思わせぶりは君の特技

名探偵コナン

「ほれ、哀くん、」

今日はホワイトデー。
蘭が用意してくれた、バレンタインのお返しは歩美ちゃんへのだけで彼女には学校で渡した。
元太や光彦もクッキーやらキャンディをあげていたし、灰原にも渡していた。

「コナンくんは、灰原さんにお返しはしないんですか?」

光彦からの問いに、無理やりチョコを貰ったが何をあげたらいいのか分からずにいたし、貰ったチョコは早々に食べてしまい、歩美ちゃんだけからしか貰ってないと蘭が勘違いしたらしく、哀の分は用意してなかった。

「……あ、えっと…」

「私、江戸川くんには渡してないから別にいいのよ」

「そ、そうだったんですか?」

「えぇ」

こちらを見ながら「余計な事は言わなくて良い」とばかりにしているから、コナンは"自分が欲しがった"事を言うのは止めにしておいた。
そして、学校から帰宅してから博士の家を訪れたのは追跡眼鏡の調子が悪いとしてた。
勝手知ったる博士の家、とばかりにズカズカと入り込めば、博士が哀に何かを渡している。いや、包装の類いを見ればお返しなのだろう。
それは彼女が好きなブランドで、博士の初恋の相手のブランドでもある。

「…博士、こんな高いのに…」

「いいんじゃよ、甘さ控えめでわざわざ作ってくれたんじゃからのぅ」

袋から取り出されたのは、フサエのポーチだったようで小学1年にしては大人っぽい感じがするが、彼女が持つとそうではないのは中身が二十歳前の女性だからだろうか。

「博士にしてはなかなかのお返しじゃねーか」

「ふふ、そうね」

傍らの哀が珍しくご機嫌なのを見て、コナンは頬を掻いた。博士は追跡眼鏡を修理する為に、作業部屋に行ってしまい、リビングではコナンと灰原の二人きりである。

「…………な、なぁ…」

「なに?」

「……あ、あの…」

「? だから、なに?」

じっと見つめてくる翡翠色の眸にぐっとなりながら、コナンは口を開いた。

「………お、俺も、お返しに何か、欲しいのあっか?」

思いがけない言葉に哀は眼を丸くさせた。
学校で自分にはお返しがなかった時から、べつにいらないと思っていたし、彼もその気はなかったのだろうと思っていたから驚いてしまった。
哀は肩を竦めて「別にいらないわよ」と答えた。
その答えにコナンは少し、いや、ショックを受けた。
博士はともかく、元太や光彦のお返しでさえ、あまり顔に出さなくても嬉しそうにしていたのになんで俺からのはいらないなんていうのだろうか。
いつもなら引き下がるもコナンはなんとなくで、口にしたのは馬鹿馬鹿しいことで。本人も冗談のつもりだった。

「じゃあさ、"俺"をプレゼントしてやるよ!」

どうだ、と言わんばかりに言えば、哀は片眉を上げて怪訝そうな顔をしている。

「………何 言ってるの?」

バカなの?という視線に、コナンは慌てて「ほ、ほら、力仕事とか、なんか手伝うとか…」と口にする。

「な、なんか、して欲しいことねぇのかよ!」

どこか必死さを感じ、哀は可笑しくて仕方なかった。面白いから冗談を口にしてみたくなった。

「……そうね、じゃあ…」

「じゃあ?」

「頬にキスでもしてもらおうかしら」

笑いながら口にすれば、コナンは固まってしまっていて、哀は「……なーんて……」ね、と言おうとした時には頬に何か触れたのだった。
見れば、顔を真っ赤にしたコナンが哀を見つめている。

「お、オメー……冗談……え、」

「………な、なに…」

冗談を本気にしたのかと思い、からかおうしただけなのだが、空気が変わった。
コナンも自身が分からなくなったのは言うまでもない。なんで冗談に乗ってキスをしたのか、いや、それよりも恥ずかしそうに頬を赤く染める彼女がやたら可愛くて、愛しくて堪らなくなった。
きっと自分も顔が赤いのも分かる、だって、こんなにも熱い。
そして──彼女にまた触れたくなるのは本能だった。頬に手を添えれば、肌が熱いのが分かる。

「……く、くど………んんっ!」

なにかを言おうとする哀の口を塞ぐように唇を重ねた。初めて触れる唇は想像よりも柔らかく、甘く、熱くて、気持ちが良い。
抵抗してくる彼女の背中に腕を回して、ギュッと力を込めれば、力が抜けてくるのが分かる。
背中には回らないが服を掴まれたのが分かり、なんだか嬉しくて、唇を重ねた。
本能とはすごいもので、やり方なんて知らなくとも身体は勝手に動いてくれる。合わせていた唇は次第に深くなり、角度を変えては、舌を絡ませていた。
ぷは、と彼女が息を求めて離れてもまた直ぐに唇を塞いだ。

「………ちょ、ま、……」

「……まだ…」

だって、気持ちがいいんだ。ぴったりと隙間なく重なっていたいんだ。
こんなにも頬を赤くして、涙目になっている哀が可愛すぎて離せなくなる。

「……ちょ、いい加減に…」

「まだ 足りない──」

抗議してくる彼女の腕を掴み、その赤い唇をまた貪った。


このまま、時が止まれば良いと、思うくらいに。




END
2018/03/14


-5-

名探偵コナン / top