アイドルがライバル

孤児院で一緒になった同い年の女の子は来た時から凄く可愛くて。

寒い冬の日、先生に泣きながらついて歩く姿を隠れて見ていた俺は思ったのだ。



天使みたいだ。

きっと、空から落ちてしまって泣いているのだ、と。



仲良くなりたいと思った。







その冬の日から５年が経った。

俺達は街中でスカウトにあい、「ａｌｉｃｅ」というグループで芸能活動をして
いる。

メンバーは俺と蜜柑と流架と蛍だ。



活動内容はドラマや歌や色々だ。

「えっと、次はＭステなんやよね？」

「そうだよ〜。ａｍｉｇｏとＣａｔｏｒｃｅが一緒だよ。」

「将兄ちゃんと！？」

うわぁ、久しぶりに一緒やなぁ、と蜜柑は嬉しそうに笑った。



「ふん。」

「棗も久しぶりやよね？」

「別に会いたくもねえよ。」

棗はそう言った。

「え〜将兄ちゃんが孤児院出てから滅多に会えんのに？」



蜜柑は不思議そうに言った。



お前は「大好きな将兄ちゃん」かも知れないがこっちは「ライバル」なんだよ！

棗は心の中で叫んだ。





棗と蜜柑が孤児院で会ったばかりの頃。

蜜柑はその当時１３歳の将にとても懐いていた。

べったりとくっついて離れなかった。

可愛いな、友達になりたいな、と思ったのに俺は近づく事も出来なかったんだ。

幼さの過ちで、蛙をあげたりして泣かしたのが悪かったのか…。

喜ぶと思っての事なのだから我ながら泣ける。

その蜜柑の泣きつく先はいつも将だった。




その将を俺が好きなわけ無いだろうが！





「あ、蜜柑ちゃん。」

スタジオへ行くと、将がにっこりと笑いながら手を振ってきた。

将はａｍｉｇｏと言うグループ（と言っても笠井竹巳との二人でのコンビなのだ
が）で歌を歌っている。

将を見ると蜜柑は走り出し、将に飛びついた。

「将兄ちゃん、こんにちは〜。」

「こんにちは、蜜柑ちゃん。」

将は抱きついてきた蜜柑を受け止め、抱き上げた。


げしっ

俺は思いっきり将の脚を蹴った。

すると、将は多少ぐらついたが蜜柑を落とす事は無かった。



「棗くん、うちのボーカル蹴るの止めてくれる？」



いきなり俺は宙に浮いた。

「笠井！下ろせよ！」

amigoの笠井竹巳が俺の首根っこを掴んで猫のように持ち上げたのだ。

「笠井『さん』。この世界、縦社会だよ〜？注意しなきゃ。棗くん？」



にっこりと笑うが目が笑ってない。

「「「笠井さん、こんにちは〜。」」」

にっこりと他の三人が挨拶する。

お前ら、裏切りやがったな。

蜜柑もしっかりと将に抱き上げられながら挨拶する。



「一緒の番組だね、頑張ろうね。」

そう言って笠井は笑った。

「「「よろしくおねがいします！」」」



こいつ、俺の事嫌いだよなあ



俺が将に突っかかるからだろうけど。



「棗くんに蜜柑ちゃん、衣装に着替えて〜。」

マネージャーの鳴海が声を掛け、俺と蜜柑は控え室へ向かった。

蛍と流架はとっとと先に向かったようだ。

あいつら何だかんだと仲良いよな、でも声掛けて行けよ。



「じゃぁ、失礼します。」

そう言い、俺達は控え室へ向かった。

「そうだ、来クールからドラマが始まるよ。超能力学園モノのドラマでね〜。」

「蜜柑ちゃんと蛍ちゃんがWヒロインで、棗くんと流架くんがWヒーローで蜜柑ちゃんを３人で取り合う？みたいな。」

「なんやそれ？変わっとるな。」

「しばらく忙しくなるよ〜。」

鳴海は上機嫌だ。



「だから、明日は一日お休みだよ★」



「わぁ、久しぶりのお休みやなぁ。」

「あぁ。」



本当に嬉しそうに蜜柑は笑う。

それを見るとちょっと嬉しく思う。



「将兄ちゃんにも会えたし、明日はお休みやし良い事いっぱいやな〜♪」



やっぱり『将兄ちゃん』は健在かよ！



「あ、ウチ見たい映画あるんよ。」

「ふうん。」

一緒に行きたいが、どう言うか…。



「棗、付き合ってくれん？」





…。



「良いのか？」

一瞬望みの余り、幻聴かと思ったぞ。



「？うん。当然やろ？」

「―いいぜ。一緒に行っても。」

「良かった〜。蛍たちは嫌がったんよ。」

「ふうん。何見るんだ？」



「将兄ちゃんの出てる『ホイッスル！ー駆け抜ける風ー』見たいんよ〜。」



やっぱり将兄ちゃんかよ！

当分、俺のライバルはあのアイドルのようだ…。







その後、その超能力学園モノで出会う『安藤翼』にも蜜柑は懐き、俺がやきもきするのを、この時の俺はまだ知らない…。

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