その眸に隠れる熱

名探偵コナン

廊下や教室の出入口、または階段の踊り場、彼らを見掛ける度、その距離はやたらと近いことにイラっとするのは嫉妬しているからだ。

──彼女は俺のモノだ!

そう その場で言いたいのをぐっと拳を握り我慢をする。
しかし、彼女は俺のモノだというのが自分の妄想が生んだまやかしではないかと思う時がある。
ついつい確認したくて、夜に会いたいと彼女へメッセージを送れば彼女専用のフォルダに返信が来るから付き合っているのだというのは頭では理解した。
でも彼女はいつでも、あの友人らを、あの名探偵を優先するのには不満がある。いや、あの名探偵を優先するのは大いに不満だらけだ。
江戸川コナンと灰原哀という生徒は生徒間だけではなく、教師の間でも有名である。
年齢にそぐわないほどの知識を持っている為に彼らに教える自信がないという教師までいるくらいの聡明な二人。実際、彼らの年齢は自分と同じ年代であるのだから気にしなくともいいのだが、言えることではないので頑張れとしか言いようがない。
生徒間では、アイツらはデキているという事で有名である。
快斗がよく見る場面を見れば予想はしやすい。
あんな至近距離でヒソヒソと会話をしているのだ、誰がどうみても"恋人"にしか見えない。
またイラっとして、快斗はスマホを見る。
送られてきた彼女からのメールやメッセージを見ては、彼女ときちんと繋がっていることを確認する。

実はこれは名前だけは彼女で、全然違う相手が送って着ているんじゃないかと疑心暗鬼に取りつかれてしまうくらいに、快斗は限界に来ていた。

授業が始まる予鈴がなる直前、再び彼女にメッセージを送る。そのまま画面を見ていると既読がつき、直ぐにいいわよというメッセージが届いた。
それを確認してから、ようやく快斗はデスクの上に上げられた教科書類を手にすると準備室を後にしたのだった。





灰原哀には秘密がいくつかある。
それを知るのは幾人かの者だけであるが、学生として知られてはいけない秘密はただひとつ。
恋人が教師だということだ。
それを知るのは親友の吉田歩美、親代わりの阿笠博士と相棒である江戸川コナンとその恋人である毛利蘭くらいである。
自称 兄だというアラサー組もいるがそれはスルーしている。もし、彼に嫌がらせ等をした時には人体実験として使わせてもらうから、と嗤ってみせれば文句は言われなくなった。
相棒である江戸川コナンも初めは苦い顔をしていたが、貴方だって"年上"と付き合っているのにどうして私はダメなの?と訊けば、返答を詰まらせていた。
彼女には元に戻れないと判明した時に謝罪をした。
許されることはまずないだろうし、彼女を悲しませてしまうのも辛かった。憎んでくれてもいい、むしろ憎むべきであろうと思っていたにも関わらず、彼女は涙を流していた。
初めは江戸川くんが工藤新一に戻れない事実に泣いていたのだろう、しかし、それは当然である。
恋人が十も年下になるのだから。
しかし、違った。彼女はありがとうと礼を述べてきた。混乱する私に、アイツは無鉄砲だから……でも殺されなくて良かったと、生きていて良かったと、薬だったから死ななくてすんだのだと言ってくれた。
銃で撃たれていたらそっちの方が助からないもの、と言った彼女は本当にエンジェルであり、私には聖母マリアに見えた。そんな彼女に憎しむという感情は似合わない。そんな感情を抱かせる自分が許せないとも思えた。
彼女には未だに申し訳ない気持ちはあるものの、私を同年代の友人として扱ってくれるようになった。
だから、快斗くんとの交際にしても背中を押してくれたのは彼女で、本当に頭が上がらない。
江戸川くん──工藤くんには本当にもったいないと思うしかないのだ。

「あーいちゃん!次は音楽だよ」

教科書を持つ親友に呼び掛けられ、哀も教科書とペンケースをもって立ち上がる。ブレザーに入れていたスマホが振動し、確認するば『お昼休み 会いたい』とだけのメッセージ。『いいわよ』という可愛いげがない返信をしながらも胸の中は会えるという喜びがあった。

「哀ちゃん、嬉しそう」

「……そんなこと、」

顔に出たのだろうか、頬に手をやると歩美ちゃんはただニヤニヤ笑っていたのだった。

「おーい!灰原ぁ」

二人の会話に突然入ってきたのは江戸川くんだった。

「なに?」

「さっきはサンキューな!高木刑事に連絡したらやっぱりオメーが言ってた通りだったぜ!」

勝ち誇るような顔をしている彼に、先ほど無理やりに警察が撮った画像を見せられた。
薬の飲み合わせがおかしいことを指摘すれば、事故かと思えば事件に発展したらしい。彼の推理によって犯人も捕まえられたようだ。

「……いちいち私に聞かなくてもいいんじゃない?」

「いや、もしかしたら証拠消されちまうかもしんねーじゃんか」

「報酬はフサエのポーチでいいから」

「おいっ!こないだ買っただろ!!」

「そうだったかしら?」

彼を一瞥して、傍らで待つ歩美ちゃんに行きましょと促した。
おい、灰原!と背後から叫ぶ声が聞こえるが無視だ、無視。

「哀ちゃん、コナンくん騒いでるよ」

「放っておけばいいのよ」

頼られるのはイヤではないが限度というモノがある。
互いに"相棒"だと思っているが、どうやら自分たちの関係はある意味 特殊らしく、気を付けてはいたが誰かさんを不安にさせているようである。
いくら、自分や彼が「恋愛感情などない」と言ったところで、やたらと距離感が近いせいか、あらぬ噂も出来ている。
あの姉に似た優しい彼女を悲しませるのは勿論、自分の恋人を不安にさせるなんて、歳上としてはあまりよろしくない。
ここでもし、彼に年相応な恋人が出来たと言われれば、悲しいけれど彼が幸せならばと手を離すかもしれない。離せるかは分からないけれど。
つまり、灰原哀は恋人である黒羽快斗をかなり、結構大切で仕方がないのだ。

先ほどのメールを思い出す。きっと不安にさせてしまっているのだろう。
「灰原、灰原」と後ろでうるさい名探偵を無視しながら、哀は早くお昼休みにならないかと音楽室へと足を踏み入れた。



お昼休みはお弁当を早々に食べ終えると、歩美ちゃんに「仲良くね」と耳打ちされながら準備室へと向かう。
扉をノックしようとした時、ガラリっ!と扉が開き、叩こうとしていた腕を取られて中へと引っ張られた。

「く、黒羽くっ………ん、んぅ…」

名前を呼ぼうにも扉に押し付けられたまま唇を押しつけられ、ぬるりと彼の舌が口の中を蹂躙してくる。
ここはまだ学校で、もし誰かがこの準備室へやって来たらどうするんだと思いながらも彼から与えられる熱く、どこか甘い感触を堪能した。
重なり合っていた唇が離れると同時に、カチリと鍵が掛けられる音が耳に入り、眸を開けると彼がどこか歪んだような笑い方をしていた。
ああ、嫉妬させてしまったんだと思い、彼の頬に両手を添えた。

「………哀、ちゃん……」

驚いたのか、一瞬呆ける彼が少し可笑しくて、そのまま食べるように彼の口を塞いだ。
びくり、と震える彼が少し面白くて眸を開ければ彼の眸とぶつかる。
目は口ほどに物を言うとはよく言ったもので、私が愉しんでいると分かったのだろう、彼の眸も愉しげなものへと変化していく。
互いに眸をぶつけ合ったままで、くちゅくちゅと重なりあった口の中は舌が絡み合っている。
口の端から互いの唾液を溢しては舌で掬い、啜りあう。ここが学校でなければすぐにでも身体を繋げるのに、そうならないのは互いに理性が残っているからだ。
ようやく離れた唇は真っ赤になっていた。

「………もぅ!哀ちゃん!どこでこんなキス覚えたの!」

指先で己の唇を撫で上げながら話す快斗は色気が駄々洩れしていたが、唇を赤くした哀もまた言い様のない色気を出していた。

「どこって、あなたに教えられただけじゃない。実地で」

「あーーー!!もう!そうやって直ぐに俺を翻弄するぅ!!」

くすっと笑う哀に快斗は顔を赤くしながらその場にしゃがみこんだ。
その様子に、さっきまで獰猛な眸で哀を喰らい尽くすようなキスをしていたというのに、このギャップが堪らないと哀は密かに思う。
哀は快斗に合わせるように膝を折り曲げて屈むと、快斗の頬に唇を寄せた。

「あなたが不安になることはないわ、私が好きなのは快斗くんだけなんだから」

ふふ、と笑う(身体的には)年下の彼女に察されて快斗はバツが悪そうな顔をするしかない。
疑ってしまう自分が悪いのだ、彼女は素直ではないけれどこうして不安になっていればそれをきちんと伝えてくれるのだから。
しかし、だからと言って、アイツと仲良くしてる姿を見せられるのはやはりイヤだ。

「──それに、彼にはちゃーんと恋人がいるのよ」

知らなかった?と訊いてくる彼女に「はぁ?!」と声をあげるのは数秒後で。
なんだ、そうか、アイツはアイツでちゃんとあの娘と付き合っているのかと脱力した。

「……ねぇ、今夜は会えるのかしら?」

猫の眸のように愉しげに笑う彼女に「今夜は寝かせないから」と伝えて、彼女の口を塞いだのは予鈴が鳴るのと同時だった。




END
2017/12/17
原案:風来坊様


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