かくれんぼ
まさか、高学年になってまでも かくれんぼ をするなんて思わなかったが、まだまだ楽しい小学生なのだから、仕方ないのかもしれない。
一体、誰の発案だったのだろうか。
放課後、教室で話をしていたのだが、気づけば顔馴染みばかりになっていた。全員が小学1年生の時に同じクラスだったねと歩美ちゃんあたりが言って、思い出話に華が咲いたのだ。
コナンと灰原にとっては苦い思い出がある小学低学年の記憶だが、この姿で生きていくとなってから4年が経過した。
探偵団以外にはマリアちゃんと琢馬が参加している。鬼は元太だ。
校舎を使ってのかくれんぼ。探すのも大変だが、以前も廃ビルでしたこともあった。ちょっと事件に巻き込まれたが今回は校内であるから問題はない。
あるとすれば教師に叱られるくらいだろう。
さて、とコナンは百を数える元太の声を遠くに聞きながら空き教室へと入り込む。だが、教室といっても使われていないせいか物が沢山置かれている。
それでも身を隠す場所はない。せいぜい教卓の下か、カーテンの中、掃除用具入れくらいか……棚はスチール棚のせいか見通しがいいし。
昔、"新一"が小学生だった頃、幼なじみがかくれんぼの達人だった──少々行き過ぎた隠れ方だったが。
(普通、小学生が天井に張り付いたり、池の中に隠れたりはしねーよな)
忍者かよ、と呆れたりしたものだ。一度体育館のステージ下にある収納スペースに入り、出れなくなったこともあったっけな。なんて物思いに更けていると「ひゃーく!探すぞーー!!」と元気な声が聞こえてきた。
「やべ!」
コナンは慌てて、教室を見渡す。
今、出て行けば見つかるのは確実だ。教卓か、カーテンか、と悩みながら窓際へと向かう。
ガラッとどこかの教室の扉を開けていく音が聞こえ、ローラー作戦かよ!と思わずにはいられない。
近づいてくる物音にカーテンにと思えば、にゅっと手が伸びて引き寄せられた。
「ここかぁっ?!」
勢いよく開いた教室の扉だが、誰もいないせいか少しだけ元太の声が響く。
「誰かいねーかぁ?」と声を掛けながら、教室へ入ったらしくガタガタと積み重ねられた机にぶつかりながら探している。教卓の下も見たようだが、「ちぇ、ここにもいねーのかよ」とぼやいていた。
ガラッと扉が閉まり、廊下から「あっち行ってみるか」とバタバタ走り去る音が遠のいていった。
それを耳にしながらも、意識は元太ではなく目の前にいる灰原に向けられていた。
そう、元太が近づいてきた際に慌ててカーテンにくるまおうとした時、腕を掴んで掃除用具入れに引き込んだのは灰原だった。
「……どうやら、行ったみたいね」
「……あ、ああ……」
息を詰めていたせいか、ほぅとため息を洩らす彼女の息がコナンの耳元を掠めた。
この時期、女の子の方が成長が早く迎える為、悔しいかなコナンより灰原の方が背が高かった。灰原はハーフで外国の血が混じっているだけに他の女子児童よりも発育は良い。しかし意識していないのか、気づいていないのか、コナンに密着している身体は柔らかい。ドキドキするなという方が難しい。
「江戸川くん?」
「な、なんだよ…」
「小嶋くん、行ったわよ?」
「…あぁ……」
暗に早く出たら?と言っているだろう彼女の言葉に頷くもこの柔らかと温かさから離れられないのが現状である。
コナンは聞こえる鼓動は自分なのか、はたまた目の前の彼女のなのか判別出来ずにいる。
しかし、目の前の彼女はやたらと冷静で、ならば自分の鼓動なんだろうと思うとますます早くなり、手も汗ばんできた。ならば早く離れてしまえばいいんだが、身体が、気持ちが離れがたいのだ。
掴んでいた腕に少し力を込めると「なに?」と彼女がこちらを見た。
「また戻ってくっかもしんねーだろ…」
コナンが顔をあげると、パチリと眼が合うが暗くて分かりづらい。それでもそこにあるのはいつも見ている翡翠色の眸だろう。
それが驚いたように揺らぐのが見え、体温が上がるのを感じる。
ダメだ、そうじゃない、やめろと思っても身体が動いた。
───ちゅ、
小さくリップ音が鳴り、互いに見つめ合ったのも束の間、コナンは灰原の腕を掴み、首に腕を回すとまた唇を重ねた。
触れるだけのものから、次第に角度を変えて深く隙間がないように口づけしていく。
ふわふわと手触りの良い柔らかい髪に触れながら後頭部に手を添えた。
途中途中で、息を吸う為に唇が離れるも直ぐ様離さないとばかりに、唇が重ね合う。
「……ふ、は…」
「……んん…」
吐息が頭の芯を溶かしていくように、唇を重ね、舌を絡ませていった。
もっと、もっと灰原を堪能したいとばかりに身体を密着しながら唇を合わせていく。
不意に彼女の手がコナンの胸を押した。
「………まっ……て…」
吐息混じりで小さく呟く彼女が堪らなかった。
コナンは待てずに顔を近づけていくが「のぼせちゃう……」という言葉に「のぼせてしまえ」と口にして、また唇を重ねた。
どれくらい時間が経ったのか分からない。
狭い、身動きが取れない空間で支えあうことが出来るのは互いだけなのに、限界がきたのか灰原が力が抜けたように崩れそうになる。
それを支えようとしたが、勢いが余ったせいでガタッと彼女を用具入れの奥に押し付けてしまった。
──やべ!
そう思った時に、廊下から「ん?どっちかいんのか?!」と声が上がる。
どうやら他のみんなが見つかったのか、どっちか=二人見つかっていないようで。二人は今 目の前にいる互いのことだろう。
しかし、今 見つかる訳にはいかない。だってこんな状態で出れないし、なによりこんな彼女を晒すのはコナンには出来なかった。
「おーい、コナーン、はいばらー。いい加減 出て来いよー!」
大声で呼ぶ元太にさてどうするかと灰原を見ると、ジト目でこちらを見てくる。それでも潤んだ眸にどきりとするが。
顔を合わせるのがなんとなく気恥ずかしくて、少しだけ背伸びをして、彼女の耳元で呟いた。
「………俺が先に出るから、オメーは────」
「おーい、元太」
名前を呼べば振り向く大柄の友人に手を振った。
「コナン!お前、どこに隠れてたんだよ」
「あっちの図工室だよ」
「はー? 俺、探したぜ?」
「オメーが見つけられなかっただけだろ。俺が最後か?」
廊下の奥にある図工室を指さしながら答えて、コナンは元太に訊ねた。
「いや、まだ灰原が見つかんねーんだよ。まさか、アイツ帰ったりしてねーだろーな」
「……あぁ、アイツならありえそうだな」
「ったくよー」
ぶつくさ文句を言う元太にコナンは肩を竦めた。
後 十分もすれば下校時間だ。それまでに彼女は出てくるだろう。
チラリとコナンは先ほどいた空き教室を見る。指で唇に触れれば、あの柔らかく熱く吸い付きたくなる感触が一気に甦る。
「コナン、どーしたんだよ、顔 真っ赤にして」
「……………ちょっと、暑いだけだよ」
「そんな暑くねーぞ?」
「……気にすんな」
先を行く元太の後をゆっくり歩きながら、「熱冷ます必要があんのは俺じゃねーか」と呟いたのだった。
END
2018/04/07