02


真っ白い世界――…
何もない世界――…

未夢は独りでその場所にいた。


――ここ…どこだろ…


キョロキョロと周りを見渡しても、真っ白い風景はなにも変わらない。
ものすごく不安になり、とりあえず足を動かしてみる。でも、自分が何処にいるのか、何処に立っているのかすらよく分からない。


――怖い、怖いよ…

――誰か……誰かいないの?

――パパ、ママっ……

――ルゥくん、ワンニャー…


――彷徨っ…何処っ!?


ぐるぐると周りを見渡せば一点に輝く光りが見えた。未夢は慌ててその方向へと走り出した。


――待って!!待って!!

――居なくならないで!!

――傍にいてっ!!


必死で追い掛けても光はどんどん遠くなっていく。未夢は泣きそうになり、その場に座り込んだ。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ただいま〜、ワンニャー? 未夢の様子どうだ?」


彷徨は学校から帰ってくると、居間に顔を出した。が、そこにいると思われた自称、『有能』なシッターペットの姿はなく、あるのは紙切れ一枚。


「買い物に行ったのか」


やれやれ病人を放ったらかしにして…と思いながら、彷徨は未夢の様子を見ようと部屋まで向かった。
お粥には手がついていなかったから、寝てるのかと思ったのだ。
さっきの事を思い出すと些か恥ずかしさと気まずさがあるが、やはり気になってしまう。動揺する気持ちを抑えながら、彷徨は声を掛けた。


「未夢? 調子どうだ? 開けるぞ?」


一拍置いてから、彷徨は遠慮がちに襖を開けた。そこには仰向けになって碧眼を閉じた未夢がいた。
そっと近寄り、顔色を窺うとさっき別れた時よりは大分マシにみえる。躊躇しながら、額に張り付いた前髪を除け手を当てた。


(――少しは下がったか?)


と、そこで未夢の閉じている瞳が濡れている事に彷徨は気付いた。指先でそっと拭い取ると、彷徨は口唇に触れた。

ほんの少し温かくてしょっぱかった。

そして、布団から出ていた手を入れようとして手に取った時、ギュッと未夢に掴まれた。


「え? み、未夢っ?」


不意の出来事に彷徨は顔を赤くしてしまった。声を掛けてみても、起きる気配はなかった。
彷徨は、もう一度声を掛けたが反応はなく未夢は安心しきったようにすやすやと眠っていた。


「………仕方ねぇなぁ…」


ポリポリと頬をかきながらも、思わず口元が緩んでいたのを誰も知らなかった。
普段は間近で寝顔なんてまず見ない。――そんな風に思い、ついマジマジと見てしまう。
光が丘や学校の奴らが未夢を『可愛い』だの『綺麗』だと話しているのを聞いた事が何回かあって、彷徨は三太に『そうなのか?』と尋ねた事があった。


――彷徨〜今更、何言ってるんだよ〜。光月さんってめちゃめちゃモテるんだぜ。素直だし、優しいし、性格いいし。外見だって抜群だし。


それを聞いて、少し腹がたったのだか、その後慌てたように付け加えた三太の言葉にちょっとホッとしたのも事実だった。


――ま、彷徨が近くにいるからみんな、あまりおくびに出さないでいるんだけどな。


とりあえず、俺がいる限り変な奴らは未夢に近寄らないみたいだ。まぁ、例外もいるけどな。

そんな風に思いながら、未夢をみた。今は繋いでいない手と未夢の肌の色を比べてみて、随分違う事に気付いた。


透き通るような真っ白い肌、薄紅の可愛いらしい口唇、今は閉じている大きな碧玉の瞳、キラキラと輝く金色の長い髪

確かに……可愛いかもしれない。


そんな風に思った時、ゆっくりと未夢の碧玉の瞳が少しずつ開いていく。



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



此処は怖くて嫌……

なんで誰もいないの――…?

独りはいや

独りは哀しい

独りは寂しいよ…


すると、ぱぁっと自分を光が包み込んだ。その暖かさに未夢はホッとした。


――あったかい……



暖かいぬくもりに未夢は、瞼を開けていく。なんだか、本当に暖かい―…

そう思った瞬間、横から声が掛かった。


「起きたか?」


―――え? 彷徨………?


そう意識した途端、ポロポロと涙が零れてきた。彷徨はぎょっとして珍しく慌てた。


「お、おいっ!? 未夢? どうした? どっか痛いのか?」


彷徨の言葉に未夢はただ首を横に振るばかりだ。



違う……違うの……悲しいんじゃない。
どこか痛い訳じゃない。

ただ……夢と現実がごちゃまぜになって……

ただ今の気持ちを表すならば

『嬉しいの』

ただそれだけなの………。


オロオロする彷徨に未夢は片手を上げて、制するようにした後、ごしごしと涙を拭って、顔を上げた。


「ごめん……なんでもないよ…」


恥ずかしそうにふわりと笑う未夢に彷徨はドキマギした。


「な、なんでもないって本当かよ? こっちはびっくりするぞ! いきなり泣かれたら!!」

「ごめん、ごめん。怖い夢みたら彷徨がいてびっくりしちゃったの…」


えへへ〜と笑う姿に彷徨ははぁ〜っとため息をついた。そして、ちらっと未夢を見ると


「怖い夢ってなんだよ」

「え?」

「どんな夢みたんだ?」

「え、えっとね―――…」



   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



未夢は夢の内容を話し終えた後、恥ずかしそうに顔を下に向けた。なんだか、子供っぽいような気がして彷徨に馬鹿にされそうに思えたからだ。
ちろっと彷徨の方へ視線を向けると急にぽんぽんっと頭を撫でられた。
彷徨を見ると優しい顔をしていて未夢は顔を赤らめた。


「な、なによっ……」

「いや、怖かったんだろ?みーゆちゃん」

「むぅ……バカにして! 子供扱いしないでよね!!」

「だって子供だろ? ぬいぐるみと一緒に寝たりして」


ニヤッと笑う彷徨に未夢はカッとますます顔を赤らめた。


「うぅ……だって…寂しかったんだもん」

「大丈夫だよ」

「え?」


もう一度彷徨の顔を見た時には、先ほどと違いからかう顔をしていなかった。


「未夢には、ルゥやワンニャーがいるし、友達だっているんだから……天地や小西たち心配してたぞ。そ、それに俺もいるし……すっげえ心配したんだからな!!」


視線を反らし、ぶっきらぼうに言いつつも顔が赤い彷徨をみて未夢はクスッと笑ってしまう。


「な、なんだよ……」

「うぅん…そうだね。みんないるもんね。ルゥくんやワンニャー、ななみちゃんに綾ちゃん、クリスちゃん、ももかちゃん、三太くん、望くん、水野先生、みかんさん…………それに彷徨がいるもんね。
 ありがとう、彷徨ってやっぱり優しいね」


ペロっと舌を出し、恥ずかしそうに話す姿に彷徨は恥ずかしさを隠すように口元を覆った。送って来た時の事を思い出す。


あれは………あの言葉の真意が気になって、口にしようとした瞬間


「ただいま帰りましたです〜未夢さーん、お体の調子いかがですか?」

「マンマ〜?」


タイミング悪く?ルゥとワンニャーが帰ってきた。
パタパタと歩く音と供に「ルゥちゃま待って下さい〜」というワンニャーの声が廊下に響いた。
襖が開かれる前に彷徨が開け、ふよふよ飛んできたルゥを抱っこした。


「パンパ♪」

「おかえり、ルゥ。ワンニャーどこまで行って来たんだ?」

「あぁ! 彷徨さん、おかえりになっていたんですね。未夢さんは?」


ようやく部屋の前に来たワンニャーは、ルゥを抱えてる彷徨に目をやり、未夢の方を向いた。


「私ならもう大分いいよ、ワンニャー」

「そうですか? すいません、すっかり遅くなりまして……ついつい特売に気を取られまして…」

「ったく! 病人がいるんだから、あんまり長く家空けるなよな〜」

「す、すみませんです〜〜」


彷徨に諌められ、ワンニャーは平謝りをした。その姿に未夢、彷徨、そしてルゥまで笑っていた。


「…はぁ、なんだかお腹空いちゃたな。」

「で、ではお食事に致しますね」


そうして、みんなで食卓を囲んで食事にした。その風景をみて、未夢はこっそり笑った。


(やっぱり、独りじゃないっていいな)



その夜、未夢はまだ熱が下がらないので早めに寝て、ルゥやワンニャーも眠った頃、一人、未夢の言葉に翻弄され眠れずにいた彷徨がいたのであった。

(くっそ〜〜! 未夢のせいで眠れねぇ〜〜〜!!)





END




あとがき

まぁ、所謂風邪ネタでございます。とりあえず書きたかったシーンは
・未夢ちゃん熱でうなされ本音をポロリ(しかも覚えてない)
・彷徨の手を握っちゃう
・彷徨くん、未夢の言葉に動揺

とこんなところでしょうか?最後は尻切れトンボですが……続き、書けたら書きたいです。
彷徨くんが未夢の科白に動揺して、その真意を聞こうと奮闘?する話(笑)


では、ここまで読んで下さってありがとうございました。感想頂けたら幸いです。


2006/10/14


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