哀side
カンカンカンと非常階段を上がり、眼下にはネオンが見渡せる屋上へとたどり着いた。
はぁ、と息を吐きながら、柵に手を付く。直ぐに彼がたどり着くのは分かっている。彼の身体能力の高さは、一緒に過ごした時間でイヤというくらい知っているのだから。
だが、早くこの場から逃げ出してしまいたいが、そうもいかないようだ。
「灰原っ!!」
元の姿に戻ってからは、あの身体能力は下がったのか彼は遅れて屋上へと上がってきた。
「………久しぶりね、工藤くん」
クスっと笑い掛ければ、彼は不意をつかれたかのように「久しぶりって…」と呟いた。
それはそうだ、彼が元の姿を取り戻してから五年は経過し、私が彼の前から去ってから四年が経過している。
「お前、今までどこにいたんだよ! いきなりいなくなりやがって!!」
なんて愚問なんだろうか。しかし、彼は私がどんな思いで離れたかなんて知るよしもないし、知って欲しいなんて思わない。
彼にとっては突然でも、私にとっては必然だった。それに、今は彼をどうとも思ってはいないが、追及されるのは面倒だ。
「あなたには関係ないでしょ?」
「っ、か、関係ないってなんだよ!? お前は俺の相棒だろ!!」
「………私の事、まだ相棒だと思ったの?」
「当たり前だろ!!」
哀はキョトンとし、フッと笑った。
確かに"灰原哀"は"江戸川コナン"の相棒ではあったが、"工藤新一"の相棒ではない。隣にはいられない。彼の隣にいていいのは、あの天使のような彼女だけだ。
それに、哀にはもう────
「…残念だけど、私はもうあなたの相棒ではないの」
「何言って…って何してんだよ!」
哀は工藤に背を向けて、柵を乗り越えた。
「──さようなら、工藤くん」
柵の向こうは足場など無いに等しい。哀は工藤の顔を見つめながら、そのまま一歩後退すれば足は宙に浮いた。
「灰原っ!!!」
悲鳴に近い声と共に手を伸ばされるが、それは空を掴むだけだった。
びゅう、と耳に入る風の音を聞きながら哀はにこやかに微笑んだ。
新一は柵へ駆け寄り手を伸ばすが、哀はその背後にいる男に向かって、口を開いた。
「私を受け止めなさい」
伝わったのだろう、工藤くんが横を見るも彼はそこから飛び降りてきた。大阪の探偵さんになっていたなんて。
クスっと微笑むと同時に、強い力で腕を取られる。バサッと白い翼が前に広がる。
「もう!飛び降りるなんて聞いてないよ!」
焦ったような、でもどこか笑っている怪盗に哀は口端をあげた。
「あら、あなたを驚かせることが出来るなんて嬉しいわね」
「哀ちゃんには敵わないなぁ、もう。ま、今は俺との月夜のデートを楽しもう」
ちゅ、とこめかみに唇を寄せられ、哀は擽ったく思うがぎゅっと彼に、大事な"パートナー"にしがみついたのだった。
END
2019/03/11