キライキライも…?


ざわざわとした実習室内にて、未夢は鍋の中身を焦がさないように混ぜ合わせていた。
本日の調理実習は『手作りお菓子』を1品。まぁ、お菓子ならなんでもいいという訳で…女子たちはかなり張り切っていた。
ちなみに男子はこの日は技術の授業になっており、実習室は女生徒たちで大盛り上がりである。
その理由は、好きな人にプレゼントするとかしないとか…。そんな思いなのか、それぞれクッキー、カップケーキ、パイ、シュークリームなどと色んなモノが繰り広げられていた。
無論、クリスは彷徨にあげようと張り切ってアップルパイを作っているし、他の女子も彷徨にあげるのかさっきから『西遠寺くんに』という言葉が飛び交っていた。

「うぅっ…大丈夫かな? こんなんで…」

本来、未夢は料理が得意ではない。強いていえば苦手な方なのだ。が、それでも危なげな手つきで頑張っているのだった。

「みーゆ♪ねぇ、未夢は何作ってるの? あとで取り換えっこしない?」

ななみがにこにこしながら話し掛け、そばにいた綾も興味があるのかななみの後ろからひょこりと顔を出した。

「ななみちゃん、綾ちゃん。いいけど…上手に出来るかどうか…あははははは〜そういう2人は何作ってるの?」

「ん? わたしはね〜数を優先してクッキーよ。綾はドーナッツだってさ。」

「そうそう。未夢ちゃんは…何?」

「わ、私はえーっとね…プリン作ってみようかなーって…えへへ〜」

「へぇ、おいしそうだね。これってかぼちゃ?」

作業台の上にのってるかぼちゃの残骸を目にし、ななみが聞いてきた。
その途端、未夢の頬が少しだけ赤く染まった。

「う、うん…ほらっ、たまにはかぼちゃプリンってのもいいかなぁ〜って思ってさぁ〜」

「…ふぅ〜ん」

意味ありげな視線をよこすななみに未夢は、真っ赤になったまま鍋の中身を混ぜ合わせた。
もともと、プリンは未夢の大好物であったが、それに『かぼちゃ』を加えてしまうのは、やはりあの『同居人』のせいなのだろうか…
混ぜ合わせた生地をこし器でこすと耐熱容器に流し込み、フライパンに入れてお湯を注ぎ、蓋をして中火にかけて蒸し焼きにする。
蒸し焼きの間、カラメルソースを作るため小鍋を用意し、砂糖・水を入れ混ぜながら焦がしすぎないよう注意しながら、焦がした。
なんとか、出来てホッとしていると余ったかぼちゃが目に入った。

(かぼちゃ余っちゃった…どうしよ…)

「なになに? かぼちゃ余っちゃったの、未夢ちゃん」

「うわぁ〜っ!?」

不意に後ろから声がかかり、未夢は奇声を発してしまった。振り向くと、そこにはドーナツを揚げている綾の姿があった。

「あ、綾ちゃ〜〜ん…脅かさないでよぅ〜」

「あ、ごめんごめーん。それで? かぼちゃ余ったの?」

「…う、うん。でも持って帰って煮付けにでもするよ〜」

なんだか、分からないけどあはははは〜と笑ってしまうのは《かぼちゃ》と単語に反応してしまう自分が恥ずかしくてだ。

「そんな慌てなくても…あっ。じゃあさ、余ったなら私のドーナッツと混ぜてみない?」

「へ?」

「私もねぇ、材料余っちゃって…パンプキンドーナッツとか美味しそうじゃない?」

綾は台に余った材料を指差しながらにこにこと答えた。未夢は、うーん。と悩むと綾をみた。
確かにこの中途半端な量を持ち帰っても、煮付けには足りない。それよりも《パンプキンドーナッツ》という言葉にいくらか惹かれてしまう。

美味しそうだし…なにより彷徨が喜びそう──…

とそこまで考えて、頭をぶんぶんと振った。

(なっ、なんで彷徨の事なんて浮かぶのよっ!!)

やや顔を赤らめ、百面相している未夢をみてななみはにやにや〜と笑い

「みーゆ、なーに赤くなってるのぉ〜? ははーん、さては西遠寺くんにあげること考えてるのぉ〜」

「なっ、なに言ってるのよ。ななみちゃーん。そんな訳…」

「ふっふふ…未夢ちゃんはきっと作ったお菓子を彷徨くんにあげますのね。それを嬉しそうに受け取る彷徨くん…『かなた〜私の作ったお菓子食べてぇ〜』『未夢、きみの手作りお菓子が食べれるなんてとても幸せだよ』『やっだぁ〜かなたったら〜隠し味は私のたーぷっり入った愛よ。あーんしてぇ』『あーん…』そして二人はめくるめく愛の世界へぇぇぇぇぇっ!?」

独特のメロディと供に瞳を光らせ、彷徨くんエプロンを身につけたクリスが背後に立っていた。今にも暴れだしそうな雰囲気に未夢は慌てた。

「く、クリスちゃんっ!! ないない。そんな訳ないよ。これはルゥくんにあげるんだよぉ〜」

「あら、そうでしたの。おほほ♪」

未夢が慌てて否定をすると、クリスはふわりと笑顔を振りまき自分の作業台へと戻っていった。

「…な、なんなの……」

未夢は疲れたらしくヘナヘナとその場に座り込んだ。

「みーゆ、大丈夫?」

「う、うん。なんとか…ありがとう」

ななみが手を出してくれたので掴まり立ち上がった。
ななみは、やれやれといった感じでクリスやファンクラブの面々を眺めていた。

「しっかし、これじゃあ西遠寺くん。今日大変だろうね〜」

「全く、あんなヤツのどこがいいのかしらっ!!」

「そりゃあ、スポーツ万能で成績優秀、ましてあの顔だしねぇ」

「そうそう、だから未夢ちゃんぼんやりしてると誰かに取られちゃうよ〜」

「なっ…何言ってるのよ。綾ちゃん!! 私には関係ないわよっ」

顔を真っ赤にしながら怒鳴る未夢を見て、ななみと綾は(やれやれ…)と苦笑いをした。
その後、余った材料を合わせプチドーナッツを作って、少量ながら未夢がもらうことになった。

「え? 綾ちゃん、ななみちゃん1個ずつでいいの?」

「うん、いいよ。いいよ。もともと余りだし、私が貰うよりルゥくんにあげて」

「う、うん。ありがとう」

「うぅん、未夢ちゃんもプリンありがと。美味しかったよ」

「うん、私も美味かったよ。未夢」

「うぅん、こっちもクッキーありがとうね。ななみちゃん」

未夢の手には自分が作ったかぼちゃプリンとプチドーナッツ(かぼちゃ入り)が4個程あった。
プリンはともかく、ドーナッツは余った材料から6個しか出来なかったのだ3人で分ければ1人2個ずつになるのに、綾とななみは1個でいい。と言い張ったためである。
お互いに作った物を交換し、3人は帰り道で別れた。

「じゃあ、また明日ね」

「「うん、バイバーイ」」

歩いていく未夢の後ろ姿を見て綾は呟いた。

「未夢ちゃん、西遠寺くんにあげるのかな〜?」

「あげるんじゃない。だってプリン、あと2つあったしさ、1つはルゥくんのだとしたら、残るはやっぱり西遠寺くんのでしょ」

「そうだよね、いいよねぇ〜好きな人に手作りお菓子を渡して告白なんて乙女の王道だわっ!! 今度の劇に使おうかしらっ」

「……おいおい」

綾の妄想にななみは苦笑いするしかなかった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ただいま〜〜」

「マンマ〜おっかぁ〜(おかえり)」

ガラリと玄関の戸を開けると、ルゥがふわふわ飛んで出迎えた。未夢はルゥを抱きかかえると、にっこり笑い

「ただいま、ルゥくん。えっへへ〜ルゥくんにお土産があるんだよ〜」

「う?」

「あ、未夢さん。ちょうどよかったです。私これから夕飯の買い物に行ってくるので、ルゥちゃまをお願いしたいのですが…」

「うん、わかった。いいよ」

「では、お願いいたしますぅ。ワンニャー」

ボボンっと音をたて、ワンニャーは近所の奥さんの姿に変身して出かけていった。
未夢はルゥを抱っこすると部屋で着替えて、居間にいった。
ガサガサと紙袋から今日作ったプリンとドーナッツを取り出した。

「ほら、ルゥくん。今日私が作ったんだよ〜」

「あーぃっ」

「はい、あーん」

「あーっ…」

プリンをスプーンで掬い、ルゥの口に入れると気に入ったのかパクパクと食べてくれた。

「おいしい? ルゥくん」

「あいっ」

「そっかぁ〜よかった」

笑顔で答えるルゥに未夢はにこにこ笑い、まだあるプリンに目をやった。

かぼちゃのプリン…彷徨、食べるかな…?あ、でも…きっと彷徨の事だから、女子からいっぱい貰っただろうし…私のなんて、いらないよね…

そんな風に考えると自然に顔が曇っていたのか、ルゥが心配そうに覗き込んでいた。

「マンマ…?」

「あっ…なんでもないよ〜はい。あーん」

「あーっ…」

慌てて笑顔を作りプリンを食べさせると、ガラガラガラと玄関の開いた音がした。

『ただいま〜』

「パンパっ…」

ちょうど彷徨が帰ってきて、ルゥは嬉しそうにスィ〜っと飛んでいった。

「あっ、ルゥくん」

掬ったプリンが零れそうになり、未夢はそれを口に入れた。甘いかぼちゃが口に広がった。


   ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ただいま…って何食ってんだ?」

振り向くと、紙袋を抱えた彷徨が立っていた。紙袋からは可愛らしいラッピングが見え隠れする。
未夢は顔を一瞬哀しげにするも、笑顔にすぐ切り換えた。

「あぁ、調理実習で作ったプリン。ルゥくんに食べさせてたの」

「へぇ〜…」

「な、なによ…」

「いや、こっちのは?」

横に座り、テーブルに乗ってる小さなドーナッツを指差した。

「あ、それは綾ちゃんが材料余ったからって一緒に作ったドーナッツだよ」

「食っていい?」

「え、いいけど…あ、ルゥくんやワンニャーの分残してよっ!!」

「へいへい…」

彷徨が口にドーナツを放り込んだのを見ながら、未夢は内心どきどきしていた。

「これってかぼちゃ入ってんのか?」

「え、あぁ。うん。かぼちゃも余っちゃってね、それで混ぜて作ったのさぁ〜」

ドーナツの中にかぼちゃの餡が入っていたので、とたんに彷徨の顔が嬉しそうになったのを見て、未夢は笑いながら答えた。

「なんだよ、ニヤニヤ笑いやがって…」

「いやぁ〜すぐにかぼちゃに反応するなんて、さすがですなぁ〜ってね」

「なんだよ、それ。バカにしてんのかよ。」

「いいえ〜バカになんてしてないよ〜〜」

「その態度がバカにしてんだよ」

ニヤニヤ笑う未夢に彷徨は、少々照れ隠しで睨んだ。

「あれ? でもこれって余って作ったんだろ? じゃあ、お前は何作ったんだ?」

「え、だから、これだよ。ルゥくんに食べさせてたプリン」

テーブルに乗せられたまま、もうほとんど残ってないプリンを指差し未夢が答えると

「俺の分はない訳?」

彷徨は、ちらりと手のついてないプリンを見て、じーっと未夢の方へ視線を向けた。未夢はドキっとしながら聞いてみた。

「え? な、なんで?」

「なんでって、なんで? ルゥのはあって俺のはない訳? これ、かぼちゃだろ?」

ついっとプリンを指差しながら、彷徨は未夢の顔を見た。

「そうだけど…なんで分かったの?」

「ドーナッツは余った材料で作ったって言ったろ。ドーナッツの材料はそのままだとしたら、かぼちゃの余りはそのプリンからだろ」

「……そうだけど、なんで彷徨にあげなくちゃいけないのよ、私の分よっ!! これは」

まだ手のついてないプリンを持ち、未夢は口へと持っていった。

「お、おいっ…俺にも寄越せって」

「いやよっ、なんで彷徨なんかにぃぃ〜他の女の子からいっぱい貰ってるでしょ」

そして、また一口プリンを頬張りプイッと横を向いた。
その行動が可愛くて…気にしてることが嬉しくて…彷徨はニヤりと笑うと

「じゃあ、直接貰う」

言うなり、未夢の顔を自分に向けさせると口唇を重ねた。

「へぇ〜未夢にしては美味いじゃん」

「なっ…何するのよーっ!?」

顔を真っ赤に染め、口唇を押さえながら未夢は怒鳴ったが、彷徨はベッと舌を出しながら

「未夢がくれないからだろ。それにしても結構甘いな…」

「バカにしてぇぇぇ〜〜!! 彷徨なんて、彷徨なんてっ!! キライ、キライっ!! 大っキラ──イっっ!!!!」

ゆでだこのように赤い顔の未夢を見ながら、彷徨は口元を手で抑え可笑しそうに笑っていた。

「……な─んかさぁ〜」

「なによっ!! なにが可笑しいのよっ!!」

プンプンと怒る未夢は彷徨を睨み付けるが、彷徨は笑いながら

「そう『キライ、キライ』って言われるとさ、本当は『好きだ』って言ってるように聞こえるんだけど…」

「なっ!!!?」

「本当のトコはどうなんだ? み─ゆちゃん」

意地悪そうに笑いながら、近づく彷徨に未夢は真っ赤になって、叫んだ。

「〜〜〜〜〜〜っか、彷徨なんてっ大キライよ────っ!!!! バカ───っ!!!!」

ドンっと彷徨を突き飛ばし、未夢は部屋の方へと駆け出していった。
彷徨は、くしゃりと前髪を掻き上げ額を手で覆うと、ほんのりと頬を赤く染め

「………あんな顔して……信用出来るかっつ―の……バ──カ…」

食べかけのプリンを口へと運べば、甘みが口中に広がった。
カスタードプリンが好きなくせに、かぼちゃのプリンを作ってくれて、期待しない方がおかしい。
そんな事を思いつつ、浮かんでるルゥを見ながら苦笑した。

「………ママも素直じゃないけど、パパも素直じゃないな」

「あーいっ」



END


あとがき

予想を越える長さになりました。携帯で書いてて文字数が足りなくなるなんて、初めての出来事です(笑)
さて、今回もなんか分かんないですね。もうリハビリ、リハビリ…で、これってなんなの?

ちなみに書きたかったシーンは最後の未夢と彷徨のやり取りです。
「キライ、キライ」と叫ぶ未夢ちゃんに対し、「好き」って言ってるように聞こえるんだせ。という彷徨。それだけの為に書いた話でした。

しかも、途中でルゥくんの存在が…なくなってますな(苦笑)口喧嘩してる間は、もちろんふよふよ浮いてました。
泣かなかったのは彷徨の気持ちをわかってたし、目の前で(強引だが)キスシーン見れたから(ぇぇ〜)

なにはともあれ、精進しなくてはね。それでは、読んで下さってありがとうございました。


2006/09/05


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