空が落ちても海が干上がっても

名探偵コナン

いつだって、冷たい事を言っても厳しい事を言っても、彼女はなんだかんだと俺が望んでいる事を叶えてくれた。
だから解毒剤を作ってくれるのは当たり前で、それは彼女以外には出来ないことだった。

ああ、やはり連れてくるのではなかった──。

そう思った時には遅すぎて、自分が抱きかかえる彼女の胸からは血がどくどくと流れ出している。それを必死に止めようと手で押さえているが手に伝わるのは彼女の身体の鼓動がやたら早くて、俺の手は震えていた。
医療班! タンカを!と周りが騒がしいのが遠くに聞こえる。

なんで、こんなことに──。

混乱する頭で、冷静になろうとしているが手に伝わるじわじわとした血が、はっ、はっ、と荒く短い呼吸をする彼女がますます分からなくなる。
遠くからサイレンが聞こえるが、なんで、なんでだよ、とぐるぐると頭の中で回る。
肩を掴まれ、振り返れば頼れる大人の彼がいた。彼は目の前の彼女を瞠目し、俺を退かせて彼女を抱き上げた。
ドサッと自分が尻餅をついた気がしたが、目の前の光景しか頭に入らないからか、痛みなんてない。
「コナンくん」と誰かが呼び、そちらを見上げれば褐色の肌の彼が自分を抱き上げた。
同じ救急車に乗せられるのかと思ったが、別の車両に乗せられそうになる。「灰原っ!」と声を上げるも彼女は姉の恋人だった人に付き添われて、サイレンを鳴らした車で行ってしまった。

「大丈夫、彼女は大丈夫だよ」

そう呟いた彼だったが、ハンドルを握る手はどこか震えていた。
緊急車両の赤色灯があちこちに見える。
連れてこられたのは警察病院だった。負傷者は自分たちの他にもいたし、俺自身も負傷しているとはいえ、重症ではない。医師に診てもらい、手当ては看護師がしてくれた。思いがけない患者に対して、どうして子供がなんて思っているかもしれないが、早く早くしてくれ。彼女が運び込まれた場所に行きたいのだ。
「はい、よく我慢したね」そう話す看護師に背を向けて、駆け出そうとしたが首根っこを掴まれた。

「こっちだ」

そう言ってきたのは顔にかすり傷がある風見さんだった。
そのまま連れていかれた病棟は「手術中」というランプだけが明るく見えた。
その手術室の前には赤井さんと降谷さん、そして、博士の姿があった。大きな丸みのある身体なのに椅子に座っている姿はどこか小さく見えた。

「……おぉ、しんい、コナンくん。大丈夫じゃったか……」

足音に気づいたのか、博士がこちらを見た。しかし、赤井さんと降谷さんはこちらを一瞥しただけで、また手術室を見ている。
降谷さんは風見さんに何かを指示したのか、静かな廊下に「分かりました」と彼の声が響いた。

「は、灰原は……」

そう訊ねるも"手術中"というランプが示す中に彼女がいるのは分かっている。容態はどうなんだろうか…。

「コナンくん、座って待とうか」

「………う、ん…」

促され、博士の隣に座りながらドアが開くのを待った。
微かに震える手を見つめれば、濁った血が僅かについていた。彼女の血だと分かった。そして、あの時彼女が見たことがないような微笑みを浮かべていたのを今思い出す。それ手を握りしめながら、その日、俺は生まれて初めて恐怖を味わった。
なぜだろうか、どんなことがあっても守ってやると、やれると思っていたのに。




END

2019/02/20


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