suddenly
※ナル蜜柑
彼女の娘がやって来た。
この監獄のような学園に。
出生を考えれば、おかしいことでも無い。
でも……夢を見ているようだった。
…追い求めた遠い過去は掴みかけた腕から擦り抜け、まるで嘲笑うかの様に俺を置いて一巡りしてきたらしい。
……今更?
それとも……今だから?
もう届かない場所にいる、大切な…
…大切な…
「な〜るみセンセッ!♪」
「Σうわっ!?ι」
フワリと温かな空気がまとわり付き、僕の体は思わず強張った。
その温もりは過去の傷そのもの。
楽しい思い出半分、悲しい思い出は半分以上……
「…ど、どうしたの?蜜柑ちゃんvV」
僕の焦りには全く気付くこともなく、少女は大きな瞳を輝かせた。
「んとな〜、ウチ、鳴海センセをビックリさせよ思って♪」
その輝きは、容赦無く『俺』を照らしつける。
「ねぇ、鳴海センセ!ウチを抱っこして?♪」
「………え?」
目の前の少女は、小さな体で、両手を大きく広げた。
脇を空けて、手を添える場所を作ったのだ。
「…ほぉら!たかいたかぁ〜い!vV」
「きゃあ〜〜vV」
高く抱き上げてクルクル回ると、風になびいた髪が光を巻き散らした。
回り終えると、少女は笑いながら僕にしがみついてきた。
それは温かくて……痛い感触。
「…どうしたの、蜜柑ちゃん?甘えん坊さんかな?vV」
「んー……ウチ、じいちゃんしかおらんから、あまり抱っこしてもらえんかったんや。腰がぁ〜〜;って言っとった!♪」
「あはははっ!vV」
喋りだけでなく眉に指を添えて祖父の真似をする仕草に、空白の期間は決して悲しいものでは無かったのだと、僕は安心した。
「…せやからな、きっとお父さんがいたら、たかいたかいしてくれたんやろうなぁ〜〜って……お父さんがいる友達が…ちょっと羨ましかったんや」
「……そっか」
……うん、そうだね。
君のお父さんは……凄く優しい人だった。
「ウチのお父さんとお母さんは空の上にいるって、じいちゃんが言ってたんや。せやから、いつもより空に近くて嬉しいっ!」
曇りの無い、満面の笑顔。
どんなにこの温もりを抱きたかっただろう。
どんなに成長を見届けたかっただろう。
『柚』と『蜜柑』
二人はこんな未来を望んだわけじゃない――!
僕は思い切り腕を伸ばした。
この温もりを空へ捧げる様に、高く、高く…
「ほぉら!蜜柑ちゃん、いくよぉ〜〜vV」
「きゃあ〜〜vVわぁい!鳴海センセ、だ〜いすき〜♪」
果てしなく続く青空。
どうか、この空のどこにいても、見つけられますように。
僕の分しか足せないけど、それでも…少しでも近くに行けるなら…
…いくらでもあげる…
「…僕も蜜柑ちゃんが大好きだよvV」
擦り抜けていった遠い過去。
掴めなかった夢に僕が代わりに触れることを……あの人は何と思うだろう?
「……今日はいい天気だね〜〜…蜜柑ちゃんvV」
……君は、幸せになる為に生まれてきたんだよ……?
END
あとがき
…一応、前書いた蜜柑ママの話(lost angel)の続編……なのかな?ι(自問自答)
蜜柑パパの扱いが微妙にひどい辺り、繋がるかもしれません;
ナル蜜柑が好きなので、凄く好きなやり取りである『たかいたかい』を書けただけで幸せでしたvV
大好きな姉上に、敷金代わりにお納めします(内輪ネタ/笑)
という訳で親愛なる妹から頂きました!
いやいや、蜜柑が高い高いをせがむのなんて最高だぁ!!
可愛さに姉さん震えましたよ(笑)
ありがとう、いい小説です♪
森川沙耶