チョコが欲しい訳はまだ無自覚

名探偵コナン

「っじゃましまーす」

上がり込んだ家は自宅ではないが、幼い頃から勝手知ったるという隣家である。今は幼なじみの家に居候しているが、多少自分を偽らなければならない為に、羽根を伸ばすかのように此処に足繁く来ている。

「博士ぇ〜、灰原ぁ〜 いねぇのか〜?」

見渡してみるが姿が見えない。
部屋に籠っているんだろうと思いながら、コナンはソファーへと腰を下ろす。
ふと、テーブルを見れば皿に乗せられたままのチョコレートがあった。灰原がいるのにチョコが置かれてるなんて珍しいと思いながら、珍しく腹が減っていたコナンは口に含んだ。

「…………うめ!」

思わず声を上げるくらいそのチョコレートは美味かった。甘過ぎず、かといって苦い訳ではない。
ただの生チョコなんだろう、余計なトッピングされてないのもコナンにとってはちょうど良かった。
これはブラックコーヒーに合うとばかりに、いつもは灰原に頼んで淹れてもらうコーヒーを自分で淹れようとキッチンへと向かった。
その間にもチョコを口に放り込み、味わっているとパタンと音がして、地下から階段を上がる音がした。
丁度良いとばかりに持っていたマグカップを片手にコナンは姿が見えた灰原に声を掛けた。

「灰原」

「あら、来ていたの? 工藤くん」

「おぅ!早速でわりぃんだけどコーヒー淹れてくんねぇ?」

「あなたね、ここは喫茶店じゃないのよ」

呆れながらもキッチンへやってくる彼女にマグカップを渡せば、ため息を吐きながらも淹れてくれるのを知っている。
コナンはソファーに戻ると再びチョコを口に放り込んだ。
こんな美味いチョコはなかなか食べられない。一体 どこの店のだ?と灰原に聞こうと振り向いた時だった。

「………工藤くん、あなた何食べてるの…」

「んー? これ、うめーのな!どこのチョコだよ」

「……な、なんで勝手に食べてるのよ!」

「へ? あ、なんかテーブルにあったから、博士のおやつかと思って……ま、まずかったか?」

呆然というか、ショックを受けているというか、戸惑い気味の灰原にコナンは今更ながら慌ててしまう。

「…………………」

「は、灰原、さん……?」

これはやってしまった!とコナンは焦った。そして目を泳がせた時に視界に入るカレンダーを見て、ハッとした。
今日は二月十三日………。つまり、これは……。
バレンタインのチョコの可能性に辿り着いた。

「………せっかく、博士の為に作ったのに……」

「! わ、わりぃ!!美味くてつい!あ、あの……」

「………はぁ…そのまま置いていた私も迂闊だったわ……まさか食べられるなんて思ってなかったから…」

作り直しだわ、と呟く灰原にコナンは謝るしかなかった。
食べてしまったのは仕方ないわよ!と言いながら残り僅かになったチョコを取り上げると、灰原はキッチンへと向かったのをコナンは追いかけた。

「は、灰原!」

「なによ、」

「あの……チョコって、博士だけに渡すのか…?」

もっと食べたいと思ったせいか、コナンは灰原に訊いていた。
彼女は首傾げながら、指折り数えながら答えた。

「博士だけじゃないわ、歩美ちゃんや円谷くん、小嶋くんにあげる予定よ」

「お、俺は?! 俺の分 ねぇのかよ?!」

「………あなたは探偵事務所の彼女から貰うでしょ」

「そ、そりゃ蘭からも貰うだろうけど! 元太や光彦に渡すなら俺にも寄越せよ!」

「勝手に食べといて 何言ってるのよ!」

「う……で、でも美味かったから……」

「……それはありがとう。でもあなたの分の材料はないわ」

「なんで!」

「なんで、ってあなたが食べなければ渡せたけど……あぁ、もう面倒ね。じゃあ、あなたが今食べたのがバレンタインのチョコ。それでいいでしょ」

「良くねえよ!バレンタインは明日だろ!」

「別にいいじゃない、1日早く貰ったと思えば!」

「……なんで、バレンタインなんだからバレンタインにくれるべきだろ」


何を言っているのだと哀は頭が痛くなる気がした。明日は愛しの彼女からチョコを貰えるのだから、別に自分から貰えなくてもなんの問題はないではないか。
それでも心のどこかで、明日渡したかったという思いはあったにしろ、自分らしくないと哀は嗤うしかない。

「私からのチョコなんて別にいいじゃない」

「俺はオメーのチョコが欲しい」

真っ直ぐに見つめてくる深い蒼の眸にどきり、としてしまう。何故、そんなにも誤解してしまうような事を言うのだろうか。

「…………明日じゃなくていいなから、また作るわよ」

「明日がいい」

「だから、材料が「今から買いに行けばいいだろ、俺も一緒に行くからよ」」

ほんの少し頬を赤くするコナンに哀の頬も少しだけ赤くなる。

「わ、わかったわよ」

了承すれば、どことなく嬉しそうな顔をするコナンに哀はクスッと小さく笑ったのだった。





バレンタイン当日。
朝、学校へ行く前に博士に渡せば、甘い物を控えさせていたせいか涙を流さんばかりに喜ぶ姿に哀は苦笑した。

「いってきます」

そう言って玄関を出ると門の所にコナンが立っていて驚いたと同時に、「ん!」と差し出される手に首を傾げた。

「なによ、この手」

「チョコ 貰いに来た」

「……こんな朝から、バカじゃないの」

「る、るせー!いいから早く寄越せよ」

「………偉そうに何言ってるのよ」

呆れながら話せば、コナンは口を尖らせながらも「オメーのチョコ食いたいんだよ」と呟いた。
あまりにもストレートな言葉に哀の身体が熱くなりそうになる。
これだから、無自覚の人たらしは!と殴りたくなる。だが、いつまでもギャーギャーやってる場合ではない。
哀は持っていたバッグの中からラッピングが施されたチョコを取り出した。

「……じゃあ、はい」

「……サンキュ…………あぁ?!」

「は?」

コナンへと手渡ししたと思った瞬間、チョコは手元から消えた。
互いに驚き、横を見れば、何故か鳩がラッピングされたチョコを咥えている。

「………はと?」

「……鳩? な、なんた?! おい、それ返っ…」

返せ!と言うよりも早く鳩は飛び立ってしまったのだが、コナンは「灰原のチョコ!」と声をあげ、何故かベルトからサッカーボールを出して、キック力増強シューズを弄った。
まさか、鳩にぶつける気か?と止めようとしたのも束の間

「返しやがれぇぇぇぇぇ!」

大声を上げて、ボールを蹴りあげたのだった。
鳩は驚いたのか、咥えていたチョコをボトリと落とすと飛び去ってしまった。
コナンは慌てて落ちたチョコを拾うと、中身を確認した。
そして、改めて哀を見ると「サンキューな!」と笑顔を見せてきた。
あまりの出来事に哀は呆れてしまうも、あんなに必死になってチョコを取り返したコナンに嬉しくなってしまう。

「サッカーボール出してまで、私のチョコが欲しかった訳?」

からかうように話せば、「はぁ?!」と声をあげたのち、そっぽ向いて「………欲しかったよ」と呟いていた。
哀はぱちくりと眸を瞬かせると「お返しは3倍よね、楽しみにしているわ」と笑ったのだった。




END
2018/02/14


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