正真正銘
コロニー・メンデルを後に、ナタルの乗艦する地球連合艦ドミニオンと、クルーゼの率いたザフト艦を振り切ってから数週間――
相変わらず、両軍がいつ追撃して来るか解らない緊張感が艦内に満ちている。
顔を引き締めて艦長席に座するマリューは、艦内の修理状況を確認する為に、格納庫に居るマードックにモニター通信で話し掛けた。
「整備班の状況は如何かしら?」
「えぇ、モビルスーツ並びに艦内破損部分の整備・点検、粗方片付きましたよ。連中も良く動いてくれてますから、もう一息ってとこですかね。」
マードックは首に掛けたタオルで軽く顔を拭うと、無精髭の生えた口元に笑みを浮かべた。
焦った風でもない彼の口調にマリューもついつい気を抜いて、少しだけ頬を緩める。
「そう、お疲れ様。じゃあ少し休憩を取ってくれて……」
そこまで言って、マリューはにこやかな顔を凍りつかせた。
画面の隅っこ。そこに居る筈の無い人影を見つけてしまったから。
「まさか…」
マードックのずっと後ろ、モビルスーツの周りで作業を続ける整備クルー達に眼を凝らす。
その中に一つ抜きん出た金色の頭と、見慣れた後ろ姿。ふと振り向いた顔ははっきりと判別出来ないが、その振舞いは正しく。
「……やっぱりムウ!!あの人、そこで何してるの!?」
彼女の顔色は180度変わり、その声は叫びに近い。
艦橋に居たクルー達は一斉に、何事かと艦長を見つめる。けれどマリューはそれに気付く事無く、視線は小さなモニター画面の小さなムウに釘付けだ。
「え?」
知らなかったんですかい?
眼を見張ったマードック。
「ちゃんと艦長の了解取ったから大丈夫だって…」
そう言う彼の言葉に、瞳は仕事に励む恋人を追ったまま、マリューは首を横に振る。
「そんな…今日も部屋で安静にしてるようにって言っておいたのよ。なのに…」
ムウはメンデルにて右肩と左腹部を負傷していた。
あれからまだたったの数週間。一ヶ月足らずで整備に参加出来るまでに回復しているとは思えない。
「…悪いけど、彼を呼んで貰える?」
柳眉を八の字にしたマリューは、やっとマードックに向き直るとお願い、と懇願した。
「へぇ、解りました…ちょっと待ってて下さい。」
マードックはひょいと頭を下げると、振り返りながら「旦那ぁー」とムウの方に向かって行く。
じぃっと様子を見ていると、彼は自分が呼
「……すっごい嬉しい。」
ムウが一気にくしゃくしゃと表情を歪めて、顔全体で笑った。
珍しい、本当に満面の笑顔で。
「ムウ…」
「有り難う、マリュー……うん、絶対にいつも君の所に帰るから…」
彼は眼を閉じて、マリューの言葉を反芻した。
元モビルアーマー乗りで、今はモビルスーツ乗りの自分だから、いつも心配掛けてしまうのは仕方が無いけれど。
それでも信じて待っていてくれる君が居るから、いつだって無事に戻れる努力をしなきゃいけない。
「…だから、今は早く完治させないとな。おとなしく部屋に戻るよ。」
優しく目を細めるムウを見て、マリューもほっと小さく吐息を零した。
「ええ…」
――良かった…
彼の自己治癒力は人一倍だし、自分の愛情もたっぷり注いでいるからきっと早く治る筈――愛情はあまり関係ないかもしれないが、マリューはそういう事にして笑顔で頷く。
二人の間に、和やかな空気が広がる――勿論モニター越しに。
「けど、最後に一箇所。」
「え?」
ムウは一転して、悪巧みを思い付いた子供の様ににやりと笑みを変えると、一方的に通信を切った。
「え?ちょっと、ムウ?」
沈黙のモニターに呼び掛けても、返事が返る筈も無く。
「一箇所…」
マリューは呟くと小さく小首を傾げた。
「……トイレ?」
その一言には、今までだんまりを決め込んでいた面々も口を開かずにはいられない。
「艦長…それは違うと思います…」
ミリアリアがほんのりと赤い頬を引きつらせて、マリューに意見する。それには周りの皆がうんうんと頷いた。
――こんなに甘い空気を醸し出した後。
あの男の行く所と言えば、貴女の所しかないではないか。
そう思うが早いか、艦橋のエレベーターが開く。
「マリュー!」
ドアから飛び出して来る様子は、まるで飼い主を見つけた犬の様だった。
まさか怪我人のくせに駆け足で来たのだろうか。
宇宙空間で移動もし易いとはいえ、えらく早い到着に皆が目を見張った。ただ、マリューだけは違う理由で。
「ムウ!?もう一箇所ってここだったの?」
慌てて艦長席から立ち上がると、そのシートを軽く押して、すぐそこまで来ていた彼のもとへ飛んで行く。
ムウが彼女の身体を抱き留めると、二人はふわりとそこを漂った。
マリューが傷口の辺りを見ながら「大丈夫?」と問うと、ムウはうん、と頷いて。
「やっぱり、解んなかったんだ?」
入ってすぐの彼女の言葉に対して、ムウはしてやったり、と口角を持ち上げた。
「もう…何処に行くのかと思ったわ。」
そんな彼にマリューは少し顎を引いて、困った様にくすりと微笑む。
――解らなかったのは艦長だけです。
というのは、勿論周囲のクルー達。
「じゃあ、もう一箇所来たんだから、早くお部屋に戻って下さいね?」
いつもの柔和な笑みを浮かべ、マリューはムウの顔を見上げた。
すると同時に、彼の顔が迫って来る。
「解った…」
あ、とマリューは思う。そして瞳を伏せると、思った通りに覆い被さる彼の唇。
その刹那、小さく息を飲む音が此処そこで上がった。けれど二人は気にしない、気にならない。
「……ん…ふ…」
零れた声さえ吸い尽くす様な深い深い口付けに、マリューは彼の胸にしがみついて応えた。
そうして絡み合った熱が離れて行く感覚に、ゆっくりと瞼を上げると。すぐ瞳の前に、自分に暖かい眼差しを送ってくれる、大好きなムウの顔――
キスした後の顔がいつもより格好良く見えるのは、自分の眼の錯覚なのだろうか?
少しだけ早くなった心臓を押さえて、マリューはそんな事を考えた。
「んじゃ、俺戻るから…また後で。」
「ええ…」
ムウは名残り惜しそうに彼女の頬を撫ぜてから、ひらりと身を翻してエレベーターに向かった。
「安静にしてね?」
エア音と共にドアが開いた時、背中から掛けられたマリューの声。
エレベーターに乗り込んだムウはにっこり笑って。
「マリューが戻るの、おとなしく待ってる。
今日も一緒に寝ようなー。」
そう言って手を振る彼の姿が、扉の向こうに消えて行く。
マリューもきちんとドアが閉まり切るまで手を振り続けた。
完全に姿が見えなくなったのを確認すると。
「…さてと。」
ふう、と一息吐いた彼女は、また艦長席に座り直した。
「あの人も部屋に戻ってくれた事だし。仕事、仕事!」
やけに元気なマリュー。心なしか肌もつやつやして見える。
そんな彼女を横目に見ながら、その場に居た仲間達は皆一同に思った。
――どんなに場所を隔てても、どんな状況下でも。
周囲を気にせず二人の世界を造り上げられる彼等の事こそきっと、“正真正銘のバカップル”と言うんだろうな……、と。
FIN
あとがき
4444番を踏んで下さったマキ様のリクエスト『バカップルなムウマリュ』で書かせて頂きました。
このリクを頂いた時、「バカップルってどんなだろう…」と改めて考えてしまいました。
それで浮かんだのは
1.人目を憚らない
2.お互いを好き合って堪らない
3.とにかくいちゃつく
…以上三つです。
私のバカップルの解釈がマキ様と違ってましたらすみません(苦笑)
いつもより沢山の人物を登場させる事が出来て(と言っても殆ど台詞はありませんが/苦笑)個人的には満足しております、はい。
これはマキ(森川沙耶)様のみお持ち帰り可で御座います。こんな話で良ければどうぞ受け取ってやって下さいませ♪
出来れば「見たぞー」という簡単な書き込みかメールを頂ければ安心しますので、よろしくお願いします。
4444HIT有り難う御座いましたvV
(050105)
草下なずな様より頂きましたvV
素敵なお話ですよね♪
ありがとうございました(≧ω≦)
マキ(森川沙耶)
'05/1/7
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