まずは初めましてから
初めて見た瞬間、時間が止まったんじゃないかと思った。
そんなベタな展開から気持ちが始まるなんて思ってもいなかったし、事実、自分が好きなのは幼なじみだとずっと思っていた。
だけど、抗う術を知らないのか、意味もなく彼女がよく利用しているカフェへと足を向ける。
いつもなら入らない珈琲専門店のウッドスペースの席に彼女はいた。
サラリと風で揺れる髪は肩にも届かないが、彼女の髪の美しさを際立たせるかのように、揺れた。
赤みかかった茶髪はそこらへんの女子大生が染めている髪よりもずっと美しいし、風によって晒された肌は陶器のような白さときめ細かさが見れる。長い睫毛に縁取られた眸は日本人にはない色彩を、まるで翡翠のようで、見るものを魅了してしまうのではないか等とチラチラと、だけども気配を消して彼女を見つめてしまう。
(…………あぁ、なんてキレイなんだろぅ…)
口にしないようにため息で溢していると、彼女の席に男が座った。
(え? なに、アイツ?)
まさか──彼氏?
何故か、彼氏がいるという可能性を全く考えていなかっただけに驚愕してしまったが──
「なぁ、ミヤノさん。今度 デートしない?」
「……………」
「相変わらず つれないなぁ。でもそんなところも素敵だよね」
「……………」
「いつ、時間空いてる?」
「……………」
男が一方的に言い寄っているようだが、彼女はどこ吹く風だ。手元の本を読んでいるようだ。
それでも気にしないのか、"ミヤノさん"は目の前の男を無視している。
周りの客もチラチラと見始めている。
「………さっきから五月蝿いわね。あなた、誰?」
「え?……やだなぁ、同じクラスだし、選択も一緒じゃん」
「そう? 全然見覚えがないわ……それに さっきも言ったけど五月蝿いわ。見て分からない? 本を読んでる最中に話し掛けられても迷惑でしかないわ」
「……な、」
キッパリと告げる彼女に対し、男は驚き、ぎりりと拳を握った。不味いんじゃと腰を上げれば、思いがけない人物が横を通っていった。
「志保さん」
「探くん」
お待たせしました、と告げた男に彼女にしつこくしていた男はぎょっとした。
「志保さんに何かご用ですか?」
「……え、いや、その…」
「何か?」
「な、なんでもねぇよ」
男はそそくさと立ち去っていくのを一瞥し、"ソイツ"は"ミヤノさん"に振り返った。
「お待たせしました。すみません」
「別に探くんが謝ることなんかないわ」
「いえ、志保さんを待たせてしまったせいであのような輩があなたに近づくのは許せないです」
「相変わらず、口が上手いのね」
「そんなことありませんよ」
"ソイツ"は手を上げると、ウェイトレスに珈琲を頼んでいた。あのイギリス被れの"アイツ"が珈琲?と思ってしまうのは、高校からの知り合いだからだ。
イギリス帰りの高校生探偵 という彼はメディアにはあまり顔を出さないがそこそこ有名人だった。
色々な意味で奴とは知り合いだが、まさか、彼女と知り合いだなんで思わなかった。
だけど、それをチャンスだと思い、声を掛けた。
「白馬じゃん」
「黒羽くん? 君がこんな所にいるなんて珍しいですね」
甘党と知っているからなのか、白馬は驚いていた。
別に珈琲が飲めない訳ではない。ブラックは苦手だけど。
「俺だって、たまに飲んだりするぜ?」
「そうなんですか。あぁ、志保さん 紹介します。高校からの友人の黒羽くんです」
ナイス!白馬!!と思いながら、"志保さん"を見ればさらりと髪を揺らしながらこちらを見た。
「宮野志保です」
「俺は黒羽快斗です。白馬と同じ東都大工学部一年です」
「あら、私も東都大なの。医学部二年よ。よろしくね」
スッと出された白い手は特に何か施されてなかったが、とても綺麗だった。まるで広告とかで見るような綺麗な手。
ああ、これでお知り合いになれた。これから親しくなっていける。例え、横にいるヤツが"コイビト"だとしても。
END
2019/04/10