天使とお出かけ

名探偵コナン

「哀ちゃーん」

「青子さん」

駅前にある噴水の下に腰かけていれば、待ち人が両手をあげて手を振ってきたから、哀はふふ、と笑みを浮かべると小さく手を振り返した。

「ごめんねぇ、待たせちゃったねー」

「大丈夫です」

「はぁ、哀ちゃんは本当に可愛いね。白馬くんが羨ましい!こーんな可愛い妹がいるなんて!」

「青子さんも可愛いわ?」

上目遣いで見つめてくる哀に青子は手を振りながら、「も、もう!哀ちゃんったら!」と照れながらもありがとうと頭を撫でた。
青子は哀の手を取ると「じゃあ、行こっか!」と電車へと乗り込んだのだった。

「楽しみだね、水族館」

「はい……でもいいの? 私と一緒で」

戸惑いながら見上げてくる年下の女の子に青子はくすっと笑うと、ふわふわの頭を撫でた。

「いーんだよ。青子が哀ちゃんと出掛けたかったんだから!」

「快斗くんは?」

「あー、快斗は水族館は無理なんだよ」

「無理?」

「うん!アイツね〜、魚が嫌いなんだよ〜」

ププっと笑うのを止めようと口を手で押さえている青子を見て、快斗が魚が嫌いなのを初めて知った。

「へぇ…」

哀が面白げに笑うと青子も「どうせなら、アイツには魚のストラップでも買ってあげよ」と普段バカにされてるお返しとばかりに提案する青子に、哀はふふふ、と笑うのだった。
その光景を遠くから双眼鏡で見ていた快斗は顔をしかめていた。

「くそ、青子のヤロー…」

白馬がイギリスに行くというのを聞き、暫く邪魔な奴がいない!哀ちゃんと気兼ねなく会える!と思っていたのに、まさか水族館に行くとかありえない。
あんな魚しかいない場所に足を踏み入れるなんて…想像しただけで身体を震わせた。
しかし、リニューアルした東都水族館は敷地内に遊園地など娯楽施設があった。

「俺も行く!」

そう立候補したものの「お兄ちゃんから青子さんと行きなさいって提案されたの」と返されてしまった上に、哀が行きたいのは水族館の方であると言われては快斗もどうしようもない。
水族館に行きたい哀を遊園地の方に連れて行くというのは、哀を思ってはさすがに出来なかった。
仕方なしに水族館を見回った後にでも合流して、遊園地で遊べば良いと考えていたのだった。

「………しかし、」

快斗は双眼鏡を覗きながら「今日も哀ちゃんは可愛いなぁ」と呟いていたのだった。



青子と哀は水族館へ入り、大きな水槽で泳ぐ海の生物を見ては、あの魚が可愛いだの、格好いい、顔が怖いなど話していた。
ペンギンがいるコーナーへ哀は思わず走ると、青子も一緒になって走り寄り、水に飛び込むペンギンを見ては可愛いとはしゃいでいた。

「哀ちゃん、喉渇かない?」

「え、あ、はい」

「じゃあ、青子が買ってくるよ、ジュースでいい?」

「あ、はい」

動かないでねー、と走っていく青子がぶつからないかと心配しながら見送り、哀は移動した水槽を見つめた。通路順を辿り、先程みたペンギンが水槽に飛び込んだ水底が見える場所へと来ていた。
ガヤガヤと騒がしいのは団体が来たようだった。
哀は見たので避けようとしたが、人とぶつかってしまい、倒れこんだ。

「大丈夫?」

ぐいっと痛いくらいの強い力で腕を引っ張られ、哀は驚いた。
助けてくれたのだろうが、引かれたせいか肩が痛くなる。

「どないしたん、蘭ちゃん」

「小さな女の子が倒れてたから起こしてあげたの」

「そうなん? 大丈夫? お嬢ちゃん」

ポニーテールをしている女の子と、長い髪の女の子に言われて哀は顔を上げた。一瞬戸惑ったのは、腕を掴んでいるのが青子に似ていたからだ。

「……大丈夫。でも……腕、離してくれない? 痛いわ」

「え、あ、ご、ごめんね。力いっぱい引っ張ったから……」

掴まれた所を擦りながら「……こちらこそごめんなさい。ありがとうございます」と一応助けてくれたお礼を述べれば「哀ちゃん!」と声が響いた。
聞き覚えのある声だが、ここが水族館である限りいるはずはない兄の友人を思い出したが、声を出した相手は兄の友人ではなかった。

「………あなた、確か……」

つい先日会った気がするが兄と快斗が騒がしかったせいか、よく覚えていない。
だけど、手を大きく振っていた、黒羽快斗に似た人である。
哀は小首を傾げながら、彼らを見上げたのだった。



大阪から遊びに来た服部と和葉を蘭がリニューアルされたばかりの東都水族館に一緒に遊びに行こうと提案されたのは朝早くだった。
遊びに来るなら前もって言えよ…と服部に文句を言えば、驚かしたろと思ったんや!と朝から元気に応えてきた。
蘭に文句を言われながら、バスに乗ってやって来た東都水族館は欠伸をしながら大海原からこんな狭い水槽に連れて来られて気の毒だな、なんて泳ぐ魚を思いながら、はしゃぐ蘭と和葉を視界に服部とその後ろを歩いた。
そんな中、蘭たちが何かを話しているようで、そこには先日見たあの天使が立っていたのだった。
「哀ちゃん!」と思わず声を上げれば、可愛い天使はこちらを見上げている。知的そうな翡翠の眸がやたらと色気があって驚いてしまう。

「あれ? 哀?」

「……服部くん…?」

天使の哀ちゃんは俺を見ていたはずにも関わらず、視線を隣にいる服部に眸を向けて、驚いている。
次の瞬間、天使な彼女は服部に抱えられていた。
ちょっ、待て!ズリィ!!

「久しぶりやのう 元気だったか?」

色黒の無骨な手が哀の頭をぐりぐりと撫でている。

「ちょっと、やめてよ!」

「どうしたんや? アイツは一緒にいなんか?」

「お兄ちゃんならイギリスに行ってるわ、今日は「哀ちゃーん!ジュース買って………ん?あなたたち、誰?」」

両手にジュースを持ってきた、どこか蘭に似ている人物が寄ってきて、服部をみたのだった。

「え、蘭ちゃんに似てる…」

「「え?」」

和葉が言った事に、蘭とその子は顔を見合わせてどこか驚いていたが、そんなことよりも、と新一はまだ哀を抱っこしている服部に近づいた。

「服部!オメェ!」

「なんや、どないした 工藤?」

「そ、その子と知り合いなのか?」

「ああ、ちょっとした事件での」

抱きかかえられた状態で二人が話始めていると、ぐいっ、と身体が引き寄せられた。
──え?と思った時には、哀はここにはいないはずの人物に抱きあげられていた。

「お前っ、黒羽快斗!?」

「哀ちゃんは返してもらうぜ?」

「なんや、は? 工藤が二人……?」

「え? な、え? 新一……?!」

「ちょっ、工藤くんて双子なん?」

驚く三人に対し、新一は快斗を睨み、青子も快斗がいることに驚いた。

「快斗?! ちょっと、なんでここにいるのよ?!」

「青子〜 哀ちゃんと一緒ならちゃんと見張っておけよ、こーんな奴らに囲まれて可哀想じゃん」

いきなり現れて、とんだ言い草に蘭と和葉は絶句しているが、青子、新一、服部は文句を口にした。

「なんよ!? 大体、水族館は絶対行かないって言ってた快斗がなんでここにいるのよ! 哀ちゃんを離しなさい!」

「そ、そうだ!哀ちゃんから離れろ!」

「なんや、お前!哀を離さんかい!」

ぎゃあぎゃあと騒がしいことに周りの人もなんだなんだと遠巻きに視線を向ける。
パンっ!と哀は手を叩くと、一斉にそこは静まり返る。

「公共の場所で騒ぐなんて他の人に迷惑だわ。場所を変えましょう。快斗くん、降ろして」

一番小さな女の子がその場を仕切る事に周りも驚くが、「煩くしてごめんなさい」と謝る姿に親の教育が行き届いている子なんだと周りの人は感心したのだった。
哀は青子の手を繋ぐと、快斗を引っ張り水族館から出たのだが、何故か工藤新一たちもくっついてくる。
青子と哀は全部見終わったから良いものの、彼らまでついて来るとは思わなかった。

「………あの、どうして付いてくるの?」

「青子も思った…」

振り返って訊けば、新一と服部は哀が気になったからで、蘭と和葉は二人につられて来たようだった。

「……えっと…」

「あなた、工藤新一、さんだったかしら?」

「っ、覚えててくれたのか?!」

確かそんな名前だったな、と口にすれば、相手は満面の笑みを浮かべてこちらを見つめてきた。

「…え、えぇ……。前に阿笠博士、だったかしら…そこで会ったわよね」

「うん、うん!」

「俺も一緒にな」

若干引き気味な哀を気にすることもなく、新一が哀と距離を詰めようとしたが、横から快斗が入り込んできて、新一はムッとした。
「あっ」と蘭が何か思い出したように声を上げるが、和葉以外誰も気には止めなかった。
青子が服部を見て、「哀ちゃん、彼は知り合いなの?」と問いかければ哀は頷いた。

「お兄ちゃんの所に行く前は神戸にいたの。ママの知り合いが服部くんのお母さんだった関係で」

それを正確に察したのは服部以外では青子と快斗のみであったが、そっかと青子は哀の手を握ったのだった。

そこから何故か7人で行動し、哀の取り合いが始まったが「私は今日は青子さんとデートだから邪魔しないで!」と言われ、快斗と新一は凹んだのは仕方ないことだった。


帰り際、哀は久しぶりに会った服部と会話をしていた。

「しかし、哀が工藤と知り合いだとはなー」

「快斗くんに連れていかれたお宅であっただけよ?」

「へー、まぁ元気そうで良かったわ」

ぐりぐりとと頭を撫でると「やめて」と顰めるが本気で嫌がってる訳ではないと思うと服部は口の端をあげたのだった。

「哀ちゃん!」

「……工藤さん?」

「こ、今度、また博士の家においでよ。博士も会いたがってたよ」

「……博士が…?」

「う、うん……」

「そうね、少し興味深いのもあったからそのうちお邪魔させてもらうって伝えてちょうだい」

「そ、そん時は俺に連絡くれたら迎えに行くから!」

いきなり両手を包んでくる新一にびっくりしたが、哀は(変な人)と笑みを溢したのだった。


青子と快斗の手を繋いで帰る姿を見ながら、新一は「………可愛い…」と呟いた後、服部に哀について色々聞き出すのを蘭は複雑な顔で見ていたのだった。

「哀ちゃんについて、どんなことでもいいから教えろ!」

「なんやねん!工藤?!」




END
2017/09/26


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