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五月中旬……春でもなく、夏でもなく────……

そんな季節の天気は、とにかく変わりやすい。さきほどまで青かった空が、黒くて分厚い雲に覆われてしまった。

先生が不在で、一時間、自習をすることになっていたのだが、みんなは好き放題している。



「なんやなぁ…この天気……。気が滅入ってまうわ」

「いつもうるさいんだから、たまには静かで良いじゃないの」

蛍がさらりと言う。


「…んなっ!───」




突然、空が光った。

───ゴロゴロゴロ……

唸るような音が、遅れて聞こえてくる。


「きゃあぁっ!!雷だよ!!」
「すげぇ〜〜…」
「やだぁ──ッ、恐いよ…」


クラスがざわつきはじめる。




しばらくの間、光っては鳴り、光っては鳴り、を繰り返していた。
しかし、だんだん雷の音が大きくなってきた。

光りと音の間隔も、しだいに小さくなってきている。




────ピッシャ──ン!!!!ゴロゴロッ!!





「───わわっ!!…な、なんや!!?」

「………停電ね」


B組の教室の明かりがすべて消え、蜜柑達は暗闇にいた。残った光は、上空で不気味に唸る、雷だけ────……


「……い、イヤやぁッ!!暗いよ〜、蛍ぅ───!」

「……うるさいっ」

大騒ぎする蜜柑に、蛍はバカン砲を撃ちつける。暗闇の中にいながらも、見事命中。

「痛ッ!!!」


撃たれた反動で蜜柑はよろめき、後ろにいた誰かにぶつかった。

「…わぁっ…ごめん、ぶつかってしもて───誰やぁ?」

「オレだよ…佐倉…」

「あっ!!なんやルカぴょ───……」



空が激しく光り、すぐに音が轟く。

───ピシャンッ!!!ゴロゴロ……


「───ひゃぁっ!!!…ル…ルカぴょん───っ」


蜜柑は必死に傍にいたルカにしがみつく。


「…イヤやぁ〜〜…ウチ雷苦手や───…」


蜜柑の肩が、ガタガタと震え出す。

「………こわい…」

ルカの服をギュッと掴んで、目に涙を溜めて呟く。


ルカは赤くなりながらも、蜜柑を元気づける。

「大丈夫だよ、もうすぐおさまるから…」

ルカが蜜柑の肩を優しく抱きしめようとしたとき…




───ドカッ



「…ふみゃあ!!」

棗が蜜柑に足蹴りをくらわせた。



「泣きっ面でルカにベタベタくっつくな…鼻水がつくだろ、ブス」

棗は足で蜜柑をぐいぐいと押す。


「…なっ…棗…やめんかいッ!!」

「…雷ごときでギャアギャアと騒いでんじゃねぇよ…何歳児だ、てめぇは」

「…棗……っ」

ルカが止めに入る。


「……っ、棗のアホ…!もう知らんわッ!!」


そう言って、ツンとした顔付きで蛍のところへと戻って行った。



「…………」

蜜柑が行ってしまって、ルカは少しがっかりする。


「…棗…?何もあそこまで言わなくても……」


ルカの言葉に、棗はムカッとする。
棗は、つい口調が強くなってしまう。

「…別にいいだろ……オレがアイツにどんな風に接しようと…お前には関係ない」


普段ならルカに対しては絶対にこんな言葉を言ったりはしないのに、今日は何だかおかしい。
しかし、この言葉には、さすがのルカもカチンときた。


「…関係…なくなんかない…」


「…………」

「…オレ……佐倉が好きだから……。佐倉の辛そうな顔…見たくないんだ」


「…ああそうかよ」

棗は勢いよく立ち上がると、乱暴にドアを開け、そのまま教室から出ていってしまった。


雷はまだ通り過ぎず、雲の中で唸り続けている。


「…どうしたんだろうね〜、棗くん」
「ルカくんと喧嘩でもしたのかな」
「まさか!!いつもあんなに仲良しなのに…」
「でも、取巻きの人が、何かモメてたってよ…」



ルカはだんだん居心地が悪くなってくる。


(棗はいつも、こんな風にコソコソと噂されてたのかな…)

無意識のうちに棗のことを考えてしまっている自分に気付く。

ダメだ───……オレ達は一応、喧嘩してるんだから───……






気がつくと、教室の中に蜜柑の姿が見えなかった。

ルカは不思議に思い、蛍に聞いてみた。


「今井……佐倉、どこに行ったか知ってる?」


すると蛍は表情を変えずに言った。

「………さあ」

「……さあ、って…」


ルカは呆れたように苦笑いを漏らす。


「…ただ一言、外行ってくる…って言ってたけど」


(………外?)

「……棗?…」



もしかして

佐倉は─────………




ルカの足は、自然に外へと向かっていた。



蜜柑は、雨が降り続いている中、傘をさして歩いていた。
意識していたわけではないけれど、その足は、ある場所へと勝手に蜜柑の体を運んでいた。
あの、茂みへ──…


「…棗……」

雨の中で、傘もささずに───…一人で。
その背中は淋しげで、なぜか蜜柑を引き付けた。なんとなく、訴えるようで───……。


「…んだよ…水玉かよ」

蜜柑から目を反らしながら、不機嫌そうに言う。


「…んなっ……何やねん、まったく…」

「うざい…消えろ」

妙に突っ掛かってくるために、蜜柑は余計に気になってしまう。
そっと、近寄りながら、棗の頭上に、棗の体を雨から守るように傘をかざす。


「濡れるよ…?」


蜜柑のその行動に、棗は少しだけ、蜜柑を見つめる。

「…お前こそ、濡れるぞ」

蜜柑は、棗の言葉に笑みをもらす。

少し躊躇したが、思い切って口に出す。


「…ルカぴょんと…何かあったん?」



棗はその言葉に、カッとして、蜜柑のツインテールを乱暴に引っ張っり、蜜柑を睨みつけた。

「…お前には関係ねぇだろ…ッ…」

「…痛──っ…」





すると突然、棗の頭上をカラスが飛び去った。

「………っ!」


ルカが、そこに立っていた。


「ルカぴょん…っ!?」

ルカが棗を攻撃したことに、動揺を隠せない蜜柑。



「棗が…佐倉を傷つけるのなら───オレはもう、容赦しない」


ルカの棗を見る眼差しは、親友を見る眼差しというより…敵を見るような…しかし、どこか淋しげな眼差し────。


「そっちが本気でくるなら、こっちも本気で相手しなきゃな…」

そう言う棗の瞳にも、やはりルカと同じものを感じる…。


「───なっ…、やめ…!!」


蜜柑が止める間もなく、二人はアリスを使って互いを攻撃する。
ルカが棗の炎をかわして、素早く動物を操り相手を攻撃する───……
一方の棗は、ルカの操るカラス達からの攻撃を受けながらも、次々と攻撃を繰り出す。



見る間に二人は、火傷や擦り傷、切り傷でボロボロになる………。
しかしそれでも、二人は攻撃をやめようとしない。






蜜柑の目には、大粒の涙が溢れていた。


いやや……

あかん………

やめて…………


「二人ともやめて──────ッッ!!!!」

蜜柑は、攻撃が飛び交っている二人の間に向かって、走り出していた。



「──っ!!!」

蜜柑の体は、真っ黒なカラスに囲まれて見えなくなったかと思うと、次の瞬間には、その体は、棗の炎によって包まれてしまった。




「………蜜柑…っ!!」
「………佐倉…っ!!」



突然の出来事に、二人は一時、唖然としてしまったが、慌ててアリスを押さえ込む。



二人はその場に倒れている蜜柑に駆け寄る。


「…佐倉……!?」

蜜柑はルカの声に、目を開けた。


「……ルカぴょ………な…つめ……」


蜜柑は顔や体にたくさんの傷を負っていた。


「……っ……」

ルカは、自己嫌悪に陥ってしまう。

(…オレ達の喧嘩に…佐倉も巻き込んだ上に、怪我までさせてしまった───……)


悔しくって、下唇を強くかむ。


横にいる棗に目を向けると───────………


「……棗…!?」


隣にいるルカの親友は、
肩を抱き、真っ青な顔で震えていた。



「……オレ…が……み…かん、を………………傷…つけて………人を……傷つけ…た………オレ……が……」





「───ッ!!」

ルカの心が、更に締め付けられた。



そう……

そうなんだ────……

誰よりも
人を傷つけることを恐れていたのは

棗自身なんだ─────………




佐倉に対して、いつもあんな風に接してしまうことを
誰よりも悔やんでいるのは

棗自身なんだ…………



それなのに
オレは───……

棗にひどいことを言って、傷つけたんだ…。




「…ごめん、棗……ごめんっ!!…ごめん──…」


自己嫌悪のあまり、頭がガンガンする。


大切な
たった一人の
親友を
オレは───……

傷つけた────……。


手が震えて止まらない。


棗のこと、オレが、誰よりも知っていると思っていた───……


思い込んでいた──────…………



しばらく、みな沈黙していた。



だいぶ痛みが治まったのか、蜜柑が上半身を起こした。


「……ルカぴょん……棗……?」


「…………」
「…………」

蜜柑の呼びかけに、二人は黙ったままだった。

「…二人とも、大丈夫?」



彼女の方が、ひどい怪我をしているハズなのに……それでも、人の心配をして────……。

やりきれなくなって、ルカは口を開いた。

「……オレ…っ、棗の気持ち…わかってあげられなかった…一番…近くにいたはずなのに──っ」


「……うん…」

彼女はただそれだけ言って、優しく、背中を摩ってくれた。

「……棗…?」


まだ、震えていた。

「…み…かん…?…オ…レが……傷つ…けた…蜜柑に…」


「……平気やよ、棗……」

優しい声でそれだけ言い、そっと棗の背中を摩る。




「……もう、喧嘩……せんといてね……」


そう言うと、蜜柑はルカの体をそっと抱きしめる。


ルカはしばらくの間目を閉じ、蜜柑の温もりに体をあずける。

.
「…ウチはもう、ホンマに平気やから………」


そう言って、震えている棗の体を優しく包み込み、しっかりと、抱きしめる。

「…大丈夫……」

彼女の口から出る声は優しくて、耳に心地よい。

そして、彼女の言葉は魔法のようで─────………

棗は安心したように目を閉じた。


「…みかん……」

棗は消え入るくらい小さく掠れた声で、しかし、しっかりと彼女の名前を呼んだ。
その目には、光るものが見えた────…








「…一緒に戻ろう」

蜜柑は微笑みながら、棗に右手を、ルカに左手を差し出す。

「…みんなで仲良く、帰ろう…!!」


棗とルカは顔を見合わせ、笑い合い、そして彼女の手をとった。



「平和が一番や!」



気がつけば

空は青く

どこまでも澄みきっていました─────────……………






*END*


*あとがき*

キリ番1200番を踏んでくださった、マキ様からのキリリクです♪
なんというか…長すぎですね………すみませんっ!!!
棗VS流架…というリクでしたが…どうでしょうか………。本当に喧嘩させてみたのですが(笑)気に入ってくださると嬉しいです↑↑マキ様、よろしかったらもらってやってください……持ち帰りしちゃってください(笑)
1200番、おめでとうございます!!!

修繕*2005.10.14

何気にキリ番を踏んでしまい、リクエスト権頂いて書いて頂いちゃいました♪
やっぱりいいですねぇ〜vV
蜜柑を取り合うっていうのは(笑)
ありがとうございましたvV


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