可愛い天使

名探偵コナン

「あーいちゃん!」

「どうしたの?」

「哀ちゃんに会いに来たんだよー」

書店に行こうと歩いていたら、兄の友人である黒羽快斗に話し掛けられた。

「お兄ちゃんなら出掛けてるわよ?」

首を傾げて答えれば、快斗は「白馬はいーの!俺は哀ちゃんに会えれば」とニタニタと笑っている。

「どこ行くの? 哀ちゃん」

「本屋さん。毎月出る科学の本があるの」

「そっかぁ〜。あ、そうだ!俺の知り合いに発明家がいるんだけど一緒に行ってみない?」

「………私が興味があるのは科学であって発明じゃないのよ?」

「いーじゃん、いーじゃん。ね、だめ?」

年上のくせにしゃがみこんで上目遣いで訊いてくる快斗に哀はため息を吐いた。
兄から紹介されてから、彼は哀にやたらと会いにくる。可愛い!気に入った!と訳が分からないことを言っては、兄である探の頭を悩ませている。
それでも憎めないのは彼の人柄のせいだろうか、哀はため息を吐きながらも快斗の頬に手を滑らせた。

「あ、哀ちゃん…?」

じぃっと見つめれば、快斗の顔がだんだんと赤くなり、汗をかいてきている。
それをブニッと指で挟めば「いってー!」と声をあげた。
それがおかしくてクスクスと笑うと、涙目になりながら「ひどいよ、哀ちゃん…」と呟いてくる。

「……ごめんなさい。あなたが面白くて」

ふふっと笑えば、快斗は口を尖らせながら「じゃあ、お詫びとして発明家の家に一緒に行こう!」と連れ出された。
わざわざ電車に乗ってまでやって来たのは米花町だった。
迷子にならないように!と快斗と手を繋ぎ、ケーキを買って商店街を抜けて、大きな家ばかりが並ぶ住宅街を歩いていく。
お屋敷ばかりが建ち並ぶ住宅街で一際目を引く独特な形をした屋敷があった。

「ここだよ、ここ!」

「……へぇ…」

快斗は屋敷を見上げる哀に微笑んでから「こんにちはー!阿笠博士いるー?」と気軽にドアを開けた。
出てきたのは少々……いや、かなりのふくよかな体型の白衣を着た老人だった。

「おや、快斗くんじゃないか?」

「ヤッホー、博士!」

快斗が突然来るのは慣れているのか、それほど驚いていない様子だったが、おや?と快斗と手を繋いでいる哀に目を向けた。
哀は「こんにちは」とペコリと頭を下げて挨拶をすれば「快斗くんの妹かな?」と訊いてきた。

「んーん、俺のお姫様!!可愛いだろー!!」

「快斗くん…」

「ハハハ、確かに可愛い子じゃのう」

大きな手が哀の柔らかな頭を撫でると、少女は少しだけ擽ったそうにしていた。
研究所が気になるのか、キョロキョロしている哀が可愛いのか「連れてきて良かった!」と拳を握る快斗に阿笠博士は苦笑いをしていたが、そこにまた来客があった。

「博士ー、あのさー……………」

「…………?」

玄関ドアが開いたと思えば、そこには快斗に似ている人がいて、哀は目を見開いた。
え、と声をあげて快斗と玄関にいる人物を見比べる。
博士も前々から思ってはいたが、隣人の工藤新一と黒羽快斗を見比べる。やはり似ている、そっくりだと思うほどだったが、新一の様子が少しおかしい気がした。
快斗が連れてきた、哀をずっと見つめている。

「………あ、あの…」

「………えっと……君は………」

伸ばされた手が哀の髪に触れるか触れないかの一瞬で、哀は快斗に抱き上げられていた。

「快斗くん!」

「こらー!哀ちゃんに勝手に触るな!!……あ?」

「え、あ!……へ?」

さすがに互いを見て驚きを隠せないが、快斗は哀を下ろすと背後に隠した。
それに対して新一は目の前の快斗も気になるが、どうしても哀が気になって仕方がない。
しかし、それに気づいたのか快斗は哀をガードするように新一の前に立ちはだかる。

「俺、工藤新一!君の名前は?」

「俺は黒羽快斗!」

「オメーじゃねぇよ!ね、そこの君の名前は?」

快斗の背後からチラチラ覗いてくるふわふわの髪をした、超絶可愛い女の子に夢中になっている新一に快斗は見せるものか!と哀を隠している。

「おい!軽々しく哀ちゃんに触ろうするな!」

「哀ちゃんっていうんだ?」

「え…えぇ……白馬哀よ…」

そう言って直ぐ様、快斗の後ろに隠れる少女に新一は「照れてる………可愛い…」と言い出せば、すかさず快斗が「確かに可愛いけど、見るな!」と文句をつけた。

「つか、ちょっと抱っこさせてくんねぇ?」

「はぁ?!何言ってんだ、オメー!駄目に決まってんだろ!!」

「だからオメーには聞いてねぇよ!」

「そんな易々と抱っこさせるかよ!俺だって白馬の目を盗んで抱っこ出来るのに1週間かかったんだぞ!!」

「なんの話か知らねぇよ!」

ぎゃーぎゃー騒ぐ二人に哀は自分のスマホを取り出すと、兄に連絡をした。
近くまで来ていたのか、ばあやが運転する車で慌てて来たのか、道路からはスキール音がした。バンッ!とドアが開いた音もする。

「哀さんっ!!」

「お兄ちゃん!」

「んげぇ!白馬!!」

いきなりの闖入者に新一は驚いたものの、どこかで見覚えがあった。
快斗は白馬の登場に慌てているが、白馬はそれよりもまずは哀の無事を確かめた。

「大丈夫ですか? 突然、黒羽くんと出掛けると連絡があったので急いで追いかけて来てしまいましたよ」

「……ごめんなさい…」

しゅんとする妹に白馬は頭を撫でた。

「怒ってる訳ではないですよ」

「ほんと?」

「えぇ。でも驚きますので前もって言って下さい」

「……分かったわ」

ふふ、と笑みをこぼす哀に白馬はにっこりと笑みを浮かべた。しかし、その笑みをしっかりと見た黒羽は「哀ちゃん!可愛い!!」と叫び、工藤は心臓あたりを掴んで真っ赤になっていた。

「おや、君は……工藤新一くんじゃないですか」

「………………あ、あぁ…」

「? どうしました、工藤く……ん」

返事をしつつも白馬ではなく、視線を下に向けている新一に白馬は視線を追えば自分の後ろにいる哀を見ているのに気づいた。
ススッと身体をずらしてみれば、新一も身体をずらした。
白馬は頭が痛くなる気がした。
どうやら、変な虫が可愛い妹にまたしてもついてしまったようだ。

「確か、白馬だったよな……」

「えぇ」

「………そ、そっちは、妹さん?」

「…………………えぇ、大事な妹です」

「そ、そっか……。随分 年が離れてんだな……」

白馬と話しながらも新一の視線は哀へと向けられている。

「そうですか? 結構よくあると思いますよ」

そう言って白馬は新一に背を向けると哀へと顔を向けた。少しだけ眉を寄せる哀に頭を撫でると抱上げた。

「あ、」

「すみません、そろそろ帰ります」

「ちょ、白馬!!」

「黒羽くん!勝手に哀さんを連れ歩かないで下さいよ」

「俺を置いてくのかよ!」

「お兄ちゃん…」

ぎゃんぎゃん文句を言いそうになるのを哀は白馬の服を引っ張った。

「いくらなんでも可哀想……」

「哀ちゃん!!優しい!大好きっ!!」

「哀さんに触らないで下さい!!」

抱きつこうとしている快斗を回避しようとしたら、体勢を崩したのか、白馬がよろけた。

「あ…」

「………っと、大丈夫か?」

「………ありがとう」

哀の身体がよろけたと同時に落ちそうになったのを新一が支えれば、哀はふふ、と笑みを浮かべてお礼を言った。

「哀さん、大事ないですか? 工藤くんもすみませんでした」

「いや、落ちなくて良かったよ……」

「哀ちゃん、大丈夫?!」

白馬が礼を言ってる間に、哀を奪うように抱えた快斗は哀に頬擦りをしている。
それを見た白馬がまた声を荒げて、阿笠邸から出ていった。
哀はこちらをずっと見つめている新一に、小さく手を振れば、彼は何故か腕を大きく振ったので驚いたのだった。




END
2017/09/08


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