クラブ☆ナル・リターンズ!

Treasure

北の森にこぢんまりと佇む小屋。
そこは最強の名を欲しいままにしている番人の住居だ。

……だが、もう一つの顔を持っていることは、以外に知られていない。

そこは乙女達に愛と夢の時間を提供する空間……







「ふぅー…。今日は僕一人かぁ〜…」


きらびやかな……と言えば聞こえはいいが、ハッキリ言えば『ド派手』と言える服装の男――鳴海は、溜息をつきながらフカフカのソファーに身を沈めた。
薄暗い室内には、その雰囲気を高めるような電飾と、マスターであるMr.ベアが振るシェイカーの音が響いていた。


ここは『クラブ☆奈坩(ナル)』。
アリス学園内でひっそりと営まれているホストクラブだ。


「奈落の『奈』に坩堝の『坩』って覚えてねvV」


bPホスト鳴海はカメラ目線のようにとびきりの笑顔を見せるが、この場にはぬいぐるみしかいない。
鳴海から発せられるフェロモンの行き場はどこにも無く、虚しさだけがそこにあった。


「…蜜柑ちゃん達が来てくれた時は楽しかったのになぁ〜…」


あの時偶然に訪れた客が、今のところ最初で最後の客だ。
手持ち無沙汰に嫌気がさし、鳴海は気怠そうに入口へと歩いた。

……と言っても、ここは『クラブ』といえど、元々は『小屋』だ。ほんの数歩でたどり着いてしまった。


マスターがいるカウンターのすぐ横、入口のそばには沢山の写真があった。
それは乙女達に夢を与える、選ばれし男達。拉致ってくるのに苦労したっけ…などと、鳴海は思いを馳せる。

一番大きいbPの写真に、落書きだらけのbQ殿内の写真。
『バカ』やら『アホ』やら『どスケベ』やら……鼻の穴に画鋲まで刺してある。…犯人達は大体予想がつく。


「うふふvV元気がいいなぁvV」


問題児達がやらかしたいたずらも『元気がいい』で済ます鳴海に、シェイカーを振るベアは溜息をついた。


……ふと、鳴海は周りを見渡した。
静かな狭い室内に一人……と、正確にはぬいぐみがもう一体。シャカシャカとシェイカーの音が断続的に響いている。


「…何て言うか…ちょっとアンニュイって感じかなぁ…」


話し相手がいなければ、することは考えることしか無い。
考えて、考えて……

……結局は、答えは出ないのだ。
そもそも答えが出ないから悩むのだから。

それでも時間に追われ、成り行きに任せて…




「……僕も年を取ったってことかな?」


鳴海は淋しげに、クスリと笑った。


(……僕には…他に道は無いんだよ?…先輩…)


……そして狭まる選択肢に、ヒトは追い詰められるのだ……




壁に寄り掛かっていた鳴海の足元に、いつの間にかベアが立っていた。フワフワの手で器用にカクテルグラスを持っている。
驚きで目を見開く鳴海に、ベアは早く取れと言わんばかりにグラスを上げてきた。


「僕にくれるの?…ありがとうvV」


フッと彼なりに微笑んだのだろう。ベアは眼を飛ばしてカウンターに戻って行った。


(…ベアだって…色んなことがあるんだよね…?)


ぬいぐるみにはぬいぐるみの、沢山の悩みがあるに違いない。
否、命を与えられた時点で、それは全て始まる。

たった一人の心を許した人と、共に過ごすことも許されない日々…


(……分かるよ。何となく…ね)


それでも、日々選ばなければいけないのだ。
一生懸命、その時その時に、一番だと思う道を選んで……


「…結局後悔ばかりだけど……後ろばかり向いてちゃダメなんだよね…」


鳴海は微笑みながら、どこからとも無くマジックを取り出した。
そして落書きだらけのbQの額に『肉』と書き足した。


「だって、転んじゃうしねっvV」


鳴海の言葉に同調するかのように、ベアの瞳がキラリと光った。

それに微笑み返した鳴海は、背伸びをしながら大きな欠伸をした。


「……さぁってとー、今日はもう店仕舞いかなぁ〜vV」


――Σバタンッ!!


突然その場に響いた扉の音に、鳴海は慌てて営業スマイルを向けた。


「はぁい、いらっしゃ〜いvVクラブ☆ナルにようこそ〜……?」


だが、そこにいたのは、よく見知った同僚の姿だった。


「あっれ〜?岬先生ったら遅刻だよ〜?vV」


鳴海は笑顔で駆け寄るが、岬の端正な顔は俯き気味な為に黒髪に隠れて見えなかった。
その時鳴海は気付いていなかった。岬の震える手にムチ豆が握られていたことを……

岬は顔を上げると同時に、ムチをしならせ鳴海を捕らえた。


「何やってるんだ、ナル!!教師(本職)はどうした!!?今すぐ教室に戻れーーっ!!!!」

「Σキィヤァァ〜〜、掠われるぅ〜〜!!!!;」

「煩いっ!!!!!」

「……!……!!…」


…騒ぎながら去る二人に、残されたベアは呆れた溜息をつき、電飾のスイッチを切った。
そして愛用の斧を取り、森の奥へと入って行った。



こうして今日も変わらぬ日常が始まる……





END




あとがき

まず最初に…
…ごめん、お姉様……やっちゃった…ι(^_^;
しかもbQをネタの為に勝手に作っちゃったし(あるまじきことですι)

シリアスなのかギャグなのか、もう訳分かんない内容になりましたι
それ以前にある程度年を重ねた人じゃないと笑えないネタが多々ありますι一応テーマは『オトナの哀愁』です(笑)

結局は、大好きなキャラを思う存分書きたかっただけですからっ!(開き直り)

一応あっきー四周年祝いってことで、ママさんに捧げますvV
よくぞここまで育て上げた!頑張った!感動した!って感じで☆(殴)

(返却並びに廃棄可デスι)


頂きました。
可愛い妹から。
いやぁ〜なんつーか…裏ではないが『大人向け』な話ですよね!
ナルがいい感じですよ!
まぁ、笑ったのが殿に対しての写真への悪戯
笑いまくりです!
ありがとうございました〜☆


頂いた日:2006/11/23


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