春風に誘われて

Treasure

心地よい春の日差し。
誰もが“春眠暁を覚えず”な状態になりそうな陽気の日である。
そんな日に初等部はお花見に来ていた。
もちろん、学園敷地内だが。

「佐倉蜜柑、歌いま〜す!!」

元気な声が響いてきた。どうやらカラオケをしているようだ。ノリノリで歌う蜜柑。

「蜜柑ちゃん、歌上手だねぇでも、何で演歌なの…」

ナルはツッコミを入れた。すると、隣から蛍の声が。

「多分、おじいさんの影響…ズズッ」

納得。
歌い終えた蜜柑には盛大な拍手。

「どーもありがと次は誰が歌う?蛍は?」
「私はパス。」
「え、なんで」

蛍が歌うの聴きたいのに、とガッカリする蜜柑。

「クジ作って、前の奴がそれを引くってのはどうだ?勿論拒否権なし」

クラスの誰かが言った。その提案に皆は賛成した。
数分後、蜜柑は作り終わったクジを引き、名前を読み上げた。

「次の人は……棗」

蜜柑だけでなく、クラスの皆が棗に注目した。
棗の方は嫌そうな顔をしている。

「ほら、棗。何ボサッとしとるん!!はよ歌いや」

蜜柑はマイクを渡すが…

「やだね。歌ったことねぇし」

受け取り拒否。蜜柑は無理矢理渡すと言った。

「んじゃ、ウチが一緒に歌うからならええやろ?」

すると、棗は渋々了解した。
一方、クラスの連中は棗の歌を聴けるので盛り上がっていた。
なにせ棗が歌っている姿など、誰一人見たことがなかった。

「キャー!!棗く〜んvV佐倉さんなんかとじゃなくて、私と愛のデュエットをv」

パーマは頭がどこかにぶっ飛んでいるらしい。
そこにすかさず…

「「気持ちわりぃんだよ、パーマ」」
「んじゃ、いきましょー!!」

二人が歌いだすと、クラスの子たちは歓声をあげた。

「棗君、歌うま〜い!!」
「声キレ〜」
「二人とも息ピッタリ」

皆が言うように、二人の声はお互いを引き立ててる感じだった。
二人が歌い終えると、皆は感動していた



「なんだ、こいつら」

棗は、皆を見渡して言った。
すると、蜜柑が笑って言った。

「棗が歌上手だからやろ一緒に歌えて楽しかったわ♪」

「…俺も楽しかった。」

棗はボソッと言った。それを聞いた蜜柑は棗に飛び付いた。

「棗、楽しいって言ったうち初めて聞いたわ!!」

蜜柑は自分のことのように喜んだ。
すると、棗は蜜柑を抱き締めた。

「はいはい、二人の世界入るのはいいけど…みんな見てるから後にしたほうがいいよ」

ナルの言葉で二人は我に返った。
見渡してみると、泣いているパーマ、顔を赤くしている子達、白けている蛍と心読み君が注目していた。
気を取り直して、棗はクジを引いた。次は…

「…ナル。」

それを聞いた生徒達は顔面蒼白になった。

「え、僕?しょうがないなぁ、皆しっかり聴いててねvV」

ナルはノリノリだった。

((なんで衣裳持ってきてんだ、この人))

そして、歌いだすと…

「「「フェロモン撒き散らしながら歌うのやめろ〜!!!!!」」」

時、既に遅し…

「おい…ちょっと来い。」

棗はナルが歌いだす前に蜜柑に言った。
そして、蜜柑の腕を掴み、そのまま歩きだした。

「ちょっと、棗!?一体何処行くんや?」
「…」

棗は何も言わなかった。
暫くすると二人は小高い丘の上に着いた。
そして蜜柑は感嘆の声をあげた。



「わぁ〜♪キレイやなぁ」

丘から見下ろすと、辺り一面がピンクの海のようだった。あと、丘の上に一本だけ生えている桜はとても見事だった。

「やっぱり花は静かに見るに限るな…」

そう言うと棗は桜の木に寄り掛かり、座った。
蜜柑も棗の隣に座る。

「皆といるの、嫌なん?楽しくないの!?」

蜜柑は少し悲しくなった。

(折角、棗が楽しそうにしてたと思ったのに…)

そんな蜜柑を見てた棗は、目を閉じて、話し始めた。

「前は嫌だった。一人でいる方が楽だったし…流架がいたし。…でも、今はクラス連中といるのも悪くないと思ってる。そう思えるようになった…おまえのおかげだ。」

棗は隣の少女を見つめた。
彼の瞳はとても澄んでいて、蜜柑は吸い込まれてしまいそう、と思った。

「ウチのおかげ?ウチは何もしとらんよ…///きっと棗がホントの棗になったんや」

蜜柑が笑いかけると、棗は蜜柑を抱き締めた。
そして、耳元でそっと呟いた。

「…ありがとう。」

蜜柑はその声に春風に撫でられているような心地よさと、擽ったさを感じた。
その後、二人は静かに桜を眺めていた。
しかし、暫くすると蜜柑の頭が棗の肩に載った。

「ねむぃ…」
「あんだけ騒げばな。…しょうがねぇな」

蜜柑が微睡んでいると、いつの間にか棗の顔が上にあった。なんと、膝枕をしてくれている。

「え…棗///」

蜜柑は起き上がろうとした。
しかし棗はグイッと引き戻す。

「ねみぃんだろ?いいから寝ろ。」

蜜柑は好意に甘えることにした。

「じゃあ、お言葉に甘えて…」

間もなく寝息が聞こえてきた。

「寝付き、よすぎだろ[DX:E723]…おやすみ、蜜柑。」

棗は眠っている少女の髪を優しく撫でた。



【Fin】





琉架サマのあとがき

微妙に甘々です。棗が珍しく素直です(もはや棗ではない)
「この季節に花見話書くなよ」(←自主ツッコミ)
マキさんに差し上げます。返品しないでくださいね(泣)300HITおめでとうございますそして、ありがとうございます
2004.10.2


管理人から琉架サマへ

いえいえ、こんな素敵なお話、こちらこそありがとうございましたvV
300hit取れて嬉しかったです。
こんな「棗が蜜柑に膝枕」なんてリクを……
本当にありがとうございました!!


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