01


た。 月明かりが注す西遠寺の縁側で、未夢は隣に座る彷徨に意を決して話し掛けた。

「かっ…彷徨っ!!」

「な、なんだよ?」

「えと…あの…」

「だから、なんだよ」

「あ、あのね。彷徨って好きな人とかいるのっ?」

「はぁっ!?」

(うわーん、こんなの聞くなんて恥ずかしいよ〜)

未夢は、真っ赤になる頬を押さえながら同居人である西遠寺彷徨に質問していた。
横目でちらりと眺めると、どう答えたらいいのか分からないような彷徨の顔があった。さすがに本人もいきなりの事で恥ずかしいのか目尻がやや赤くなっている。
未夢はこの時ばかりは、彷徨の同居人という立場を恨んでしまいそうになる。
事の発端は、今日のお昼休みだった。
屋上で、いつものようにななみちゃんと綾ちゃんとでお弁当を食べていた所へ、クリスちゃんをはじめとする西遠寺彷徨ファンクラブの人々がやって来たのだ。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「未夢ちゃんにどうしてもお願いしたい事がありますの」

最初に言ったのはクリスだった。

「私、最近どうしても気になる事がありまして…」

「どうしたの? クリスちゃん。私でできる事だったらなんでも相談にのるよ?」

「本当ですの? 本当に相談にのってくださいますの?」

キラキラと瞳を輝かせ、未夢の両手を掴みクリスはにっこりと笑った。

「う、うん。私でよかったら…」

「実は…彷徨くんに好きな人がいるかどうか確かたい。なーんて思ってしまったりして…そ・れ・で、未夢ちゃんに聞いて頂けないかと思いまして…」

「え…私が彷徨に聞かなきゃいけないの?」

「はい、是非っ!!」

握られていた両手をますます強く握り締められ、未夢はどうしようかとななみ達を見るが、二人はなんとなく憮然とした面持ちでクリスやファンクラブの人達を見ていた。

(どうしたんだろ? 二人とも)

未夢は不思議そうに二人を見るも、必死な表情のクリスやファンクラブの人たちを見てしまうと断る事が出来なかった。

「……えと…うん。分かった、彷徨に聞いてみるよ」

「「「「本当(ですの)っ!? ありがとう、未夢ちゃん」」」」

クリスたちはきゃあきゃあと喜びながら、にこにこ笑って屋上から出ていった。

「ちょっと、みーゆ!!」

「何? ななみちゃん」

「なに? じゃないわよ、あんな約束しちゃっていいの?」

「そうだよ、未夢ちゃん」

「いいって何が? クリスちゃん達の頼まれ事?」

未夢はきょとんと二人を見るが、そんな様子の彼女にななみと綾はため息を吐いた。

(なーんか、西遠寺くんが可哀相になってきた…)

(未夢ちゃんの鈍感にも困ったもんだよねぇ〜)

((……そこが未夢(ちゃん)の可愛いトコだけど))

「むぅ〜どうしたのよ〜二人ともこそこそとぉ〜」

ぷくりと頬を膨らませプンプンと怒る姿は、同性から見ても可愛すぎて…ななみは思わず未夢を抱き締めた。

「ぅぷっ!? ど、どうしたのよ、ななみちゃん」

「ん〜? だって、未夢があまりにも可愛くってぇ〜」

「あー、ずるーい。ななみちゃんばっかりぃ〜えいっ!!」

「あ、綾ちゃんまでなんなのよーっ!!」

焦る未夢や抱き締めているななみたちの姿を見ていた人達はクスクスと笑っていたが、一部の男子たちは(羨ましい…)と思っていたに違いなかった。

「でも、未夢ぅ? さっきのクリスちゃんたちのお願い本当に聞くの?」

抱き締めていた手を放し、ななみは真っすぐと未夢を見て聞いた。

「え、うーん。頼まれた以上はねぇ〜でも普通に考えたら恥ずかしい話だよね」

「まぁ、未夢がいいなら別にいいんだけど…」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そんなお昼休みの事を思い出し、未夢は、やはり断ればよかったかな…と思ったりした。
しかし、友達であるクリスたちの事を思うと協力してやりたいと思う反面、胸の奥が小さくツキンと痛んだりしたのも事実だった。
なんで、痛むのかは鈍い未夢にはまだ理解出来ないでいるのだが。
そして、黙ってしまっている彷徨を方を見てみると真摯な眼差しを自分に向けていた。鳶色の瞳に真っすぐ見つめられ、未夢はぱっと瞳をそらしてしまった。

(な…なんでそんな瞳でこっち見てるのよぉぉぉ〜)

急速に頬が真っ赤になっていくのを未夢は感じながら、そろ──っとまた彷徨の方を見るとまだ見つめられていた。

(ま、まだ見てるっ!? な、なんなの──っ!?)

「………それ…」

未夢が心の中でばたばたと暴れていると、ぼそりと彷徨が呟いた。未夢は慌てながらも回りをキョロキョロした。

「え? どれ? なに?」

「違うって。さっきの質問……聞いてどうするんだよ…」

「えっとぉ……(確か、帰る時にクリスちゃん言ってたよね…)」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『あ、あのっ…未夢ちゃん…』

帰ろうと思い、玄関まで歩いていると後ろから声をかけられた。

『ク、クリスちゃん? どうしたの?』

もじもじとして壁に隠れるようにそっと眺められてしまい、未夢はびっくりした。

『あ、あの…お昼休みの事ですが…彷徨くんに聞いた時理由は言わないで下さいっ!! も、もし私が聞いたなんて知られたら…か、彷徨くんに『好き』って気持ちが知られましたら、恥ずかしいですわ───っ!!』

『…………う、うん。分かったよ…』


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


繰り広げられた会話を思い出し、未夢は理由を考えてぽんっと手を合わせた。

「え─っと…そうっ!! き、気になって……え?」

くるっと横を向くと、真っ赤になって口元を抑えている彷徨がいた。

「え…彷徨? どうしたの? 顔赤いよ、熱でもあっ……」

手を額に差し伸べようとして、その手はグッと彷徨に掴まれた。

「……か、なた?」

「それって、そういう意味で取ってもいいのか?」

「そういう意味…って?」

「だ、だから…自惚れてもいいのかって──「未夢さーん、彷徨さーん。お団子ですよ〜」

真っ赤になったまま吐き出された科白は、トコトコ歩いて来たワンニャーに思い切り邪魔されてしまった。
未夢は慌てて手を振り払い、少し彷徨から離れてしまった。ドキドキする胸を抑えた。

(わ、ワンニャー…助かったよぉぉ〜)

彷徨はというと、気持ちがはっきりするチャンスを思い切り邪魔されてしまって、少し不機嫌になりワンニャーを睨みつけた。

(ワンニャーの奴…いいトコで邪魔しやがってぇ〜)

彷徨からの痛い視線を浴び、ワンニャーはびくびくしながらお茶を置いて早々に立ち去ろう(逃げよう)と思ったが、先に未夢が立ち上がってしまった。

「えっと…私もう寝るね。二人ともおやすみ〜…」

湯呑みとお団子1本を持ち、未夢はそそくさと自分の部屋へと歩いていった。
行ってしまった未夢の後ろ姿をワンニャーは、焦りながら思った。

(み、未夢さ〜〜ん。置いて行かないで下さ〜い ……う、後ろが怖いですぅぅ…)

「………ワンニャー」

「は、はいぃぃぃっ…」

「1週間、おやつ禁止だ」

「(も、ものすごく怒ってらっしゃいますぅぅぅ…)」

「……返事は、ワンニャー?」

「はっ、はいっ!!」


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


未夢は自室に戻り、襖を閉めるとストンっとその場に座り込んだ。

「……な、なんなの…?」

さっきの彷徨の行動に訳が分からなくて、未夢の頭は混乱していた。

いきなり、真っすぐ見つめられて

いきなり、手を掴まれて

しまいには、あの言葉は?

『そういう意味で取ってもいいのか?』

『自惚れてもいいのかって…』

そういう意味?
自惚れ?

えっとぉ…つまり…私が好きな人がいるかって聞いて、なんで?って聞かれて、クリスちゃんからバラさないでって頼まれたから、とっさに気になってるからって言ったら、真っ赤になって『そういう意味』って事は………
つ、つまり、彷徨は『私』が『彷徨の好きな人』が気になるから教えて。って言われたって思うって事よね。
だから、『そういう意味』って………私が彷徨を思ってるって取られたって事?

イヤぁぁぁ──っ!?

なんか、なんか、すっごく恥ずかしい事なんじゃないのっ!?
し、しかも『自惚れてもいいのかって』って事は……
彷徨って…私の事ぉぉ〜?
で、でもでも…彷徨って意地悪だし、いっつも私の事からかってるし、バカにするし………。
そ、そうだよね!!
きっと、さっきのもあんな質問したから、からかったに違いないよね〜〜。
自分に納得させるように未夢は、自分の考えにうんうんと頷いていた。それでも、掴まれた腕と赤く染まった頬の熱さはなかなか取れなかった。


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