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2月──。
平尾町商店街は、赤やピンクに彩られていた。

「ひえ〜、すごい人だね〜」

「ま、年に一度のイベントだからね〜」

「そうそう、やっぱり女の子にとっては一大イベントでしょ」

未夢、ななみ、綾の三人はとあるファンシーショップに来ていた。お店の一角に設置されたバレンタインコーナーにはたくさんの女の子が群がっている。
義理チョコなのか同じチョコをたくさん買う女の人もいれば、友達ときゃーきゃー騒ぎながら選ぶ女の子たち、そして本命の為なのかさっきから真剣な顔をして店内をウロウロしている女の子。
既製品のチョコも豊富にあれば、手作り用の普段はあまり見かけない商品がたくさん出回っているようだ。

「すごい人ですな〜」

「ま、私らも人の事言えないけどね〜」

「結局、買いに来てるんだしね」

未夢たちもその群れに入ろうとは思うのだが、あまりの熱気になかなか近寄れない。
バレンタインも近いという事でみんな買いに来ているようだ。

「そういえば、ななみちゃんと綾ちゃんは誰かあげる人いるの?」

「私は家族に上げようかと思ってるの。あとは………」

「「あとは……?」」

ななみの言葉に未夢と綾は言葉を続けた。

「…………黒須くんにあげてもいいかなって…」

「ええ〜三太くん!?」

「未夢! 声でかいっ!!」

ななみにとっさに手で口を塞がれ、未夢は暴れた。
隣にいた綾は、ふーんとにやにやしながらななみを見ていた。その視線に気付いたのか、ななみは半目になった。

「……なーに、綾。なにか言いたそうね」

「べっつに〜〜あ、でもそろそろ未夢ちゃん離してあげた方がいいよ」

指を辿って見てみれば、うっかり口を押さえられたまま顔を真っ青にさせている未夢がいた。

「ぎゃーっ! み、未夢ごめーん!!」

「ひ、ひどいよ……ななみちゃん……」

ふらふらとなる未夢にななみは手を合わせ、謝っていた。

「そういう未夢ちゃんは誰にあげるの? やっぱり西遠寺くん?」

「え? うーん…まあ一応あげなきゃ…かな? 色んな人からいっぱい貰うだろうけど。あとは、ルゥくんとワンニャーっとと…親戚のお兄さんとパパ…には送って……」

「「……一応なんだ…」」

ぶつぶつ言っている未夢を眺め、ななみと綾は呟いた。未夢に聞こえないように顔を見合わせた。

「……ま、西遠寺君は貰えるの待ってるだろうし」

「いいんじゃないかな〜って進展しないね…」

誰が見ても二人は好き合ってるようにしか見えないのだが、とにかくこの少女が鈍いというか自覚がない為くっついたりしないのだ。
ななみと綾は、まだなにか呟いている未夢をみて、ため息を漏らすのだった。
三人はその後、色々なチョコを見ながら「あれ可愛い」「美味しそう」などと言いながら色々と眺めていた。
ななみたちが色々見ている時、未夢は彷徨の分だけ決まっていなかった。
ルゥやワンニャー、ペポには中くらいのチョコを決めて、綾やななみ、クリス、三太、望、たちには小さい友チョコを買った。
後は彷徨のだが、ピンっとくるものがない。ふらふらと眺めていると「手づくりチョコキット」が目に入った。

「……手づくりか…よし! これにしちゃおう〜っと!」

失敗したとき用にとニつ買ってななみたちと合流した。戦利品をもち三人はほくほくしながら、その後お茶をして西遠寺に帰っていった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「パパにはアメリカに送ったし、とりあえず作りますかっ!」

買ってきたチョコをペポに食べられないように隠し、まだ誰も帰ってきていない西遠寺の台所に立った。

「う〜ん、上手く出来るといいんだけど…」

不安になりながらも鍋を片手にチョコ作りに専念した。時折、ガシャーン!などと激しい音がしたり、悲鳴が轟いたのはいう間でもなかった。

「ふぃ〜、なんとか出来ましたよー」

四苦八苦して出来上がったチョコは、お世辞にも美味しそうとはいえないが、小さめに作った試作チョコはなかなか美味だった為、大丈夫だろう。と判断した。

「わっ! もうこんな時間!? 彷徨やルゥくんたち帰って来ちゃう」

わたわたと辺りを片付け、作ったチョコを箱に入れてラッピングすると他のチョコ同様隠しに行ったのだった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


バレンタイン当日
凜とした寒さがあったが、空は吸い込まれそうな蒼い空だった。

「わー、いい天気♪」

買っておいたチョコを持ち、未夢は居間へと顔を出した。

「おはよう♪」

「マンマっ! おっは♪」

「ペポ♪」

「おはようございます、未夢さん。なんだか機嫌がいいですね」

ルゥ、ペポに挨拶し、台所から顔を出したワンニャーに未夢はにこにこと笑い返した。

「ん〜? だって天気いいし……あれ? 彷徨は?」

いつもならいるはずの姿がない為、未夢はキョロキョロした。

「彷徨さんならもう学校に行かれましたよ」

「えっ、もう!?」

「なんでも日直だからとか言ってました」

「あ〜…彷徨、今日日直だっけ」

昨日、そんな事を夕食の時に言っていたのを思い出した。

(じゃ、後からでもいっか)

手にあるチョコを眺めてから、未夢はルゥたちに目を向けた。

「それじゃ、先に渡しちゃうね! はい、バレンタインのチョコだよ」

ルゥ、ペポ、ワンニャーに手渡すと三人(?)はとても喜んでくれて、未夢は顔を綻ばせた。喜んだワンニャーは、いそいそと未夢の朝食を準備した後、チョコを開けていた。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おはよう」

教室に入ると、いや学校へ来る途中からバレンタインという事もあり、女の子も男の子もわくわくそわそわとした雰囲気だった。

「おっはよー、未夢」

「おはよう、未夢ちゃん」

「おはよう。ななみちゃん、綾ちゃん。はい、友チョコ」

席に鞄を置くと寄ってきたななみと綾にチョコを渡した。

「サンキュー、未夢。はい、私から」

「ありがとう、未夢ちゃん。これは私から」

「ありがとう、ななみちゃん、綾ちゃん」

そんな会話をしているとガラリっとドアが開き、女の子の集団が入って来た。

「「「「西遠寺く〜ん! チョコ貰って〜〜!!」」」」

「……お、おぉ…サンキュ…」

見れば、彷徨の机の上には沢山のチョコがあった。未夢は口をあんぐり開け、驚いていた。

「すっごーい、彷徨! 朝でこんなになの?」

「……うるせーな」

「む、なによ!その言い方」

未夢の反応に、彷徨はふんっとそっぽ向いた。

「西遠寺くん、相変わらずモテモテだね〜。これ全部一人で食べるの?」

「ななみちゃん、よだれ〜」

チョコの山を眺めながら話すななみに綾は苦笑した。

「いいよな〜、彷徨は〜」

彷徨の前に座っていた三太は羨ましそうに眺めていた。そんな三太を見て綾はにやにや笑い

「大丈夫だよ、黒須くん。もしかしたらチョコ貰えるかもよ〜」

「えー、なになに? もしかして三人とも俺にチョコくれるとかっ!?」

「義理チョコでよければあげるよ〜ね、未夢ちゃん!」

「うんうん、私たちは義理チョコだけどね〜」

ちらっとななみを見ると少し頬を赤くしていた。

「じゃあ、これは私からのチョコね」

「私からはこっち」

未夢と綾は小さいチョコを三太に渡すと彼は目を輝かせていた。そして、ななみをみて少しだけ緊張した赴きで話し掛けた。

「て、天地さんは……?」

「っ!! しょ、しょうがないわねっ! はい、チョコよ」

それは未夢や綾からとは違って普通サイズだが、特別な包装をされていた。

「あ、ありがとう〜〜とっても嬉しいよー!!」

涙ぐむ三太に未夢と綾は苦笑し、ななみは照れ臭いのかそっぽ向いていた。ただ、彷徨だけはなんだか面白くなさそうに三太がもらった未夢からのチョコをみていた。

(……未夢のやつ、俺にはないのかよ)

そんなことを考えていると薔薇を撒き散らし、光が丘がやってきた。

「やあ〜、彷徨くん! どのくらいレィディーたちからもらったんだい? 僕は三十個を越えたよ! っと、やあ! 未夢っち、小西さん、天地さん。今日もエレガントだね〜」

彷徨の側にやってくるも未夢たちを発見して、薔薇を渡していた。

「わあ、光が丘くんもいっぱいもらってるんだねー」

「ふふっ、小西さん。恥ずかしがることはないよっ!」

「べつに恥ずかしがってる訳じゃないけど、はい、義理チョコ」

「あ、私もはい。望くん、チョコ」

「ああ〜、未夢っちからチョコを貰えるなんて僕はなんて幸運なんだ〜〜」

ギュッと未夢の手を握った。未夢はアハハハハ〜と苦笑するしかなかったのだった。
さすがに彷徨は、未夢が光が丘にチョコを渡した時には目を見開いた。そして、カタンと椅子から立ち上がるとそのまま教室から出て行った。

「おい、彷徨? どこ行くんだっ!?」

三太の呼びかけにも無視して彷徨はいってしまった。

「未夢〜、いまのはやばいんじゃない?」

「そうだよ、西遠寺くんの前で光が丘くんにチョコ渡すなんて〜」

「え? え? なんで?」

「ヤキモチ妬いたんじゃないの?」

綾とななみはそう言って顔を見合わせて頷いていた。
未夢はまさか彷徨に限って…と思ったが、チョコを渡していないのに気付いて彷徨に用意したチョコを持って追い掛けることにした。

「ちょっと、彷徨探してくる」

パタパタと髪を靡かせて未夢は教室から出て行った。


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