01

Treasure

アナタはクリスマスの奇跡を信じますか?




白く降り積もる雪のように





何か心の奥でぽうっと浮かび上がるように





そんな、奇跡を_______






【 kiss&snow 】




中学生最後のクリスマス
変わったのは前より行事に関われるようになった事と




「蜜柑・・・アンタ何かあたしに隠してない?」
「・・・・っ」




昔の初等部組の関係である。





「あ___、そんなウチが蛍に隠し事なんて・・・」
「してるわよね」
「しっ/////してない!!//////」



必死に否定すると周りからの視線に冷汗が流れた
毎年恒例のクリスマスパーティー
服も変わって年齢相応のお洒落をして
けれど隣の親友は昔と変わらず踊る気がないのか
例によってあの仮面をつけている




「ふーん。・・・・・そう」
「そっ、そうやで!!」



まだ疑い深い視線を送ってくる蛍に
蜜柑は目線を合わせないようにそっぽを向く




伸びた髪をおろし、元から少し
ウェーブのかかっていた先端部をドライヤーを使って
大きくカールさせて普段とは違う
魅力をかもしだしていた





「蛍はホント誰とも踊らんの?」
「当たり前でしょ。変なジンクスの被害に
 あたってたまるか。っていうの」
「あはは、それもそうやな〜」
「そういうアンタは今年は仮面つけないの?」




不思議そうにそう聞く蛍に蜜柑は頷いた
確かに蜜柑はどこにも仮面を持ってなかったのだ



「ウチにはもう必要ないモンやし」
「誰かと付き合ってるの?」
「んな訳ないやんっ//////ただな、今誰とも
 付き合うつもりがないってだけや」
「へぇ。珍しいわね」
「色々と・・・・あってな」




その呟きを消すように扉が開いた瞬間
クリスマスソングと食べ物の香りが
2人を暖気とともに一気につつんだ。





「相変わらず外の寒さとは別世界ね」
「そうやな。雪ふるかもしれんらしいし」



呆れたように蛍は小声で
「この分のお金、あたしに回してくれないかしら」
などと不満を漏らした
まあ、蜜柑すら知らない裏事業をやっているというのに
これ以上儲かって何をするつもりなのだろうか





「ど・・・・独裁者・・・?」
「どういうprocessを経てその単語が出てきたのよ」



軽く突っ込むと突然入り口が騒がしくなった
なんだろうと振り返ると見覚えのある
女生徒が数十名と男子生徒に囲まれ
黒髪と金髪が中心に見えた




「プリンスの登場ね」




蛍がそう言い終わったか終わらないかのうちに
突然蜜柑に体を強い力でひかれ
近くの隙間と連れ込まれた




「何するのよ」
「ウチっ、今あの2人と猛烈に会いたくないねん!!」
「アンタまた何かやらかしたの?」
「してないっ!!!」
「じゃあ何で逃げるのよ」
「逃げたいからやっ」




ゴンッ




「ほ・・・蛍?何で殴るん・・・?」
「あたしアンタの本能に付き合って
 られるほど暇じゃないから」
「本能じゃあらへん!!
 これには深い事情が・・・・」





それは数日前にさかのぼる


あの日も肌を刺すような寒さで
時間が被ったという理由で久しぶりに
流架と一緒に帰っていた



『佐倉・・・・』
『ん?どないしたん?流架ぴょん』
『あのさ・・・・いつか言おうと思ってたんだけど』
『・・・・・・?』















『俺、佐倉が好きだよ』


















「___________っ///////」
「・・・・・4年目にしての開花ね」





真っ赤になって俯く蜜柑に
蛍はまるで何事もなかったかのように呟いた






「ほ・・・蛍サン?それはどのよーな意味で・・・?」
「そのままよ。まさか気づいてなかった
 訳じゃないでしょ?」
「・・・・・・・・・・何を」
「流架くんがアンタを好きだって事」







・・・・・。





・・・・・・・。








「狽ヲぇっ!?」
「気づいてなかったのね。なんだか可哀相だわ」






散々彼の恋路を邪魔したのが誰なのか
今この場で叫んでやりたいものだ





「それで?なんて答えたの?」
「いきなりで・・・・その・・・」
「って事は返事待ちにさせてるのね」
「それが・・・今日まで、って///////」






(ああ。なるほど)



蛍は1人で頷いた
(だから流架くんに会いたくなかったのね)




「けれど、なんで日向くんにも会いたくないのよ」
「そっ、それは//////」






蜜柑はいつのまにか周りに変な目で
見られていることに気が付き
場所を少し変えて声を一段と殺し話し出した








『クリスマスのパーティーまでに
 返事・・・・くれよ』
『___________っ/////
 流架ぴょん・・・っちょぉ待ちっ
 ちょっ、るかぴょん!!!!!
 ・・・・・・・行ってしもうた』




ヒュォォォォォォッ
(去ったあとの寂しさ)




『どないしよう・・・・』
『オイ』
『!!!棗っ、いつからソコにいたん?』
『今の・・・どうすんだよ』







「・・・・・・で?」
「『で』・・・って、それだけや」
「頭、ちょっと修正しましょうか」
「狽ネんでや!?」
「どうして見られただけでコソコソ隠れる必要があるの」
「そ/////それはぁっ//////」





『それは』と続けようとしたものの
言葉が出てこずついには黙ってしまう






「なんで・・・やろうか」
「・・・・・・・・・・まぁいいわ
 それで?返事はどうするの?」
「断る理由はあらへん」
「そうね。嫌いな訳じゃないんだし」
「ケドナ、なんか罪悪感があるんよ」
「・・・・・意味がわからないわ」





蛍は肩をすくめると、馬鹿らしいとでも
言うかのようにその場を離れ
料理のおいてあるテーブルに向かった
蛍ならわかってくれると思ったのに、と
心のソコでは落胆しながらも蜜柑も自分の
このわけのわからない感情に戸惑った






断る理由なんてない


      

      けれど罪悪感が自分をせめる




何に対しての?


          『ワカラナイ』












「______________っ」











コレハ、ナンダロウ













             ***










「あ、棗。やっと見つけた」











群がっている女子を押しのけて流架は
棗に近づいていった
普段は表情を変えない彼ですらこの自分の周りを囲う
軍団に困ったような顔を見せていた
・・・・まぁ、自分も同じような被害にあっていたのだけれど






「!!流架っ」
「あ、流架くん」





こちらに気がついたのか棗と取り巻きが
目を向けてきた
流架は少しスピードを早くして棗の隣に行く





「どこにいたんだ?」
「飲み物取ってこようとおもったら
 思わぬ被害にあって・・・・そういう棗も
 同じ事になってるみたいだけど」
「勝手に寄ってきただけだ。ぎゃぁぎゃぁ五月蝿ぇし」
「何もしないだけ偉いよ。それより佐「アイツなら見てねぇよ」」





"佐倉みなかった"と言い終わる前に
棗がまるで予想していたかのように答えた
一瞬二人の間にしん、とした沈黙が流れ
やっと流架が「そっか」と小さな声で漏らした





「・・・・どうせ今井なんかといるんだろ」
「・・・・・・・。」
「探しに行くのか?」
「そうしてみる。・・・・・棗は?」
「誰があんなの探しに行くか」
「わかった。じゃぁまた後でな」






軽く右手をあげ、去っていく後姿をみながら
棗は好い加減この周りの女子がウザくなってきたのか
隣にいたテレポートのアリスを持つ取り巻きに
小声で行き先を言いその場を離れた














アリスで来た場所は良くも悪くも思い出の場所だった
幹の上は床は不安定であったが下からは見えないし
葉によっていい木陰にもなる
年齢を考えてみれば下から上るのはあまり頂けないが
アリスならば絶好の位置だった







「相変わらずうるせぇな」





そんな文句をいいながらも
毎年この会場にいる自分に嫌悪感を覚える






どうしてしまったんだろう




さっき流架に冷たく当たった




あの流架の事だから気づかない筈ないだろう








「・・・・・畜生・・・」







あの馬鹿の事を聞いてきたとき無性に苛立った
それもなにも全部あの場面を目撃してしまったからだろうか







『俺、佐倉が好きだよ』





ヤメロ・・・ッ








『クリスマスのパーティーまでに
 返事・・・・くれよ』







ソレ以上ソイツニ近ヅクナ・・・・ッ!!!









醜い感情が脳裏を掠めたんだ
今までずっと一緒に居て気づかない筈がなかった
だからかもしれない
そんな流架がアイツに告ってんのをみて
信じられない気持ちと裏切られたような気持ちに
支配されてしまった







(あとで・・・・謝るか)







何に対してなのか自分でもよくわからなかった
けれど謝らなければいけない気がする
それで、付き合ったとしても祝ってやる
駄目なんて事は億分の一にもないだろうけど
もしそうだったらアイツを問いただしてやる







『いつまで、気づかないフリをしてるの?』







突然冷水をかけられたように体が震えた







『いつまで、アンタは気づかないフリをするのよ』



『何で気づかないフリなんてするのよ』







ソレデ、イイノ?







(なんで、こんな時に限って
 今井の言葉なんて思い出すんだよ)






コツンと頭を軽く叩いて溜息をついた
あの現場を見てから何かがおかしい
気が付くとアイツを見ていて、何を言われても
頭に入ってこない。これは・・・・・









「・・・・・・・・・・・重症や」





そうだ重症だ。



「アカン。何かもう訳がわからへん・・・」





あぁそうだ。訳がわからない







・・・・・・・・ん?






妙に自分の気持ちを代弁してくれる癖のある言葉に
ぎょっとして辺りを見回してみても誰も居ない
声の位置からいって下ではないのは確かだった
となれば・・・・・






「・・・・・・・・・みかん」






木の中心部の向こう側をのぞいてみると
同じように幹に座って足を抱いている蜜柑は
ビクッと体を揺らした





「麦・・・・っ、アンタいつからっ!?ってか、えぇっ!?」
「パニくるんじゃねぇよ。俺が先客だ」
「そっ、それは邪魔してごめんなっ!!っとぉ、ウ、ウチっ
 もう降りるからごゆっくりっ!!!」





そう言って降りようとする蜜柑に
放っとけばいいのにも関わらず手が伸びた
全く、本当に訳がわからない






「別に邪魔とは言ってないだろ」
「せ、せやけど・・・・・」
「それとも俺がいちゃ不味い事でもあんのか?」
「・・・・・・・っ」





そう聞くと蜜柑は無言になって
必死に首を横に振るまいとしている
わかってはいたんだ。
コイツがあの日から俺と関わらないようにしている事
それがまるで昔の本部の連中共みたいで
どんな時でも普通に接していてくれた彼女にそれをされて
少なからずショックを受けていたのも、全部






「・・・・・・・・悪かったな」
「・・・・・・・?」
「引き止めて。行けよ」
「・・・・・・・・・・・ぁ・・うん」










行くのか











降りようとする蜜柑の肩をがしっと掴み
引き戻すと元の位置に座らせる
すると阿呆なコイツは眉を不快そうにひそめた






「棗、自分が今どれだけ矛盾しとるか
 わかっとる?」
「あぁ重々承知だ。・・・・返事はどうすんだよ」






何か言葉をつなげようとして出てきたのは
最も聞いてはいけない質問だった
瞬間蜜柑は目を見開きじっとこっちを見つめてくる



「返事・・・・・って?」
「惚けるな。流架の事だ。」
「・・・・・・・っそれは・・・・」
「それは?」



答えを促しているのに耳を塞ぎたくなる
聞きたくないのに言葉を求めている
どうか・・・・断ってくるようにと願う自分がいる





「棗・・・・・は?」
「は?」
「棗は、どうしてほしい?」





何を・・・・言ってるんだコイツは
ついに頭が沸いたのか?
呆れた目で見ると蜜柑はプイっと顔をむけて小さな声で
「何でもない」と呟き顔を赤くしている
どういう事なのだろうか





「何で俺に答えを求めんだよ」
「それは/////・・・・・ごめん・・・・///
 気にせんといて。棗には関係あらへん」
「・・・・・・・・・」




このセリフ前にも聞いた事がある
同じ場所で、丁度同じぐらいの時間に





『棗には関係あらへん』




「お前なんか、」




『お前なんか』




「流架には似合わねぇよ」




『流架には似合わねぇよ、ブース』






あの時と同じ台詞。
けれど帰ってきたのは怒りの言葉なんか
ではなくって、哀しそうに笑う顔だった






「そうやな、ウチなんか流架ぴょんに
 似合わんよな・・・・・考えるまでも・・・ない
 なんで流架ぴょんウチなんかに告ったりなんかしたんやろ」
「・・・・・・・・・・言い返せよ」
「へ?」
「言い返せよ。なんで納得してんだ」
「せ、せやかて・・・・っホンマうちなんて・・・!」
「確かにテメェは流架には似合わねぇよ。
 でもアイツがお前の事好きになっちまったんだから
 仕方ねぇだろ!!」
「せやから流架ぴょんがウチの何処を好きに
 なったんかわからないって言うとんじゃ!!」
「俺だってわからねぇよっ、何でお前なんか・・・・・・っ」





何でお前なんか



「スキ」ニナッタノカワカラナイ



最初に覚えたのは嫌悪だったのに



どうして



いつのまに、こんなに






「わかるかよ・・・っ、俺だって知りてぇよ」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・・っ」
「・・・・・・・・断る理由なんてあらへんねん」





やっと吐き出した言葉に蜜柑は少し
間をおいて話し出した
場所を変えて隣に座り俺にも座れという合図なのか
腕を下に引っ張ってくるから
大人しくその通りにすると蜜柑はぽつり、ぽつりと
言葉を繋ぎ始める






「棗に言っても、しゃぁないんかもしれへんけど
 ウチはまだそういう"好き"っちゅー感情が
 どんなもんなのか見当もつかへんねん。
 せやから流架ぴょんへの返事に断る理由なんてないんよ」
「・・・・・・・・・・」
「けどな、いー加減なキモチでOKなんてしてしもうたら
 流架ぴょんが不憫さかい。ホンマはぎょーさん時間が
 あればええんやけど今日までって期限つけられてもうたら
 どないすればいいかわからん。」
「・・・・あれ言われたの一週間も前だろ
 これだけ期限延ばしてやっただけでも流架に感謝しろよ」
「アハハ、それもそうやな。棗の言う通りや
 見つからないようにってわざとこんなトコ来たけど
 逃げてばっかりじゃ駄目やな」




蜜柑はそう言うと隣から立ち上がり
服の汚れを軽くはたいて木の幹に手を当てた
流架を・・・・・探しにいくのか?





「・・・・水玉」
「水玉やない・・・・って、なんかもう
 言い飽きたな。何や?」
「もし、俺が流架と同じこと言ってたらどうした?」
「〜〜〜〜〜〜っ///////知るかっ!!////////」






かなり大きな声で否定とも肯定ともとれぬ
返事を真っ赤になって叫ぶと
木の上から姿を消した。器用なことだ






モシ



        モシアノトキ





「・・・・・・・結果はかわらねぇよな」






それが妙に寂しくって、それが妙に哀しくって
思わず昔を思い出すかのように唇に手を当てた


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