あまやどり

ある日曜の午後、西遠寺内は珍しく静かだった。先程から降りだした雨のザーザーとうるさい以外は。
彷徨は自室で本を読み終え、居間へとやってきた。
「おい、ワンニャー。未夢はどこ行ったんだ?」
「あれ、彷徨さん。本読み終わったんですか?」
「あぁ。で、未夢は?」
居間でTVを見ていたワンニャーは、台所から顔を出した彷徨をみた。ルゥは、遊び疲れたらしく部屋の方で寝ているようだ。
彷徨は、キョロっと見渡してワンニャーに再度尋ねた。
「未夢さんなら買い物で出掛けてますが、なにか用があったんですか?」
「いや、宿題しようと思ったら教科書忘れたみたいでさぁ」
「そうなんですか。彷徨さんにしては珍しいですね。っていつの間に雨が降ってきたんですか!?」
ふと外をみて激しく降る雨にワンニャーは驚いていた。
「何言ってんだよ。もうかれこれ10分以上は降ってるぞ」
「そうなんですか? もしかしたら、未夢さん雨で困ってるのかもしれませんねぇ〜迎えに行った方がいいかもしれませんね〜」
ワンニャーは意味ありげにちらりと彷徨の方を見ながら言った。
彷徨はそんなワンニャーを見た後、窓の方を眺めた。がたがたと風も強く、雨は横殴りのように降っていた。
「しょうがねぇなぁ〜ワンニャー、俺迎えに行ってくるよ」
「すみません、よろしくお願いいたします。お風呂の方は沸かしておきますので」
「頼むぞ、ワンニャー」
彷徨はそう言うと傘を持ち、外へと出ていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その頃、未夢はどこかの家の軒下で雨宿りをしていた。恨めしげに見上げた空は黒い雲で覆われ、冷たい雨がとめどなく降り注ぐ。
地面に落ちる雨は勢いを増し、あっという間にあちこちで水溜まりを作っていた。
ちょっとワンニャーに頼まれて買い物に出たのに…と思い、片方の荷物と濡れた自分を眺め未夢は愚痴を零した。
「もうぅ〜〜ワンニャーのせいよっ!!」
ため息を吐き、空を見上げるもまだまだ雨足はひどくなるばかりだった。それでも、ここで雨宿りを始めてからかれこれ20分は経つ。
雨が横殴りに降るせいもあり、未夢はびしょ濡れと言ってもいい状態だ。
「もう…ここまで濡れてるし、走って帰っても同じかも……」
そんな風に考えるも雨の中をわざわざ濡れて走るのにも戸惑ってしまう。そうしていると、西遠寺の方角から雨音とは違う音が聞こえた。
ぱっと顔を上げて、そちらを向くと傘をさした彷徨が走ってきた。
「彷徨っ!」
「未夢っ…! ここにいたのか…」
「どうしたの? 彷徨…」
「どうしたって迎えに……ってすげー濡れてるな」
彷徨は未夢を上から下まで見ると、呟いた。
足元はびしょ濡れ、服も水気を含み、さらさらと軽やかな髪はじっとりと濡れている。そして、いささか顔色が悪いような気もする。
彷徨は訝しげに未夢をみた。
「あっ…うん。ここまで来るのに大分降られちゃってぇ〜……っくしゅっ!!」
あははっと笑いながら、可愛らしいくしゃみをしたので、彷徨は慌てて上着を脱ぎ肩にかけた。
「ったく、大丈夫か? タオルかなんか持ってくればよかったな」
「ありがと……あったかい…」
ほんの少しのぬくもりに未夢は少し頬を染めた。
「よっぽど、身体冷やしてんだな。さっさと帰るか…って……あ…」
「どうかしたの? 彷徨」
「お前の傘持ってくるの忘れた…」
なんだか、急いでいてすっかり忘れてしまっていた。我ながら、こいつの事となるといつもより調子が狂ってしまう。
「え〜〜じゃあ、どうするのよ〜〜〜」
未夢が不満げにいった後、彷徨は考えた。傘は1つしかない。ならば恥ずかしいけれど……。
「ちょっ…彷徨っ!?」
突然、腕を引っ張られ未夢は彷徨に肩を掴まれた。
「ちょっと…なんなのよ〜」
「しょーがねぇだろ! 傘これしかねぇんだから。これ以上濡れるよりはマシだろうが!」
肩と肩がぶつかる距離。途端に相手からの体温を感じて、未夢はぬくもりと恥ずかしさに照れるしかなかった。
彷徨はというと、未夢から伝わる冷たさに驚き、ふと斜め下の視界には濡れた服に透ける下着の線。
互いにどきどきと心臓を早め、西遠寺に向かう。でも、静かな雨の世界。
2人きりで、寂しい気持ちにもなりつつ、隣のぬくもりが、幸せにさせてくれる。
バシャバシャと2人分の足音。
「ほら、急げ。風邪ひいちまうぞ」
「う、うん……彷徨…」
「なんだよ?」
「あの、あのね……迎えに来てくれて、ありがとう」
真っ赤になりながら、未夢は満面の笑みを彷徨へと向けた。
どくん!と大きく心臓が跳ねながらも彷徨は悪戯っぽくベッと舌をだした。
「まっ、バカは風邪引かないっていうから、未夢は大丈夫だろうな」
「もぅ!! そうやってバカにする〜〜〜」
「だって、お前バカじゃん」
「うぅっ…」
ぷぅっと頬を膨らませる未夢が面白くて、彷徨は可笑しそうに笑った。
雨が止む事はなく思いがけず、相合傘をさして2人は笑いながら、ケンカしながら帰路についた。
その日は夜まで雨が振り憂欝な気分になったが、悪い1日ではなかった。
END
あとがき
うーん……。リハビリぃぃぃ〜?突発的に書いたのでいまいち……。
とりあえず、相合傘をかけてよかった…というべきか?ってか、書きたかったシーンは『お迎え彷徨くん』だったんだよね。
だから、相合傘はついでというか副産物です。ちなみにこの彷徨くんは未夢ちゃんにラブってます(笑)
では、読んで下さった方ありがとうございます(>_<)
2006/10/9