たまには君からのキス
「…よっ…と」
用事があり、地下室へと足を向けたコナンが扉の隙間から見えたのは、ほっそりとした体躯の赤みがかかった茶髪の女性が脚立に登ってる所だった。
ふらふらと、どこか頼り無さげに脚立の一番上に膝を乗せている。
「志保?何してんだ…」
「あら、工藤くん」
サラリと肩まで伸ばされた髪が揺れ、知的そうな翡翠色の眸がコナンを捉えた。
振り向いたのは宮野志保。江戸川コナンのれっきとした恋人である。十一も年が離れているが、そんなことはお構い無しなのは数年前に壊滅した通称『黒の組織』の事件が絡むが割愛する。
「電球が切れたみたいだから、替えようと思ってね」
ふと見ると今外されたばかりの電球が志保の手の中にあった。
「言えよ、あぶねーだろうが」
「あら、この位平気よ」
「大体、今時電球はねぇだろ」
コナンはテーブルの上に置かれた真新しい電球を片手に、ポンポンと弄びながら、志保を見上げた。
「そうね、今度 博士に話しておくわ」
志保は天井を見上げながら、切れた電球を外すとコナンへと放り投げた。
「っっと! あぶねーだろうが投げんなよ!!」
「あら、あなたなら取れるって信じてたのよ」
くすっと笑いながら志保はコナンへと手を伸ばす。
新しい電球を寄越せというのだろうが、コナンは古い電球をテーブルに置くと、志保が登っている脚立に足を掛けた。
「ちょっと、工藤くん? 危ないわ」
「いーからオメーは降りろ。俺がやる」
「なんでよ? このままやった方がいいじゃない」
頭上から見下ろす志保は分かっていないのか、首を傾げた。
自分1人だから油断しているのだろう。
だが、脚立に登っているというのは脚が無防備に晒されているし、白衣の下に着ているのはよりにもよって、ミニのワンピースである。
そう、コナンがいる場所から下着が見えそうだし、スラッとした脚が伸びているのだ。
誰も、自分を除いては博士以外来る人間はいないだろうが、それでもそうやって顔を上げると脚がちらつくのは止めて欲しい。
「いーから、な?」
そう言って、志保の手を取ると脚立から降りるように促した。
なんなの?と言いたそうに志保はコナンの手を借りて降りると、コナンは新しい電球を持ち、脚立へと足を掛ける。
キュッキュッと回すと、志保へ顔を向けた。
志保は切っていた電灯のスイッチを入れるとパッと明るい白色灯が部屋を照らす。
一瞬眩しそうに顔を歪めたコナンだったが、志保を見下ろせていることに、口元を緩めた。
「どうかしたの?」
見上げてくる志保に、年齢差は縮ませることは出来ないが、身長差は早く逆転しないかとこっそり牛乳を飲んでいた。
「ん────、早く背ぇ越してぇなぁってさ」
呟かれた言葉に志保はようやく先ほどのコナンの態度が分かったような気がした。
ただでさえまだ志保の方が背が高いのはコナンにとっては気になるところなんだろう。
徐々に縮まっているとはいえ、先ほどのように見下ろされるのは男心に気になるものがあるはずだ。
だからといって脚立に登って身長差を感じるには高すぎるだろうに。
「だからって、そんな上から見下ろされちゃ首が痛くなるわ」
「誰もここまで伸びてぇとは思わねぇよ」
「そうね、せめてこれくらいかしら?」
志保は脚立の一段目に足を掛けた。
10pは縮まった距離にコナンは自分を見上げてくる志保が可愛いなんて思えた。
「まだ低すぎねぇか?」
「そう? じゃあ、もう一段かしら?」
「ちょ、おま……」
また足を掛けて身体を登らせた志保との距離がまた近くなる。辛うじてコナンの顔が志保の頭より上だ。
ふふ、と可笑しそうに笑う志保にコナンも何してるんだとばかりに笑うも、いつも自分が背伸びをしていたキスをここぞとばかりに屈んで彼女の唇を塞いだ。
「………あら、この高さならキスをするにはちょうどいいのかしら?」
「たまにはオメーが背伸びしてみろよ」
そう呟けば、志保は眼を瞠った後、くすくすと笑いながら「マセガキね、女からキスをさせようだなんて」と言いながら少しだけ踵を上げると唇を合わせた。
触れるキスから、啄むようにするには脚立の上は危ない。コナンはまた自分が志保よりも下になるのは嫌だが、怪我をしたりしては元も甲もない。
それを分かっているのか、志保は脚立から降りたコナンを仮眠用のベッドへと引っ張った。
腕を引かれたコナンは慌てながら、志保を押し倒すような形でベッドに乗った。
「これなら、背なんて関係ないんじゃない?」
「……まぁったく、年下ナメんなよ」
志保を押さえつけるようにコナンは彼女の上に身体を重ね、その妖艶な唇を貪ったのだった。
END
2018/05/05