星月夜-真冬の向日葵-

Treasure

真冬の夜に咲く
窓際の一輪の向日葵

引き出しにしまい込んだ
ペアのネックレス


机の上の
写真の中の二人の笑顔






この部屋はお前の残像で
満ち溢れている




決して忘れない

お前がここにいた事を


お前と過ごした時間を



そしていつか
また逢えた時に


"ありがとう"


と言おう。




お前に逢えて
本当によかった。





星月夜
-真冬の向日葵-



決して忘れない

お前がここに確かにいた事を

お前が俺に残してくれた

言葉を…

笑顔を……

思い出を………


次に逢う時まで
決して忘れたりしないから





《 星月夜 -真冬の向日葵- 》




「棗…どうしたん?元気ないやん」



いつもの笑顔
見てる方まで笑顔になりそうな、陰りのない笑顔

こんなになってもお前は…

笑えるんだな…




真っ白で無機質な病室

仕切られる透明なカーテン


帽子を被った蜜柑


その下からはショートくらいに短くなった栗色の髪が見えた。


その姿に、俺は顔を歪めた

蜜柑もきっと気付いているだろう…
それでも、敢えて何も言わずに近くにあったイスを指さし座るように言った。




「…ンな事ねぇよ。それより、お前はどうだ?」


「…〜まぁまぁやな!」


「まぁまぁって…なんだよそれι」



相変わらずな蜜柑

けれど、違う



強気な態度も
無くなった。

腕も少し細くなった
…と言うより、痩せた


そして何より…
嘘をつくようになった



"まぁまぁ"なんて嘘
本当は今も辛いんだろ?
事実、コイツは最近食べ物を口にしていない。


食わないんじゃなくて
食えないんだ…



蜜柑は平気そうに振る舞うが、痩せてく躯に増えてく点滴の針に…病状は目に見えて悪くなっている事がわかる



コイツはもう
長くない



「棗、……蛍達は元気?」


「あぁ…元気だ」



精一杯笑顔を作ると


「よかった」



と言って嬉しそうに微笑んだ。
そして


「蛍達も入らせてくれればえぇのにな?棗しか逢えないなんていい加減飽きるわぁ〜」



悪態をつく



「お前…そんな事言ってっともう来ねえぞ」


「ギャーー!!すみません〜」


「冗談だから安心しろ。…まぁ、あんまり態度が悪いなら…わからないけどな」

「!?すみませんすみません!!感謝してます〜(泣」




笑ってる

蜜柑も…俺も


だけど、二人の距離は離れていて

透明な壁



こんな風にしてると
昔に戻れたような気にさせる
けれど、心電図の音や点滴などをみて
現実に引き戻させる


いっそ
時間が止まってしまえばいいのに

いっそ…



「あ、そうだ。棗」

「あ?」


「毎日来なくてもえぇよ?
ウチ調子いいし…
学校終わってから毎日じゃ大変やろ?」


……………

また、嘘


「大変なんかじゃねぇよ。それと、嘘つくな…調子悪いんだろ?」


「………でも…」


「俺が来たいからきてんだ。お前に何言われても毎日来るからな」



そう言うと蜜柑は口をポカンと開けて、ジッと俺をみた後



「棗は相変わらずやね」


「どう言う意味だよ」


「相変わらず"偉そう"」


「…………テメェ」






それから二週間経った。




「棗、今日も佐倉の所いくの?」


「あぁ」


「俺も佐倉に会いたいな…」


「…流架、アイツは俺のだからな」


「わかってるよι
友達として…ね。それと、佐倉は物じゃないからそうゆう言い方はやめた方がいいよ」


「…お前最近性格変わったよな」


「別に?前からこうだけど」


「………そうか。じゃ行くな」


「うん」




冷たい
空気の澄んだ冬の道を

急ぎ足で歩いてく



向かう先は蜜柑の元



もう二度とくるなと言われても
俺は毎日通ってやる

残り少ない君との時間を
一秒も無駄には出来ない



空にはもう
綺麗な星がでていた




ガラっ…



「蜜柑」


「……な…つめ?」

「大丈夫か?」


「…うんvV」



最近の俺達の会話は
毎回これから始まる。


けれど、最近はその会話すら少なくなった。

それがどんな意味を示すのか…わかりたくなくても思い知らされる。


蜜柑の部屋にあるものは、点滴などの必要最低限のモノしかない。
見舞い用の花も、大分前から持って行ってない…

持っていっても、飾る事が出来ないから。



時計も…俺が捨てた。
時間なんて止まってしまえばいい
時計の音がこれほど怖いなんて、思いもしなかった

時計の針が秒針を刻むたびに、蜜柑の病状が悪化する

蜜柑との時間が…
終わりに近付いてく





「蜜柑…」


「今日…も、蛍達とは会えへんの?」


「ぁ…あぁ」



一週間迄から…蜜柑は同じ事を繰り返し聞くようになった。
担当医に今井達も会えるように頼んでみても、答えは変わらなかった。




「会いたい…なぁ…」


「…………」



何もしてやれない

アリスなんて力を持っていても、何の役にもたたない。



何がアリスだ。

何が国に認められたエリートだ。



大切な人間に何もしてやれないで…何が幹部生だ…


こんな力
必要ない…



「……め…棗…」


「…―ッなんだ?」

「外…みて」


「外…?」



言われた通りに窓を見ると、さっき見た満天の星空…



「きれい…やね」


「あぁ」



夜空に浮かぶ星は
月よりも明るく輝いている



「最近の棗……下ばっか向いてる」


「…え?」


「何か考え込む時とか…辛そうな顔して床睨んでるやろ?」

「…気のせいだろ」


気付かれてた



「気のせいやない。下ばっか向いてたら、こんなキレイな空も見れへんやん…しっかりせぇ」


「!!?」



何やってんだよ俺

俺が励ませてどうすんだ

今、俺は蜜柑を支えなきゃいけねぇのに




「ウチな…入院してから毎晩空見てんや」


「…そうか」


「そしたらな…気付いたん」


「何を?」


「…流れ星ってな、ずっと空見てると結構流れてるんや」


「?」


「まぁ冬は空気が澄んでるからよく見えるんやろうけど…棗も空、見ててみい」

「……」



窓に近寄り空を見上げる


久しぶりだった

蜜柑が入院してから、しっかり空を見る日なんて無かったから



ふと視線を右へ移す、蜜柑からも見える方へ…


すると夜空に一筋の光が翔ていった



「…なぁ?見えたやろ」


一瞬だった

瞬きしてたら見逃すほど



「願い事…した?」

「速すぎて願う暇なんてねぇよ」


「せやな…ウチも何度も試したんやけどな、無理やった(笑」


「だろうな(苦笑」



流れ星に願い事をすれば叶うなんて

ただの迷信だ


実際は願い事する前に消えてしまう



けれど、それでも俺も試してしまった



"蜜柑の病気を治して欲しい"と…


間に合わなかったけれど




「な…ぁ…棗…?」


「…ん?」



時間が無い…
蜜柑の声が途切れ途切れになる



「ウチ…が…い…なく…なって、も…」

「やめろ!!喋るな!」



聞きたくない
"最後の言葉"なんか聞きたくない…


少しでも生きて欲しい…

透明なカーテンを開け、ベット脇のナースコールを押そうとすると蜜柑に手を掴まれた



「聞ぃ…て…」


「…――ッ」



イヤだ

嫌だ…


聞きたくない…



「いなく…な…っても……空を…見て……?一人で…抱え…込まないで?」


「……ッ………」



視界が滲む

イヤだ

やめろ…


蜜柑の顔を見せてくれよ…



「……笑って…?」

「……ッ無理…言うな」


「でも…辛くなったら………泣…いて…」


「………」



蜜柑の手を握る
暖かい

蜜柑は…笑っているのか?


見えない…

ずっと泣いてなかったのに…こんな時に流れてくるなよ……

蜜柑の顔が…見えねぇだろッ…



「あと……」


「もういい…お願いだから喋るなッ…」

「幸せに…なって」

「……―ッ!?」


「ウチと…過ごした思い出ぜん…ぶ忘れ…て」


「忘れられるわけねえだろ!!」


「だけど…ウチがいた事は…忘れないで…」


「………――ッ」


言葉が出ない


「大…好き……やよ……棗………」


「…………―ッ俺も……好きだ…」



...




ピ――――――…



響く音が
蜜柑の命が尽きた事を知らせる


俺にはまだ…蜜柑の顔がまともに見れなかった…


絞り出すようにしか言えなかった"別れの言葉"


"好き"


もっともっと…

言いたい事が沢山あった


お前に逢えて良かった

ブスなんて言って悪かった


謝る事も
感謝の言葉も
言えなかった




なぁ…


約束…しただろ?



卒業したら…お前のじぃちゃんに会いに行って…


認めてもらうんだろ…?


結婚…して…

一生二人一緒にいるって…


言っただろ!?



守れよ…
なんで…

最後の最後に約束破るんだよ…



「…蜜柑………ッ」



立ち尽くしていた俺の後ろの扉が開く



医者と数人の看護婦…


そして…


「午後20時56分―…」


死を告げる言葉



「御臨終です…」














なぁ……


蜜柑…………




どこにいるんだよ








会いてぇよ……














数年後―…




「おいてめぇら!!
いい加減大人しくしねぇと燃やすぞ!!!」


「ひぇっ…うっ…」

「!!?おいッι
それくらいで泣くな…男だろ!!」


「うるせぇ!!イヤミキツネ!」


「なッ!?てめぇ…(怒」



「――久しぶりに聞いたね…イヤミキツネって……(笑」


「…流架!!笑ってねぇでコイツらなんとかしてくれι」


「流架先生〜…(泣」


「おい!?」


「あ〜…棗は目つき悪いから怒ると怖さ倍増だよ?」


「…流架ッι」



あれから数年経った今

俺はまだ学園にいた

俺だけじゃなく…
流架や今井も学園に残り、教師をしている


流架には…散々

"似合わない"と言われた。


自分でもそう思う…けど、柄にもねぇ教師なんてしてまで学園に残ったのは



蜜柑がここにいるから



この世に蜜柑の姿はもうない…

けれど、このB組の教室には…お前との思い出がある。
お前には忘れろって言われたけど…出来ねぇよ…


蜜柑が居なくなった直後の俺は、お前の所に行くことばかり考えてたんだ…



けど…






けど…



"あんた死ぬ気か!?
目覚ませボケッ"


あの時の…お前の言葉を思い出したんだ。


お前が守ってくれたこの命を
俺は無駄にしない



今はまだ思い出に縋る事しか出来ねぇけど…

いつか、約束守るから


"幸せになって"



そしたら…
お前の所に行くから

安心しろ
ちゃんと一生を全うしてから行くから



そしたら……

お前が破った約束、今度こそ叶えような?


まさか…こんな形になるなんて思わなかったけれど…













「なぁ棗!!」


「んだよ…」


「棗は〜ウェディングドレス何色がいい?」


「はぁッ?」


「今日パーマ達と話してたんや!何色?」


「……くだらねぇ//」


「くだらなくない!!何色や!?」


「…―チッ………白……///」


「舌打ちは余計やけど…白な?vV定番やな〜」


「うるせぇな///」


「まぁいいわ…棗が18になったら、責任とってな?」


「…何でだよ」


「……何でって……アンタパンツ脱がした挙げ句胸触ったやろ!!!」


「……いつの話だよι
まぁ…そうだな……お前が浮気しねぇって言うならいいぜ」

「なら決まりやな!!じぃちゃん何て言うかなぁ〜…」


「反対されたらお前ん家の隣に引っ越してやる」


「あはは…楽しみやね」


「あぁ…」












授業を終えると
俺は蜜柑が眠っている場所へ向かう




「すげぇ…」


歩きながら空を見ると、あの日の様に月よりも明るく輝く星があった…





蜜柑の墓の前に立つ
そして俺は数輪の向日葵を花瓶にさした。




真冬の星月夜の日にお前は居なくなった。
けれど、俺達の心にはお前の笑顔が焼き付いている。


向日葵の様に咲く
君の笑顔が…




end...


後書き


……お姉ちゃん…ごめんm(__)m

やっぱり暗くなっちゃったよι
しかも微妙にリク通りじゃないですよね(苦笑

「棗と蜜柑が流れ星を一緒に見て願い事をする話」

願い事してない!!



宜しければ別の書きますので…遠慮なく言って下さいι



では、また遊びに行きます〜…(逃走)


2005/01.14.秋羽


なんでココまで暗くできるんでしょうねι
不思議ですよ(人事?)

タイトルが
星月夜
-真冬の向日葵-なのは一つに決められなかったからですι

あの後、棗は一生を終えるまで他の人と付き合ったか…そして結婚したか…それは、自由に想像して下さい。

蜜柑の言った
"幸せになって"は、
他の誰かと付き合って…結婚して

と言う意味ですが、幸せの形は人それぞれですから。


例え、誰かと結婚しても棗の一番は蜜柑です。

話では書きませんでしたが、二人は来世で結ばれた事にしてます。
暗くて少し現実味が無いような話ですが(実際に病気などで大切な誰かを失った事がないと本当の痛みや辛さはわからないので)、これを読んで下さった誰か一人でも心に残れば嬉しいです。


では、駄文ですがお読み下さってありがとう御座いました。

2005/01.14.



秋羽ちゃんのサイトにて初キリバンを踏み書いて頂きましたvV
読んだ時は、あまりに切なくて、携帯持ちながら涙ウルウルになってました。
ひとつのドラマを読んだみたいで…うわ〜〜ん!!
いやぁ〜!!蜜柑、棗残して死なないでぇ〜〜!!
となりました。だけど、こんなお話書かれるなんてすっごい!!
と思いましたvV
やはり、尊敬ですね。

'05/1/16


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