キミへ贈る

Treasure

「蜜柑、夜、そうね、10時頃に私の部屋に来なさい」

相変わらずの命令口調で呼び出された蜜柑。
その言葉に忠実に従い、蜜柑は今蛍の部屋の前に立っていた。
左手には可愛いピンクのリボンをした袋。
そして、空いている右手は、鼻の近くまで上げられゆっくりと前へ振り落とす。


コンコン


「蛍?うち。入るよー」

ドアのぶを回し、夜遅い事もあって、音がならないようゆっくりと押す。
半分ちょっと開けると、蛍の姿が見えた。
ベッドに腰掛けていて、先ほどまで読んでいたであろう本にしおりを挟んでいる所だった。
顔をひょこっと出して覗いていると、蛍は本を適当に枕もとに置きながらこちらを見ずに

「早く入って。寒いから」

と言ったので、慌てて身体を部屋の中へ入れ、ゆっくりとドアを閉めた。
ドアに向いていた身体を半回転させ、蛍の方を振り向く。
蛍は既にベッドから降りていて、クローゼットの方へ歩いていた。
何やろ?と心の中で思いつつ、蜜柑はのろのろとベッドのほうまで歩き、袋を蛍の本先ほどまで蛍が座っていたベッドに腰掛ける。
そして体重を後ろへかけ、ぼふっという柔らかそうな音と共に布団へ倒れた。
ふーっと息を吐き、首を右に向ける。
窓が見え、その先には2つほど空に輝いている星が見えた。
今度は首を左に向けた。
案外綺麗に整頓されている本棚や、用具入れであろう箱、そして自分が先ほど入ってきたドアが見えた。
広いなぁ・・・と今更な事を頭で考えていた。
すると、突然何か柔らかく、しかし少し重いモノが顔の上に降ってきた。
一気に呼吸がしにくくなり、顔を上に向け、両手でそれを顔から退かした。
蛍への抗議をする前に、降ってきたモノを見た。


それは、コートだった。


前に蛍が着ていたのを見た事がある。
そんな事を思い出しながら、コートから視線を蛍へと送る。
既に蛍は他のコートを着ていて、手を腰に置き、いつもの表情でこちらを見下ろしていた。

「え・・あの・・・」
「早く着なさいよ」

そう淡々と言われ、

「え?あ、うん、ちょっと待ってな」

と言い、蜜柑は身体を少し斜めに向け、右手の手のひらと左手の手のひらをベッドにくっつけ、ぐっと力を込め身体を起こす。
そして立ち上がると、ベッドの上にある先ほど降ってきたコートを掴み、右腕を通した。
左腕も通し、ボタンを留め、訳が分からないまま着替えた
がちゃりという音が鳴った。鍵が開いた証拠だ。
蛍はドアのぶを回し、ドアを開けた。
蛍が前に進み、部屋の中へ入っていったので蜜柑も続く。
電気は点けずに、いつのまにか蛍が持ってきていた懐中電灯を使う。
中を見回してみると、自分が使っていた時と物の配置は変わらないが、少し埃を被っていた。
あまり換気していないのか空気も悪い。
けほっと蜜柑は咳をし、埃を吸わぬよう服の袖を口元にもってくる。
ここに何の用が?しかもコートの意味は?
蜜柑の頭には疑問だけしかなかった。
がたっと音が鳴り、そちらへ顔を向ける。
そこには蛍がいて、ドアを開けていた。
換気をするんかな?と思っていたら、そのドアの下に近くの椅子を持って来ると、その椅子に乗り、窓辺に足をかけた。

「ほ、蛍!?危ないで!」
「いいからあんたも登ってらっしゃい」
「へ?」

蛍は窓の縁に手を掛け、力を加え一気に立ち上がる。
そして器用に身体の向きを外から部屋に向け、横が屋根なので慎重に横に進み屋根に足を掛け、ゆっくりと屋根に乗った。
はー・・・と感心してしまう。
すると屋根の上から「早く」という声が聞こえた。
蜜柑は「分かったー」と静かに、だけど蛍には聞こえる程度に言い、蛍と同じように登って行く。
のぼってみると、さすがに今の季節だと寒い。
このためのコートか。と蜜柑はようやく納得した。
コートに付いた汚れを払い、蛍を探す。少し離れた場所に、蛍はいた。
すべらないように、慎重に歩きつつ蛍に近づく。
蛍はただじっとある方向を見ていた。蜜柑はようやく追いつくと、蛍の視線の先を見る。



「うわぁ・・・・!」



前には木が数本立っていた。


―――――が、ただの木ではなかった。


キラキラと光が散りばめられ、まるで大きなツリーのように光り輝いていた。
思わず蜜柑は驚きの声を漏らし、蛍も「へぇ・・・」と感心の声を出す。
しばらく二人は何も話さず、目の前の景色を堪能する。
眩しいとまではいかない、丁度よく光るのがまた素晴らしい。
蛍はちらりと気付かれないように蜜柑を見た。
口が半開きになっていて、なんともマヌケな顔をしてこの景色を見ていた。
だがそのマヌケな顔は喜びに溢れていて、悔しかった。
視線を元に戻し、蛍は口を開く。

「これ、あんたのパートナーとその親友から」
「へ・・・?棗と・・・ルカぴょんから?」
「そう。頼まれたの」

もちろん、有料だけどね。と後から付け足す蛍に蜜柑は「あはは〜」と笑った。
いったい何をもらったのか気になっていたのだが。
そしてもう一度景色を見て、心の中で二人に感謝し、また何かあげようと思った。

「けどこれ、どうやって光ってるんやろ・・・?」
「ああ、この向こうにビルやマンションがあるでしょ?それの光が葉と葉の間から見えて、木が光ってるみたいに見えるのよ」

へえ・・・。蜜柑は納得した。

(だからそんなに眩しくなかったんやぁ・・・。)

ぴゅうと風が吹いた。その風は冷たく、耳と手が少し痛くなった。
蛍と蜜柑は簡単に髪の毛を直すと、

「寒いし、そろそろ帰るわよ」
「うん!」

蜜柑は蛍の隣に歩き、その顔はずっと笑っていた。



ようやく部屋に付き、蜜柑と蛍はコートを脱ぎ、蜜柑は礼と共にそのコートを蛍に渡す。
蛍がコートをクローゼットに直している間に蜜柑は先ほどベッドの枕もとに置いた袋の事を思い出した。
蛍を見ると、先ほど自分が着ていたコートを直していたので、ベッドの方へ蛍に気付かれないように小走りする。
袋を掴むと、身体の後ろに隠す。
そして、蛍がクローゼットの扉を閉めたのを確認すると、

「蛍!」

振り向く蛍に来い来いと手招きする。
不審に思っているのか、眉を寄せながらこちらへ歩いてくる。
蜜柑から二、三歩離れた辺りで、蜜柑は後ろに隠していた袋をじゃん!と前へと出した。
蛍は目を少し見開いた。驚いた証拠だ。
その顔に満足した蜜柑は笑顔をさらに笑顔にした。
その顔に蛍はムッとし、それ何?とそっけなく聞く。
あ、っと蜜柑は言うと

「プレゼント!今日が何の日かは知ってるやろ?」

はい。と蜜柑は蛍にプレゼントを渡す。
蛍はそれを受け取ると、リボンをゆっくりひっぱる。
リボンはスルスルと解けていき、袋から外れ、袋の入り口が少し開き、中が少しだけ見えた。
何か茶色いモノが見えた。
袋の入り口に手を掛け、袋の入り口の大きさを広げ、逆さにする。
柔らかいモノが手の平に落ちた。袋を退け、それを見る。
そこには手のひらサイズの、所々歪んだクマのぬいぐるみが出てきた。

「えへへ〜。頑張って作ってみてん!けどやっぱりあんまり作ったことなかったからちょっと変やけど、許してな」

蛍は何も言わず、じっとそのぬいぐるみを見る。
そして、先ほど解いたリボンを綺麗にぬいぐるみの首に結んだ。

「これで少しはマシでしょ?」

そう少し口の端を上に上げながら、蛍は言った。
蜜柑の顔は喜び以外何も考えていないと思うぐらい笑顔で、うん!と言い、蛍に抱きついた。

「蛍!」
「何よ」




















「メリークリスマス!」






END






素敵な小説ですよね☆
なにかほのぼのとした幸せな気持ちになりますねvV

'04/12/30に頂きましたvV



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