日本では博士ってなっているけど、仕方ないでしょ? まさか彼と血縁だったなんて知らなかったんだから」

「…………いつ、日本に戻るんだよ」

「だから未定よ」

頑なに日本に帰ると言わない『恋人』に新一は頭を抱える。

「来年?」

「そんな早い訳ないじゃない。少なくとも5年くらいは……」

「そんなに離れていられっかよ!」

ううーと唸る新一に哀はクスッと笑う。
まさか、彼とこんな風になるとは1ヶ月前には思う訳もない。彼は夏休みギリギリまでいる気でいたが、赤井とジョディによって帰れ!と叱られたのだ。
なんせ、保護すべき哀に手を出したのだから。
いくら中身が19歳だとしても、まだまだ小さい女の子でしかないのだ。
哀が庇わなかったら、ジョディの銃が壁に穴を空けていたに違いないし、赤井によってジークンドーの餌食になっていたかもしれない。

「私も九月からはエレメンタリースクールに通うから忙しいのよ、あなたも受験生じゃない」

こんな所で駄々をあげてる場合じゃないわ、と告げれば、新一は何か閃いたのか顔を上げた。

「? どうかしたの?」

「そうだよ……受験…」

「やだ、忘れてたの?」

「ちげーよ、そうだよ、俺、アメリカの大学受けるよ」

「………はぁ?」

「うん、そうしよう!そしたらオメーに会えるしな!」

名案だとばかりに、こうしちゃいらんない!早く日本に帰って手続きだ!と腰を上げた。

「あ、あなた、そんな理由で大学受ける気なの?」

「おう!まぁ、日本の大学よりこっちの方が気になるしな!まずは親父たちに言っとかないとな…」

ブツブツ言いながら、スマホを操作し連絡してるのを呆気に見ていれば横から「愛ですね」とジョディが囁いた。

「ジョディ!」

「いーじゃないですか、どうせなら哀ちゃんもスキップしたら、もしかしたら来年は同じ大学に通えるかもしれませんよ」

片目を瞑って話してくる彼女に、なっ!と声をあげる。でも悪くない提案かもしれない。

「……そうね、でもそれはまだ黙っていてね」

「OK!」

秘密の合図のように口元に人差し指を当てた。

「────灰原、母さんがさ、」

振り向いて話しかけてくる彼に、かつての江戸川コナンが重なる。同じ人物なのだから当たり前だか、またこんな風に自分を見てくれるとは思ってなかった。
手放そうと思い、諦めた恋だったはずなのに。


新一は近寄ってくる彼女の口元が上がっているのを見て、自分も笑っているのに気づく。
何故だろう、彼女が笑えば 自分も嬉しくなる。
離されそうになって、彼女を手放せないと思った。
ずっと傍にいたい、いて欲しい。
等身大の、格好つけなくとも構わない場所だから、大切だったのに気づかなかった。
手放せない、手放してはいけないのだ、この想いは。


だから、傍にいるよ。
二度と君を手放したりなんかしない。



END
2017/10/19


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