02

翌朝、未夢はいつもより早く目が覚めた。
「…ぅにゃ?…まだ7時前……?」
もう一度寝ようと思ったが一度、目が覚めてしまってはなかなかもう二度寝が出来なかった。
いつもなら寝てるのに…。そんな事を考えながら、パジャマを脱ぎ制服に手をかけた。
こしこしと目を擦り、顔を洗おうと洗面所まで行くと洗顔が終わったのか彷徨が出てきた。
ぱちっと瞳が合ってしまい、未夢は慌てて顔を逸らした。
「「……………」」
なんとなくお互い気まずくて、『おはよう』という言葉のタイミングを外してしまう。
やだやだやだ──!!
思いっきり、顔反らしちゃったよ〜〜
未夢は焦りつつちらっと彷徨の方を見てみると、彷徨が哀しそうな瞳をしているのが目に入った。
えっ?と驚き、彷徨の方へ顔を向けた。
「どうしたの? 彷徨、元気ないみたいだけど…具合悪いとか…?」
そっと手を差し出せば、柔らかい前髪に触れながら彷徨の額に手を当てた。が、それはあっという間に振り払われてしまった。
「なんともねぇよ!」
「……あ、ごめん…」
しょぼんとした未夢に彷徨は慌てて謝った。
「い、いや……謝る事ないし……俺が悪かった…」
「う、うぅん!! こっちこそごめんね」
それでもまだ気まずい空気が流れてしまい、どうしたらいいのか分からなくなった。
未夢は、昨夜の事をとりあえず謝ろうと思い口を開いた。
「あ、あの…あのね……夕べの事だけど………なんかごめん…ね。実は、あれね、みんなに聞いてくれ。って頼まれたんだ〜」
どうせ彷徨にはすぐバレるような気がして、未夢は先に言ってしまったのだった。
彷徨はその事にはぁ〜とため息をつくと、チラリと未夢を眺めた。本当に申し訳なさそうな顔をして見上げてくる姿をみて、またまたため息をついた。
「………ま、そんなことだと思った。…………あんまり、そんなの頼まれてくるなよ」
ポンッと頭に手をやり、彷徨はその場から離れた。
未夢は頭に手を置きながら「うん…」と呟きなんとなく罪悪感を感じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
昼休み、未夢は一人屋上でボーっとしていた。
あの後、朝食を済ませ、遅刻はせずにいつも通りに学校へやってきた。
学校に着いてから、すぐにクリスちゃんや彷徨のファンクラブの人達に『聞いてくれた?未夢ちゃん!!』と押しかけられたのだ。
未夢はなんて言ったらいいのか分からず言い淀んでいると
『好きな奴なんかいねぇよ!』
彷徨がきっぱりと告げていった。
それでなんとか落ち着いたもののクリスちゃんやファンクラブの人達の彷徨へのアプローチが一層激しくなったのは言うまでもなかった。
そして、未夢は、彷徨とは普段通りに接しているとは思うけど、なんだか、胸の奥がもやもやしている。
「はぁ〜…」
未夢はため息をつくと、空を仰いだ。不意に目尻が熱くなり、涙が出そうになる。
昨夜のあの言葉はなんだったのだろう?
──そういう意味
──自惚れ
なにが? そういう意味なの?
なにが? 自惚れなの?
彷徨からの言葉がぐるぐると頭の中を巡った。
そして、朝のあの言葉。
『好きな奴なんかいねぇよ!』
ズキンっと心が痛んだ。きっと、昨夜の言葉に色々期待していたんだ。
(馬鹿みたい!私って!!)そんな風に思いながら、またため息をついた。
本当…バカみたい……
私、彷徨の事……好きなのかな?
だから、こんなにも胸が痛くて、苦しくて……悲しいのかな……
気がつけば、頬に熱い涙が伝っていく
「あれ?……やだっ」
いつの間にか泣いている自分に驚いた。
こんな風に涙が出るまで彷徨の事好きだったなんて分からなかった。知らなかった。
そして、期待していたのだ。今朝のクリスやファンクラブの人達に『好きな人がいる』ときっぱり言ってくれるのではないかと。それば自分の事なんだと。
───自惚れてたのは自分だ
そう思ったら恥ずかしくて堪らなかった。自意識過剰な自分が恥ずかしかった。
その時、校舎への扉が開き、そこに立っている彷徨に未夢は慌てて顔を見られないようにした。
が、彷徨は未夢が泣いているのを見てしまい驚いて近付いた。
「未夢、どうしたんだ? なんかあったのか?」
「……な、なんでもないよ」
目元を手で隠す未夢に彷徨は怪訝そうな顔をして
「なんでもないなら、なに泣いてんだよ……」
困ったように彷徨の声が尻窄みになる。未夢ははっとして、顔を上げた。途端に鳶色の瞳とパチっと目があってしまう。
刹那、胸が──ドクン!と跳ねたような気がした。
「あ……えと…その……」
なんと言っていいのか分からず、未夢は両手の指と指を合わせていた。
その姿がまたなんとも可愛いらしく見えて、彷徨は口元を手で覆った。
「「……………………」」
お互い、何を話せばいいのか分からなくなり沈黙が襲った。
不意に冷たい風が吹き、未夢が「くしゅん」と可愛いくしゃみをした。
「…あ、中入るか」
彷徨がそう切り出し、校舎入口へと足を向けた時、未夢は声を上げた。
「かっ…彷徨っ!」
「な、なんだよ。いきなり大声出して……」
「あ、あのね……ゆ、夕べ言ってた事なんだけど……」
「…あ、あれは………もういいだろ、関係ないし」
真っ赤になるながら叫ぶ未夢に、彷徨は驚いていたが内容が内容だけに恥ずかしさから顔を逸らし、ぶっきらぼうに言い放った。
「ほら、そんな事よりさっさと教室に──!?」
再び、振り返って見るとボロボロと涙を零す未夢がいた。
「み、未夢っ!? どうかしたのか…」
彷徨は慌てて、未夢に近づくが未夢は後退った。そして………
「………んなのよ……」
「え?」
「……関係ないなら………あの事はなんだったのよ!!」
そっぽ向いたままでぼそりと小さな声を出したかと思えば、急に自分に対して強い口調になった未夢に彷徨は混乱した。
「未夢?」
「自惚れとかそういう意味とか、散々期待させといて、好きな奴いないとかって、馬鹿みたいじゃない!! それでなくてもそのせいで、彷徨の事ちゃんと見れなくなってこっちは………」
ぐっと泣きそうになるのを堪えて、未夢は言葉に詰まった。そして、自分の言った事に恥ずかしくなってきた。
──もう 訳分かんない!!
色々な感情が入り交じって手の甲で口を押さえた。
逃げ出したくなり、俯いたまま彷徨の横を追い越そうとして──ぐいっ!と腕を掴まれていた。
「未夢っ…今のって……あの…」
「な、なによ〜 離してよ〜…」
すっかり涙声にぶんぶんと手を振り回せば、強い力で肩を掴まれた。と、次の瞬間バフリっと彷徨の腕の中に収まっていた。
(……え?)
「それはこっちの台詞だぞ! お前の方こそ散々期待させといて、実は頼まれたから。なんて、舞い上がった俺が馬鹿みたいじゃないか!!」
「で、でも! 彷徨、クリスちゃんたちに『好きな人いない』って言った」
「そんなもん嘘に決まってるだろ! 夕べの事考えれば分かるだろ!!」
「分かんないわよ!」
「だから、お前は鈍感だっていうんだよ! あの状況で分かれよ」
ため息混じりに呟かれ、未夢はムッとした。
「そ、それこそ、早とちりして自惚れたらバカみたいじゃない! 女の子はね! ちゃんと言って貰わないと分からないのよ! 信じられないの!! 言葉で言われないと!!」
そうだ。信じられない。
勘違いだったら?早とちりだったら?自分の思い込みだったら?
それこそ立ち直れない。──明確な言葉が欲しいのだ。
「なんで…お前は〜〜…。普段どうでもいい時は勘違いしたり、早とちりするくせに……」
「なによぅ〜彷徨の普段の態度で分かれっていう方がおかしいじゃない。いつだって、バカにしたりするくせに!」
「だって、お前可愛いんだもん」
「なっ! なによ!? それ!!」
「そうやって、ムキになるトコとか、俺は好きだけど?」
「〜〜〜〜……バカにしてるの?」
「してない(今はな)。で? 俺は自惚れてもいいわけ? 光月未夢ちゃん?」
不意に抱きしめられてた体が離れ、顔を上げるとコツンと額と額をくっつかせられた。
見つめられる視線に頬がますます赤くなっていく。
「えと……その………だ、から……きちんと言って?」
目を泳がせつつ、ドキドキしながら上目遣いで彷徨を真っ直ぐ見た。彼も頬が少し赤い。
そんな雰囲気に胸が期待で高まっていく。それは彷徨も同じで、心臓が鷲掴みされた気分。
はぁ〜〜と大きくため息をつくと
「未夢が好きだよ」
するりと口から出た言葉。
その言葉に未夢は嬉しそうに笑ってから口を開いた。
「わたしも…彷徨の事好きみたい」
「……なんだよ、みたいって」
「だって、さっき気付いたんだも─ん」
ややムッとした彷徨に未夢はペロっと舌を出して笑った。そして、二人笑い合うと、見つめ合う瞳はやがてゆっくりと閉じて口唇を重ね合わせた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
───なんかクリスちゃんやファンクラブの子達に申し訳ないな……
───しょうがねぇだろ!……俺はお前が好きなんだから
───そ、そんな恥ずかしい事簡単に言わないで!!
───なんだよ!さっきは口に出さなきゃ分からないって言ってたくせに!!
───と、時と場合によるのよ!!
───ふーん
───な、なによ〜
───べっつに〜
───そういうんだからねぇ〜 分からないのよ!!
───あのな〜〜仕方ないだろ! 簡単に口にするのは俺だって恥ずかしいんだぞ!!
───………彷徨!
───なんだよ…
───大好き!
───……ばーか! 俺もだよ。
自惚れ?
勘違い?
早とちり?
それでも、期待せずにはいられないのは相手も同じ気持ちだから。
END
あとがき
ようやく書き上げました。
なんとか水没した携帯からサルベージしての小説。
元ネタは、SEEDで書いた話をだぁ!用にしたのですが、思いきり長くなりました。
まぁ、こちらの彷徨くんは最初から未夢ちゃんが好きなんですよ。未夢ちゃんは鈍感故に彷徨から色々言われるまで自分の気持ちに気付かない!という話です。
自惚れちゃう話が書きたかったような気がしますが、如何でしたでしょうか?
よろしかったら感想お待ちしてます。
2006/11/10