いつか、きっと……

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下校後の見回りをしていると、皆帰った筈の教室に明かりが灯っているのに気付いた。
ドアをあけて中を覗いてみると、教え子の一人である少女が頬杖をついて何やら思い悩んでいた。
僕の気配にも気付いていない様子で、すぐ傍まで近寄っても難しい顔をして黙り込んでいた。

「こんな時間に何しているの?下校時間はとっくに過ぎてしまったよ?」

突然僕の声がしたので彼女はかなり慌ててしまったらしく、勢いよく立ち上がると、顔を真っ赤にさせていた。

「な、鳴海先生……!ごめんなさい、すぐに帰ります……!」

カバンを掴んで急いで教室を出ようとする彼女の手を掴んだ。
驚き振り向く彼女に身をかがめ、目線を合わせる。

「どうしたの?何か悩んでいるように見えたんだけど。何か問題でもあるのかい?僕で力になれるなら、よかったら話してみてくれないかい?」

暫くはもじもじとしていた彼女も、意を決して僕に質問をしてきた。

「鳴海先生……。結晶石を作るのって難しいん?うちの力ではまだ作られへんのん?」

恐らく周りの生徒から、結晶石の交換にまつわる話を聞いたのだろう。
この年頃の女の子なら興味を持つのも無理はないが、それだけではない
彼女の瞳には強い光が宿っていた。

「蜜柑ちゃんには結晶石をあげたい人がいるんだ?」

この学園には『結晶石を交換する』と、『将来を約束する仲』とみなされる。
我が教え子の願いを出来ることなら適えてやりたいが、世の中には出来る事と出来ないことがある訳で。

「う〜ん、結晶石を作るにはそれ相応のアリスが必要だからね〜。蜜柑ちゃんが中等部になった頃には作れるようになると思うんだけど……」

勿論これも個人差があるからあまりはっきりとした事は言えないのだけど。

「そんなにかかるん?!じゃあ、今年のクリスマスに間に合わへんやん……!」

あからさまに肩をがっくりと落とし、その大きな瞳をうるうるさせているとどうしても僕が彼女をいじめているように思えてくるから不思議だ。

「クリスマスプレゼントに結晶石をあげたかったんだ?」
「うん……。なつ……じゃなくて、そいつ、いつも無茶ばかりするから、せめてうちの結晶石でなるべくアリスを使わなくても済むようにしてあげたいねん」


そうか、彼女はパートナーである棗くんに結晶石をプレゼントしたかったのか。
それにしても、蜜柑ちゃんは棗くんのアリスの形を知っているのか……?
思わず笑いそうになったが慌てて取り繕い、気付かなかった振りをする。

「蜜柑ちゃんは優しいね。でも、今はその気持ちだけでも十分だと思うよ?」
「でも……。」
「心配しなくても、蜜柑ちゃんの気持ちは相手に伝わっていると思うよ?」

そう言いながら、ちらっと廊下の外へと視線を移す。
するとそこにあった気配がすっと消えた。

「そうやろうか……。」
「僕はそう思うな。だから、野田先生の授業をしっかりと受けるんだよ?」

少々納得のいかない様子ではあったが僕の言葉に素直に従い、寮へと戻って行った。

「結晶石か……。一体何処までそっくりなんだか……。」

ほろ苦い想いをかみ締めながら、遠ざかる背中を見つめていた。
首に手をやり、服の下に隠れていたネックチェーンに付けられたローズピンクの石を取り出す。

「いつか僕も、これを渡せる日が来るのかな……」

そんな事は絶対に適わないと知りつつも。
妄執にも近い気持ちを封じる事が出来ない。
いつまでこんな気持ちを引きずらなくてはならないのか。
――――貴女がいなくなってからもうすぐ10回目のクリスマスが訪れる。



END






あとがき

とってもご無沙汰な更新で申し訳ありません(泣)
クリスマスSSを、と考えた時に、もうちょっと楽しく賑やかな物にしようかとも思ったのですが、確か去年のがそういったノリだった(ような気がします)ので今回はちょっぴり切ない系で進めてみようと思った訳です。
いよかん的には珍しく大人(先生)視点でのお話です。で、結晶石ネタは、本誌を読んだ時点で絶対に入れてやろうと思っていました(笑)
それが適ってとても満足しとりますw

このSSはクリスマス(12/25いっぱいまで)お持ち帰り可能です。
果たして需要があるかどうかは甚だ疑問ではありますが、とっても奇特な方がひょっとしたら一人位はいるかもしれませんので(汗)




とういうわけでまたまた素敵サイト様からクリスマス小説頂いてきちゃいましたvV
明日までだったので危なかったです…よかった間にあって…。


頂いてきた日:'04/12/24


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