世界が変わる、その瞬間

名探偵コナン

「「──コナンくんっ!!」」

「んぁ?」

探偵団の声で振り向こうとした瞬間、頭部に強い衝撃を感じた。






意識が浮上する感覚にコナンはゆっくりと眼を開けた。するとぼんやりと母さんの姿が見えた。

「目、覚めた?」

「………かぁ、さん……?」

「あら!」

なんで母さんがいるんだ?と眼を擦りながら、起き上がると、違和感を感じたのは言うまでもない。
見覚えのある天井だが、室内はまるっきり子供部屋になっている。家具も俺が知らないものばかりだ。
極めつけが、母さんがいることに加え、…………なんか、老けて見える。が次の瞬間、ムギューっと抱きしめられた。

「やだ〜〜!私をママと間違えたの〜??」

「…え、は?」

「うふふ、私もまだまだ若いってことよね〜」

嬉々として有希子がコナンを抱きしめて、頬擦りしてきたのだ。いったい、なんだ?と思っていると、ドアが開くとともに声が掛けられた。

「司、目覚ましたのか?」

「あら、新ちゃん!この通りよ」

「母さん、何してるんだよ……苦しそうじゃねーか」

つかつかとベッド近くにやってきた”ソイツ”は母さんからひょいっと身を離してくれたが、コナンは目の前の人物を凝視した。──なんで、”工藤新一”がそこにいるんだ?って”つかさ”って誰だよ?

「ん? どうした? まだ頭痛むのか?」

「え、あ、あの……」

「「?」」

俺? 俺のことなのか?
どう受け答えたらいいのか分からなくなる。
いったい、これはどういう状況なのだろうか、夢、夢か?
それならばと、コナンは自分の頬を思いきりつねってみた。

「いってーーー!!」

「バッ……、なにしてだ! オメーは!!」

ヒリヒリと痛む頬を”工藤新一”が撫でてくれた。

「あーあ、こんなに赤くして、起きたついでにアイツに診てもらった方がいいかもな」

抱っこされたまま移動しようとするのをバタバタと手足を動かして抵抗した。

「なんだよ、抱っこしなくていいのか?」

「う、うん……」

冗談じゃない!と思いながらコナンは頷いた。
とにかく現状を整理しようと、ちらりと有希子と”工藤新一”を見る。キッドの変装かとも思ったが、そうでもないし、傍らの母さん──有希子を見るが明らかに自分が知っている”工藤有希子”よりは十は老けて見える。
考えたくはないが、ここは未来かどこかなんだろうか。そんな可能性が頭を過るが、そんなバカなことが起きるはずがない。

「あ、司くん、起きたの?」

リビングのドアを開けたら、そこにいるのはエプロン姿の蘭だった。

「平気?」

「う、うん…」

屈んで訊いてくる蘭があまりに綺麗になっていて、俺はドキドキしながら答えた。
こうして、エプロン姿でいるってことは、将来 俺と蘭は……。とにやにやしそうになるのを抑えながら、頭の中はピンク色になりそうだった。

「志保は?」

「志保さんなら美保ちゃん連れて 部屋に行ったみたい」

「あー、授乳の時間か?」

二人の会話を聞きながら、コナンは(ん?)と不思議に思った。
──しほ? みほ? 誰の事だ?
疑問に思っていると、傍らの”工藤新一”が頭を撫でてきた。

「しばらく掛かるから少し待つか、痛むか?」

「う、ううん、平気」

「……そうか? じゃあ、みんなと遊んでこい」

トン、と背中を押されてリビングから見える庭を見れば、人が沢山いた。

「つかさくーん!」

「お、司、大丈夫だったか?」

「司くん、平気かい?」

その場にいる人たちに驚くしかない。
なんだって、こんなに人がいるんだ??
知らない女の子に、元太、光彦、歩美、世良に園子、しまいには赤井さんに降谷さんもいる。博士も。
元太、光彦、歩美が高校生くらいに見えるのはやはり此処が未来だからなんだろうか?
戸惑いながらその中へ入っていくと、知らない女の子が引っ付いてきた。

「彩月ちゃんと司くん 相変わらず仲がいーね」

「だって つかさくんとはしょうらいけっこんするんだもん! ねー!」

「え……え?」

くっついてきた女の子はどことなく蘭に似ていなくもないが、一体 誰なんだろう。
”コナン”はガラスに映る自分を見ながら、目が覚めるまでとなんら変わりはないのを確認しながら、隣の女の子をみた。
多分、自分よりは年下なんだと思う。そもそも”コナン”は小学一年生にしては小さい方だ。
考えに夢中になっていると、返事をしなかったせいか隣の女の子はうるうると瞳に涙を浮かべていた。
──あれ、これどこかで見たことあるような…。
そう思った瞬間、女の子 ──彩月ちゃんが声をあげながら蘭に泣きついた。

「ママー!! つかさくんがさつきをおよめさんにしないってぇ!!」

「い”い”??」

ちょっと、まて? ママ? 蘭の事をママって言ったのか?!
だって、蘭は”俺”の母親じゃねーのか?
えーん!と泣く女の子に蘭が「泣かないの」と宥めている。
年上となっている少年探偵団の連中が「泣かしちゃダメじゃない!」とか「責任取らないとダメですよ」とか勝手な事を言っている。
だが、それどころじゃない!あの女の子の母親が本当に蘭であるなら、工藤新一は誰と結婚して、”この俺”が生まれたんだよ?
呆然としていると、リビングのドアが開かれた。
わぁわぁと騒がしいのに驚いたらしく、赤ちゃんを抱え直している。

「一体、何の騒ぎ?」

「司が彩月ちゃんを泣かせたんだよ。美保〜 パパのとこおいで〜」

工藤新一が入ってきた美人に理由を話し、赤ちゃんを抱っこしていた。

「司が?」

こちらを捉えたその眸は翡翠色で、真っ白い肌に赤みかかった茶髪は緩く括られていた。
───ちょっと 待て!!
あれって、あれって、もしかしなくとも、まさか、灰原じゃないのか?!
え? 俺が結婚するの、灰原??
いやいやいやいや、そんな筈がない!俺には蘭がいるんだぞ!!
信じられなくて、再び頬を指で引っ張ったがまたしても「いてーーー!!」と声をあげた。
なにやってンだ!と”工藤新一”に手を引かれながら「ほら、志保に診てもらえ」と”灰原”の前に出された。「もう、何してるの?」と苦笑いをする彼女を見つめ返すと、パチパチと瞬きをしている。

「志保?」

傍らの”工藤新一”が話しかければ、”灰原”は肩を竦めながら「部屋で手当てしてくるわ。美保をお願いね」とコナンの手を引いて、彼女の仕事部屋(らしい)に連れて来られた。
「そこに座って」とソファーを指さされ、コナンは複雑な気持ちになりながらも素直に腰を下ろした。
つねって赤くなった頬に手を滑らせて「少し熱いわね」と言うと、部屋に置かれている冷蔵庫からアイスノンを取り出すと押し当てられた。

「冷て!」

「我慢なさい」

クスッと笑いながらいう”灰原”にモヤモヤしていると、彼女は首を傾げながら問うてきた。

「あなた、司じゃないでしょう?」

「……へ?」

「もしかして、”江戸川くん”?」

「は、え、は?」

突然の事に顔を上げれば、当たりみたいねと彼女は苦笑していた。

「な、なんで?」

「なんでって………”あなた”には不本意でしょうけど 母親よ? 分からない訳ないじゃない」

肩を竦めながら困ったように苦笑する”灰原”を見上げる。

「とりあえず、どうしてこうなったのか覚えてることでいいから教えて貰えるかしら?」

「あ、あー……公園で元太たちと───」

此処に来る前のことを思い出しながら、ぽつぽつと話し始めると静かに話を聞いてくれる姿勢にコナンはホッとしていた。

「──つまり、小嶋くんが蹴ったボールが直撃して、目が覚めたら、此処にいたってことね」

ギィーと背もたれに身を預けて、考えてくれているらしい。

「あのさ、”この子”はなんで寝ていたんだ?」

「え? あぁ、はしゃぎすぎたのよ。さっきの状況を見れば分かると思うけど、バーベキューパーティーをすることになってね。その、蘭さんの所の彩月ちゃんが来るってなったら、浮かれちゃってたのよ」

「…………へ、へぇ……。も、もしかして ”この子”は蘭の娘を?」

「……さすが”貴方”の遺伝子と言ったところかしらね」

苦笑しながらも、”灰原”は笑ってみせてくれたのは気をつかってくれただろうか。
ところで気になるのは、何故 蘭 ではなく、”彼女”とくっついたのだろうか。
どうにも分からないが、彼らは”江戸川コナン”と”灰原哀”ではなく、”工藤新一”と”宮野志保”だ。

「──あの、さ「聞かない方がいいんじゃねーか?」え?」

訊こうとした瞬間、”工藤新一”によって遮られた。というか、いつの間に部屋に?

「潜考してる間にだよ」

「あら、あなたは”この子”が司じゃないって気づいてたの?」

「まぁな、と言いたいけど志保みたいにすぐではなかったけどな。さっすが、志保だよ。それに母さんがやたらと喜んでいたんだよ、ママに間違われたってな」

嬉しそうに”灰原”の肩を引き寄せる”工藤新一”に驚きを隠せない。なんだってそんな幸せそうな、嬉しいという満面の笑みを浮かべているんだ!見てて恥ずかしい……”俺”があんな表情をするなんて。ってそうじゃねぇ!

「…………聞くなって、なんで…」

問い掛ける俺に”俺”がこちらを向いた。やめろ、なにベタベタしてんだ!”灰原”がアイアンクローをかけているのは見ないふりだ。

「つか、聞いてどうすんだよ」

「どうするって……」

「”江戸川くん”、未来なんて知らない方がいいわ。別に”あなた”はあなたで未来を紡いでいけばいいの、必ずしも”この未来”が来るとは限らないのだから」

「おい、それじゃあ ”コイツ”が灰原と結ばれなくても良いっていうのかよ?」

”灰原”の言葉に反論したのは”工藤新一”だった。
彼女は困ったように、肩を竦めた。

「そうじゃないけど……ただ、”江戸川くん”が好きなのは蘭さんでしょ? それを無理にねじ曲げちゃダメって言ってるのよ」

「あのなー、「あら?」ん?」

二人の言い合いに口が挟めぬままいたら、”灰原”が驚いてこちらをみた。”工藤新一”も。
なんだ?と思えば、身体が光っている。ちょっ、なんだ、これ??

「お、おい!!大丈夫か??」

「あ、ああ……別になんともないんだけど…」

光ってる以外は変なトコもない……あれ、でも、なんか頭が痛い気がする。
頭を押さえると、二人が慌てて寄ってきた。

「おい!本当に大丈夫かっ?!」

「どうしたの? 頭が痛いの?」

「………って…」

心配そうに頭に手をやり、診てくれる”灰原”の手が、心配してくれる眸が本当に”この子”を慈しんでいるのが分かる気がした。
”工藤新一”も心配そうに見つめてくる。お前ら本当に夫婦なんだな、なんか、似てる……。
あ、ヤバい……耳鳴りがしてきた。

「江戸川くん! しっかり、江戸川くん!」






ガバッと起き上がれば、傍にいたのだろう灰原がビクッと身体を震わせた。

「……はい、ばら…?」

「ちょっと いきなり起き上がらないでよ。びっくりするじゃない」

「……ここ…」

「博士の家よ? どうしたの? サッカーボールが直撃した誰かさん」

辺りを見渡せば、確かに博士の家で、博士のベッドだった。窓の向こう側では歩美たちのはしゃぐ声が聞こえる。

「………おまえ、灰原、だよな?」

「…………なに? 頭でも打っておかしくなった訳?」

腰に手を当てながらこちらをジト目で見てくる彼女に、向こうの”彼女”は優しかったのになんて思ってしまう。

「ほら、頭 よく見せて」

そっと、彼女の両手が頭に触れる。その優しい手つきにドキリとしてしまったのは、さっきと同じだったからだ。

「だ、大丈夫だって!!」

なんだか、気恥ずかしくて思わず手を振り払ってしまう。ベチッ!と鈍い音がなり、ハッとしてしまう。灰原を見れば、何とも言えない表情をしていた。

「あ、わ、わりぃ…」

「……別にいいわ。なんともないようだし」

すっ、と立ち上がると「じゃあ、ゆっくり休んでいたら」と言い残して、去ろうとしているのをみて、何故か俺が傷ついてしまう。今のは完全に俺が悪いのに、なんで、彼女を傷つけてしまったのに。

「は、灰原!」

「………なに」

「あ、あの、そばに……「は?」傍にいてくれよ…」

彼女の手を取り、引き止めた。いなくならないで欲しい。俺の傍から、きっと、ずっと。
今はまだ蘭が大事だけど、なんだか彼女がいなくなったらと思うと、ダメだと思った。








「どうなるのかしら」

不意に呟かれた声に新一は傍らに立つ最愛の奥さんを見た。
彼女の視線は、庭にいる息子に注がれている。可愛い娘はお昼寝だ。
先ほど倒れた息子は、目を覚まして志保に診察してもらうと大急ぎで庭へと飛び出していった。
みんなが肉を焼いている中、大好きな幼なじみである女の子と一緒に肉を食べている。現金なものだ。
だが、先ほどの志保の科白は息子へ対してではないのは新一には分かっている。
奇妙な体験だったであろう、恐らく気づいたのは自分たちのみだ。自分の息子が数年前の”自分”だったのだから。

「まぁ、なるようになるだろ」

「……あなたって意外と適当よね」

「こればっかは仕方ねぇだろ」

すぐに気づくか、自分みたいに何年か掛けて気づくかは”アイツ”次第である。
新一は志保の左手を取ると指先で薬指にある指輪をなぞる。

「……アイツはきっと早く気づくかもな」

「そうかしら……案外 気づかないかもしれないわよ?」

「あっちのオメーがいなくならなければ、な」

「…………なら、貴方みたいにしつこく追い掛けそうね。可哀想だわ、”私”が」

「おいおい」

ぐいっと彼女の細い腰を引き寄せ、耳元で囁いた。

「サメは獲物を逃がさねぇんだぜ?」

持てる感覚の全てを使って犯人を割り出し、食らいついたら相手が観念するまで証拠という鋭い歯を食い込ませるんだからよ、と言って志保の首に歯を起てた。

「探偵だしな」

首に手を当てた志保はため息を溢すと、ギリギリと新一の足を踏みつけてやった。数十分前の”息子”同様に「いってーーーー!」と声を上げたのだった。





END
2018/08/07


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